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脳味噌破裂するような

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2019年6月の記事一覧

脳味噌破裂するような(19)

 鬼が、後ろ手にドアを閉めて鍵をかけながら言う。
「お前は洗脳されている」

「セン……ノウ?」

 何を言ってる? 何なんだ、こいつは?
「考えてもみろ
  お前、自分がこんなところにいるような人間だと思っているのか?
 お前にはもっとしたいことや好きなことがあった筈だろう?」

「え……?」
振り返ろうとするが、銃の気配を感じて、やめた。
 彼も引き金に指を掛けたまま。
「メイドさんだってそう

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脳味噌破裂するような(18)

 彼が、追いかけてきた。

 速い、追いつかれるまでが、早い、……嘘のように。

 人間やめたスプリンターやっているような、……音が違う。

 どうして? こいつ、陸上でもやっていたんだろうか?

 全然、はやさが……。

 彼の、気配を感じた。
「だぁぁあかああらあああっ!」
反射的に振り返り、殴りにいっていた。
――その僕を、足を止めた彼は見ていた
 楽しいのか? そんな言葉が何故か頭の中を掠

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脳味噌破裂するような(17)

 鬼の顔が現われた。
――それはドアの隙間の影から、ぬっと出てくる
 そして無遠慮な歩き方で、こちらへ近付こうとしてくる。

 金の目玉は人工の光を照り返し、鮮やかな赤が地味な部屋に映えている。……白い牙は鋭く尖り、どこか凶器めいた輝きを宿してもいる。
 拳心が硬く固まり、結局、サンドバッグでも何でも殴っていたらしいことを窺わせ、若干前傾的な姿勢でいることがいつでも攻撃的な行動を取れることを示唆し

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脳味噌破裂するような(16)

 フォールス・メモリー、偽りの記憶が錯綜し、絡み合い、解きほぐれ、そうしてまた形を変え、樹木の影を作り為す。
 それらにより編まれた道、その上を通り過ぎ、颯爽とした緑の野へ僕は抜けてゆく。
 ……きっと新しい、そのはずの光に、照らされた。

 随分、視界が薄ぼけていた。
 じっとソファに座っていると、段々、現実から遠退いてゆきたいと意識が訴えてくるから不思議なものだ。
 あたりには何もない。本はあ

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脳味噌破裂するような(15)

 発信器を振り回す彼女が、こちらの方を振り向いた。
――車に付けられていたそれだった
 アジトを脱してから程なくして、彼女によって抜き取られた。
 使い勝手がいいとか、言っていたけど……。

 あのAI車に奇妙な装置が付いていないかどうか、点検することも勿論、した。
「ハワイでも行きたい気分……」
そんなことを、彼女は呟いた。
「行きたくない」
と言うと、何故、とでも言うように彼女は小首を傾げた。

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脳味噌破裂するような(14)

 逃げる、逃げよう。どこまでも。
――メイドさんの彼女と自動運転車に乗り込んで、そして隠れるように日本中を移動し続ける
 テロの”同志”として他国の軍に捉えられないように。……警察や公安に追われないように、石を投げてくる誰かに見つからないように、また”同志”に捕まらないように、動き続けるのだ。
 それ以外に、逃れる術は無いのだから。
  苦しい日々であるだろう、しかし、食料品や衣料品の詰め込まれた

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脳味噌破裂するような(13)

 引き金に指をかけると、それから電撃が走った気がした。
――僕を撥ねつけるように、その黒い金属塊が電気を走らせるのだ
 そしてそれはまるで生きているみたいに脈動しもするのだ。手から伝わる、どこか金属的な、しかし生物のみが発するものである筈の鼓動、斬新なそれを感じながら、照準を真っ直ぐに向け、指へと屈伸運動をするように電気信号を流す。

 トリガーが鳴らす擦過音は……。

 銃を撃ち放った。

――

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