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TikTokで輝きを放つ ミラノコレクションに車いすで挑んだクリエイター・葦原海さんインタビュー
世界4大ファッションコレクションとも称されるミラノファッションウィーク。2022年9月 、その「ミラノコレクション」に一人の日本人が出演しました。
「みゅう🧜🏻♀️足は姫にあげた💗」(@myu_ashihara)というアカウント名で活動し、2023年1月現在フォロワー36万人を抱える人気TikTokクリエイターの一人で、モデルの葦原海さん(以下、みゅう さん)です。
世界中から熱い視線が注がれるなか、颯爽とランウェイに登場すると、ギャラリーからは自然と拍手が起こりました。
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みゅうさんは車いすユーザー。半世紀近く続くミラノコレクションの歴史で車いすの日本人モデルが登場した記録はないといいます。
ファッションブランド「AKITSU」のデザイナー・けみ芥見 氏は、みゅうさんについて、「発信の元気さ、ポジティブさ、力強さを感じて彼女の発信を微力ながら後押ししたい」と今回の起用に至った理由を話します。
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無謀な挑戦のように見えることでも成し遂げてしまうみゅうさん。脚光を浴びる舞台も通過点のひとつ、障がい者と健常者の壁を壊す第一歩だといいます。
「モデル活動を通して、『障がい者』と『健常者』の隔たりを壊したい。もっと身近に車いすユーザーの存在を知ってもらいたい。そして当事者でも何かを諦めることなく希望や夢に向かう力を伝えていきたい」と力強く話します。
遠く離れた存在のように思われがちな車いすユーザー。どうすれば「障がい」や「福祉」に興味や関心がない人にも、自身のモデル活動やライフスタイルを知ってもらえるでしょうか。
みゅうさんは新しい情報との出会いが起きる TikTokでの発信が「心のバリアフリー」を生み出して、自身の活動を後押ししてくれているといいます。
実は、ミラノコレクションへの出演もTikTokから生まれた縁で実現しました。
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世界を舞台に大役を果たしたみゅうさんに、これまでの半生からTikTokでの発信について、またミラノコレクション出演の契機となったTikTok LIVEや、今後の展望までをお聞きしました。
突然の事故、そこからモデルを目指したわけ
あるはずの足がない———それは16歳の時、突然の事故でした。普通だったらショックを受けたり、絶望したりしてしまう状況でも、みゅうさんは冷静だったといいます。
「これだけの事故で、無傷で済むことはないと、どこかで思っていました。自分が生きていることに対する感謝の気持ちのほうが大きかったんです」
もともと外に遊びに行くのが大好きだったみゅうさん。それは車いす生活を送ることになっても変わりませんでした。遊びに行く先で写真を撮るためなら車いすを降りるのもいとわない。電車を一人で乗り継いで、全国どこへでも移動します。
中学生の頃からの夢はテレビ番組の舞台セットをつくる「大道具さん」でした。車いすユーザーになってもその夢を諦めず、専門学校に通っていた18歳の頃、あるテレビ番組の企画でモデルとしてファッションショーに出演する機会を得ました。
「テレビの現場を見れる!」そんな理由から参加して、いざランウェイを歩いた瞬間、大きな違和感を持ったといいます。
「関心を寄せてくれた人は、当事者の方やその家族が大半を占めていたんです。福祉に触れる機会の少ない人にこそ知ってもらいたい、そんな想いで企画されたイベントでした。それなのに知れ渡っていない、伝わっていないことが、自分のなかで納得できなかったんです」
福祉に触れる機会が少ない人でも興味関心が高いもの、それは人々を楽しませているエンターテインメントではないか。
みゅうさんは、エンタメとして日常的に届けられるテレビや雑誌、広告などに車いすユーザーが映し出されていることが、「障がい」や「福祉」について知ってもらうきっかけに繋がると考えました。
そこで自らが表現者となり、モデルの道に進むことを決意します。
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「障がい者」や「健常者」の隔たりを、エンタメを通じて壊していきたい。そして当事者であっても何かを諦めることなく、夢や希望に向かう力を伝えていきたい。
そうした想いは揺るぎない信念となり、みゅうさんを突き動かしていきます。
女性誌でのファッションモデルや企業広告のイメージモデルといったモデル活動をはじめ、イベントMCといったタレント活動や、当事者目線でのバリアフリー専門家としてアドバイザーも務めるなど活躍する場所を広げていきました。
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新たな発見を生む、TikTokでの発信がチャンスに
遠く離れた存在のように思われがちな車いすユーザー。「障がい」や「福祉」に興味や関心がない人にも、どうすれば自身のモデル活動やライフスタイルを知ってもらえるでしょうか。
みゅうさんは2020年4月にスタートさせたTikTokでの発信が、多くの人に自分の存在や、車いすユーザーについて知ってもらうきっかけを生んでいるといいます。
「従来のSNSや動画プラットフォームは、興味や関心を探索するものが中心だったと感じます。旅行先でおいしい料理のお店を探すのに使うかもしれませんが、車いすユーザーについて『#車いす』でわざわざ調べる人は少ないと思います」
「それがTikTokでは、おすすめフィードに興味や関心があるコンテンツ以外の情報も掲示されて、新たな発見を生むきっかけになっている。それまで知ることがなかったことを、多くの人に届けられることは、私が活動を通して目指していることと一緒で、とても大きなチャンスだと感じました」
TikTokを始めた2020年4月は、レシピやメイク、ライフハックなどコンテンツがより多様化してきた頃。「これなら自分も投稿できそう」と旅行時の動画をVlogとして投稿したのがきっかけでした。
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「車いすユーザーということを揶揄されるかもと思っていたんですが『車いす関係なく、かわいい』とか『着物、似合っていて素敵』とか、フラットな感覚で観てくれている方が想像よりも多くて、とても驚きました」
2020年5月、全身を映した動画を投稿した際には1400件以上のコメントが寄せられました。なかには「両足がない理由は?」「トイレはどうしているの?」と、一見、センシティブに感じられる質問も。
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みゅうさんはそうした質問ひとつひとつに答えていき、Q&A形式の動画も積極的に投稿するなど、障がいがある日常を赤裸々に公開しています。そこにはこんな想いがありました。
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「偏見とか差別は、ほとんどが『知らない』ことから生まれていると思います。聞いてくれるということは興味を持ってくれているから。それが嬉しいんです。私は答えたくない質問というのが基本的にないので、できる限り答えるようにしています」
@myu_ashihara @nanko_ta への返信 ) 誰でも過去に、過ちや後悔、罪悪感などの一つや二つあると思う。それらを忘れようとするのではなく、″共に生きていくこと〟で強くなる。人生で起きたことを全て未来のプラスに活かせたらいいな❣️
♬ オリジナル楽曲 - みゅう🧜🏻♀️足は姫にあげた💗 - みゅう🧜🏻♀️足は姫にあげた💗
「いつも明るくて笑顔がステキ」「すごく励まされる」いつしか多くのユーザーが、みゅうさんの前向きな生き方に惹き付けられ、動画には温かいコメントが溢れるようになりました。
また投稿を続けるうち800万回以上再生される動画などヒットも立て続けに巻き起こり、TikTokをはじめて1年後にはフォロワー22万人を突破して、人気TikTokクリエイターとなります。
その人気はさまざまなメディアにも波及。テレビ番組や情報誌からの出演依頼が相次ぐなど「モデル・葦原海」 は、TikTokとの出会いで、大きく変わっていったのです。
TikTok LIVEで伝えた想いが契機となり、ミラノの舞台へ
「叶えたい夢があったら言葉にして伝えること」をモットーにしている、みゅうさん。
何をきっかけに人生が変わるか分からない、だからこそ今を全力で楽しみたいという想いからです。
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その時の様子もTikTokに公開しています
「夢を周りに知ってもらった方が、誰かが夢につながるきっかけや、人を紹介してくれるかもしれない。叶えたい夢は言葉にするということを、心掛けています」
モデルとして活動していくなかで芽生えた夢、それは「世界に進出したい」というものでした。
そこで2021年、ミラノコレクションのオープニングムービーに出演するためのオーディションに一般公募で参加。その審査の過程でウェブ投票があり、みゅうさんはTikTok LIVEで投票を呼びかけると同時に、夢への想いを伝えました。
「世界の舞台に挑戦することで、当事者の方に、“夢を諦めなくていいんだ”ということを体現したい。もっと自然に、車いすユーザーを知れるきっかけをつくりたい」
TikTok LIVEは、リアルタイムで配信されているLIVEがTikTokの「トップLIVE」や「おすすめ」「フォロー」のフィードにも表示されます。
「おすすめ」で配信を知った多くの視聴者が、みゅうさんの熱い想いに心を動かされて、協力しました。約4時間ほどのTikTok LIVEでしたが、投票は800人近くから寄せられたといいます。見事、ミラノコレクションのオープニングムービー出演を掴みます。
さらに、そのライブ配信を観ていたのが、デザイナー・けみ芥見 氏のエージェントの方でした。後日、けみ氏を交えて対面したところ意気投合。
「ぜひコレクションへ出演して欲しい」と依頼を受け、前述の通り、夢の舞台へ挑み、大役を果たしたのです。
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ミラノコレクション出演の契機となったTikTok LIVEから生まれた“縁”。ライブ配信で、想いを言葉にして伝えたこと、そしてみゅうさん自身の努力で、夢へ向かう新たなステージは始まったのです。
TikTokを通じて感じる「心のバリアフリー」
TikTokを介して生まれた、新しい出会いはこれだけではありません。
みゅうさんが、大切にしているコミュニケーションの考え方に「心のバリアフリー」というものがあります。
障がい者と健常者の間には、階段の段差といった設備の「ハード面」だけでなく、障がい者を特別視してしまうなど「ハート(心)面」でも、大きな壁があるといいます。みゅうさんは活動を通して「ハート(心)面」の壁も取り払い「心のバリアフリー」の実現を目指しています。
TikTokを始めてから、みゅうさんの周りでは、そんな「心のバリアフリー」を感じる出来事が、起こっているといいます。
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「外出しているとき『TikTokを観ています』とか『応援しています』と声を掛けられるようになりました。『手伝いましょうか』と声をかけていただくのもありがたいのですが、一人のクリエイター『葦原海』として、声をかけてくださっているのがすごく嬉しいです」
いまでは学生さんから社会人、お年寄りの方まで、全国各地で、あらゆる世代から声を掛けられ、TikTokの影響の大きさに驚いているといいます。
「なかには中学生もいて、きっと初めて車いすユーザーに声をかけた方も居ると思います。私の発信が一人の意識を変えていることを知り、『心のバリアフリー』実現につながっていることを実感します。あらためてTikTokに感謝しています」
学生さんの中には学校で先生からみゅうさんについて教わったという方や、授業課題でみゅうさんのTikTokの発信をまとめた方もいるといいます。みゅうさんの存在は、画面を通じたコミュニケーションにとどまらず、こうしたリアルのコミュニケーションでも広がっています。
前向きな発信を行うなかで、意識していること
みゅうさんの前向きでポジティブなTikTokの発信には「生き方に背中を押される」といった声が多く寄せられています。これらはすべて飾らないありのままの姿、持ち前の性格だといいます。
そのうえで「人それぞれ発信の仕方があり、発信する・しないも自由。ポジティブや明るいことで褒めてくれる方もいますが、それがえらいとは思われたくない」とも話します。
「車いすユーザーの中にも、病気を抱えた状態で、車いすを使用している方などいろいろなケースがあります。なので『車いすユーザーだからこういう生活をしています』という発信に繋がらないように意識しています。『車いすユーザーの葦原海は、こういう生活をしています』と一個人の発信というかたちで伝えるようにしています」
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伝えたいことをしっかりと伝えられるようにするため、投稿する動画は細かくカットを刻んで、いろいろな映像を見せられるよう、撮影やクリエイティブに時間をかけているといいます。
「外では同行者にお願いして撮ってもらっていますが、質問に答えるQ&Aの動画や、日常生活を紹介する動画(お風呂の入り方など)など屋内のものは、基本的にすべて自宅などで三脚を設置して一人で撮影しています。縦型の限られた情報のなかで、いちばんに見て欲しい所に目がいくよう画角にはこだわっていますね」
@myu_ashihara @nakkey7 への返信 【飛行機の乗り方】セットで回答💓#日常vlog #セルフ解説 #車椅子生活
♬ オリジナル楽曲 - みゅう🧜🏻♀️足は姫にあげた💗 - みゅう🧜🏻♀️足は姫にあげた💗
「車いすを降りて画角を変えて、また車いすに乗って、というのを繰り返すので、なかなか体力を使います。それでもTikTokは、こだわって撮影した動画の方が再生数も伸びて観られていると感じます。なので楽しみながら撮影しています」
TikTok LIVEで、新しいコミュニケーションに挑戦したい
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モデルとして表舞台に出つづけることで、車いすモデルという枠組み自体がなくなる社会になっていくことがみゅうさんの思い描く未来です。
「いまは車いすモデルと呼ばれているけど、見慣れてきて『モデル・葦原海』として観てもらえるようになったら嬉しいです。多様性って言葉をあえて伝えなくても多様性になっている社会を目指したいです」
今年、再び世界のステージに立つ挑戦が始まっているといいます。次の舞台はフランス・パリで開催されるファッションウィーク「パリコレクション」(パリコレ)。そこで、また新たな一歩を踏み出します。
そしてTikTokの動画を観ているファンのみんなと、直接、交流できる機会もつくりたいと話します。
「いつか日本一周は絶対にしたいと思っています。TikTokの短い動画だけでも『勇気をもらっています』『元気になります』という想いを込めたメッセージを沢山いただきます。それなら直接、会ったらもっと感じてもらえるのかなって。今後、そういう機会も増やせていけたら良いなと考えています」
周っている様子をTikTok LIVEで配信して、リアルなコミュニケーションと、画面を通したファンとの交流の両方にも挑戦できたらといった構想がある事も明かしてくれました。
「私のTikTokでの発信から何かを得てもらえたら嬉しいです。『元気や生きる希望をもらえる』という言葉をたくさん頂きますが、その言葉に私自身も励まされて、発信をつづける原動力になっています。これからも発信を続けていき、フラットな社会づくりのきっかけになればいいなと思っています」
TikTokで人の心を動かして、ミラノコレクションに出演を果たした葦原海さん。たくさんのファンの想いを胸に、これからも前へ進みつづけます。
クリエイタープロフィール
みゅう🧜🏻♀️足は姫にあげた💗(@myu_ashihara)
16歳で車いすユーザーとなるが、持ち前の明るさで健常者と障がい者の架け橋のためにモデル活動を開始。普段なかなか知る機会がない視点は、TikTokで老若男女問わず目を惹きつけ、発見と感心の多いコンテンツから、思わず自分も前向きになれると支持される。
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