禍話リライト「放送室」マルノミヤコ君提供
放送室の話なんですけどね。
どの学校にも七不思議みたいな話があると思うんですよ。
この学校には、放送室にユリコさんという幽霊が出るという話があったんだそうです。
ユリコさん、かなり熱心に放送に打ち込んでいた、ちょっと病弱だったけど一生懸命やっていました。
しかし残念なことに、病気になって卒業する前に亡くなってしまったんです。
その思いが残っていて、ときどき昼休みの校内放送の中にユリコさんの声が混じっている、
「今日の担当は○○でした」って男の子なのに女の子の声が混ざっているという話が、昭和の頃から伝わっていたそうです。
「放送室のユリコさん」。
誰でも中学校生活三年間のうちに一回は「あれ?今女の子の声が混ざってなかったか?」という経験をするんだそうです。
平成になったくらいのときまでは聞いた人がいた。
ところが最近は全くそういう、聞こえたという人が出てこない。
古参の先生が
「もうユリコさんいないんじゃないか?」というほどで。
で、あるとき。
放送部にそういう怖い話が好きな女の子がいるんです、夏になると精力的に怪談特集組んだりして、ユリコさんの話を聞いて興味を持ち、ユリコさんの声を聞いてみたいと思うようになりました。
しかしこういうのは狙って聞けるものではない、ずっと校内放送に集中しても不思議な声は聞こえてこない。
何も起きずにもうすぐ卒業だという時期になりまして、その女の子も後輩たちに協力を求めました。
冬休みに入って、本当はみんな学校に来ないときです。
夜の六時七時になると辺りが真っ暗になる、その時間に放送室に行って、ユリコさんの声を録音しようと。
誰の目も耳も気にせずユリコさんを呼んで、返事をしてもらえないかやってみたいと。放送中にはできませんからね。
「ホント私のワガママなんだけど聞いてくれないかな」
後輩達にとってその先輩、オカルト好きということを除けば面倒見のいい先輩で、みんなそれくらい付き合ってあげようと。
どうせ出るわけないだろうし。
で暗くなって集合しまして。
灯りが点いていないほうがユリコさん来てくれるんじゃないかと真っ暗な状態で、みんな(怖いなぁ)。
放送室に忍び込んで録音機材を前にして先輩が
「ユリコさん、ここにいるのなら音を立てたり声を出したり、何らかの意思表示をしてください」
しばらく沈黙して。
後輩達、この黙っているときが聴覚が引っ張られて暗いだけよりもっと怖い。
でしばらくして、録音を止めて再生して何も入ってない。
一回、二回、三回やって何も入ってない。
「やっぱりいないですね(じゃぁもう帰りましょう)」と後輩達声を揃えるのですが先輩もせっかく来て段取りを作ったのだから諦められなくて
「ホントごめん、ホントごめん、ホント私のワガママなんだけど」と続けて、
もうみんなで検証なんてしないんですよ、
「ユリコさんユリコさん!ここにいるのなら!ちょっと意思表示を!声を出したり音を立てたりしてみてください!」と必死になって、ヘッドホンで自分だけ聞こえる体勢でしがみつくんですよ。
みんなが白けている中、テープを巻き戻して聞いて「駄目だ」、また巻き戻して録音ボタンを押して「ユリコさんユリコさん!」テープを巻き戻して聞いて「駄目だ」、また巻き戻して録音ボタンを押して、とずっとやっている、
五、六回やって
「あぁ!やっぱり入ってない!」
またやって。
「うーん、駄目かぁ……」
みんなを見渡して
「ちょっと休憩しよう、飲み物買ってくるね」
と肩の力を抜く。
「どうぞどうぞ、みんなここで待ってますから」
「灯り付けていいですよね?今は灯り付けていいですよね?」
「うん」
「じゃ休憩中は灯り付けていいということで」
「待ってますから」
先輩が購買部の前にある自動販売機まで出発します。(後輩にお金渡して買いに行かせないんですね)
先輩行って、後輩達
「先輩、すごい頑張るけどさ、声なんて入らないよね。ずっとテープを繰り返し聞いて」
「テープの同じところで繰り返し録音してたから、音ももう悪くなっちゃってるんじゃないの?」
一人がヘッドホン端子を外して、何気なく一番最後の録音を再生してみまして。
先輩の声「ユリコさん、ここにいるのなら音を立てたり声を出したりしてみてください」
の「音を立てたり」くらいから、先輩の真横あたりから
「あっっはっっはっはっは!」
って女の人が笑ってるんですって。
えー!となりますわな。
「出してみてください」どころじゃない、ずっと
「あっっはっっはっはっは!」
って大笑いしてるんですよ。
「あっっはっっはっはっは!あっっはっっはっはっは!あっっはっっはっはっは!あっっはっっはっはっは!」
腹抱えて笑ってる笑い方なんですよ。
自分たちには聞こえてなかったんですよ、だからなおさら「なにこれ!なにこれ!」となるんです。
「入ってんじゃん!なにこれ!」
みんながうわー!となったら部室の入り口に誰かいる、うわ!となったら先輩なんですよ、
「せ、先輩!これ!」
再生中の「あっっはっっはっはっは!」が響いている、
「これ!声入ってるじゃないですか!」
「入ってるじゃないですか!」
「なんでそんな、うーんなんて首かしげてるんですか!」
「間違いなく入ってるじゃないですか!」
「うーん、でもその声ってユリコさんかどうか解らないじゃない」
先輩の顔、バッキバキだったそうです。
うわー!先輩も怖いー!とみんな逃げ出したんだそうです。
で、先輩置いて帰っちゃったし、どうなったんだろう?と気になって、月曜日になったら全然普通だったそうなんです。
もうみんな怖くて、みんなその先輩を腫れ物に触れるように接して卒業していただいたそうです。
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