[ note2419-#1 ]
~喧騒をよそに、変わらぬ風景~
昨年末からのオフ期間、レイソルではクラブの歴史に深く関わったベテランや今後を期待されていた若手との別離があった。季節を着替え迎えた1月14日、2017シーズンが始動。ミーティングを終えた選手たちはまだ底冷えのする日立台のスタジアムやクラブ施設でのフォトセッションという「公式行事」に臨んだ。スタジアムからは選手たちの明るい声が響いた。
いくつかの公式撮影を終えた選手たちは三々五々クラブハウスへ引き上げてくる。
「かっこいいでしょ?」と新しいウエアを自慢したのはチーム最年長・栗澤僚一。おもむろにウエアのファスナーを開け、真新しいユニフォームを披露。
「モデルチェンジするたびに、かっこよくなっていますよね。今までよりフィット感や着心地もすごく良いんですよ」(栗澤)。
オフィシャルサプライヤーのヨネックスとレイソルクラブスタッフが追求に追求を重ねたその熱意は選手たちへ早速届いたようだ。
ディエゴ・オリヴェイラとドゥドゥも新ユニフォームにご機嫌。まずは弟分のドゥドゥが、「見てよ!背番号が18になったんだ。最高だろ?早く写真を撮ってよ」とリクエスト。
傍らのディエゴも着こなしを再確認してから腕を組み、凛とした表情を作って、フォトセッションの第2ラウンドを要求。
撮影を終えたディエゴは「イカしてるだろ?」と言わんばかりにサムアップ。意気揚々とクラブハウスへ戻っていった。
新しい黒のトレーニングウエア姿に身を包んだコーチングスタッフたちの中に、柏レイソルアカデミーのダイレクターからトップチームのヘッドコーチへ就任した岩瀬健コーチの姿があった。「がんばります!」という声にも自然と熱意がこもる。礼儀正しく、明朗快活。特長の大きな声で下平隆宏監督を支えている。
彼らより少し遅れて現れたのはブラジル人スタッフのベルマールとアリ・ジュニオール。
真夏のブラジルから戻ったばかりの2人の肌はこんがりと小麦色だ。「昨年よりもたくさん勝とう!」と意気込んでいたが、空を見上げると、「…ところで、ブラジルにあった太陽はいったいどこへ行ってしまったんだい(笑)?寒過ぎて参ったよ」と腕をさすりながら、それぞれの持ち場へ消えていった。
〜名手、静かに〜
今季の補強の目玉・ベガルタ仙台から新加入のハモン・ロペス。過去の仙台との対戦では破壊力満点のドリブルで存在感を放ってきた。その印象からすれば、少々意外なほど穏やかな語り口。名手の加入はなんとも頼もしい限りだが、レイソルではクリスティアーノ、ディエゴ、伊東純也、大津祐樹などとの競争が待ち受けている。それについてハモンはこのように話した。
「強いクラブには選手同士の激しい競争がつきものだから、チームにとってはポジティブなこと。自分もそれを望んでレイソルへ来たんだ。チーム内での競争を勝ち抜いて、常にチームの勝利に貢献したいし、レイソルに来た以上は個人的な結果や数字よりも、チームにとって素晴らしい結果をもたらし続けることが自分へ課せられた最大のミッションだと理解している。得意とするサイドからのアタックや他の選手と質の異なるドリブルやFWとして最も大切な仕事であるゴールという結果を少しでも多くお見せできたらと思っているんだ」(ハモン・ロペス)
また、「昨年対戦して一番手を焼いた選手は?」との問いに、揃って「ハモン・ロペス」と答えてきた若きDF陣にとっても、この加入は明らかな追い風。J最高レベルのアタッカーと日々の練習で対峙できることは彼らを成長させるだろう。
ハモンも「彼らからそのような高い評価やリスペクトをもらえているのならとても光栄だよ。自分も彼らから多くを学びたいし、一緒に素晴らしい結果を掴みたいね」と意気に感じている。
~新しい姿~
また、昨年から8名の選手が背番号を変更した。新背番号への思い入れはまさに十人十色といったところ。
「今年こそ、背番号と同じゴール数を狙います(笑)!背番号を変えずにずっと大事にする選手もいますけど、自分の場合は、『チームの主力』としての責任の部分も負う意味で今年から8へと変更しました」という武富孝介のように切り替えのニュアンスを込める選手もいれば、「6という背番号はアカデミー時代にも付けたことがあるので、自分としてはそれほど違和感はありませんね」とマイペースな小林祐介、「29も好きな背番号だったんですが、『5番といえば中山だ』と認めてもらえる選手になれるように、期待に応えたいですね」という中山雄太などそれぞれの距離感で新しい背番号と向き合っている。
同じく2年目の手塚康平も背番号を17へ変更。湘南ベルマーレへ期限付き移籍した秋野央樹の背番号を継いだ。元々言葉少なな手塚だが、胸に秘めたる思いをこう語る。
「トップチームのサッカーには慣れてきました。2年目の今年は必ず試合に絡まなくてはいけないと思っています。昨年は悔しい思いをしたので、絶対に」(手塚)
柔らかいボールタッチや長短織り交ぜた豊富なパス選択、広い視野を武器に中盤の底でDFラインやMFからボールを引き出しチームの攻撃を組み立てる。それが彼のアイデンティティ。また、中谷進之介らも「天才」と太鼓判を押す逸材であり、非凡な守備センスをも併せ持つ手塚がプロの世界で直面したのは攻守両面における「プレー強度」の差だった。
その課題を克服すべく首脳陣は手塚をCBとして時間をかけて磨いてきた。練習試合での不運な足首の負傷なども経験しながら、空中戦や球際の争いの中でプレー強度向上に必死に取り組んだ。手塚が中盤でボールを奪い、前を向いてパス能力を活かせる選手になれば、そこには迫力満点のアタッカー陣が「ボールをよこせ!」とばかりに待ち構えている。希望は広がる。
「前線のメンバーの能力を見れば、ボールを奪って相手陣内の深いところへ一度ボールを入れることも大事だと思います。前が詰まれば、もう一度ボールを繋いでもいい。そこには自信がありますし、試合を見ている人が『手塚のそのパスは必要なのか?』と思ったとしても、『あのパスがあったから、ゴールへ繋がったんだ』と理解してもらえるようなプレーをして結果を残したいです。もちろん、守備でも貢献できる選手にならなくてはプロではやっていけないですから、昨年学んだことを活かしたいです」(手塚)
育成年代で「アンカー」として優雅なプレーを見せてきた手塚。同じポジション、同じ利き足を持つ先輩の背番号を継ぎ、ボールに執着する「ボランチ」への変革期に差し掛かっている。
2年目を迎えるGK滝本晴彦は16へ変更。1年目の滝本をピッチ内外で見守った稲田康志(アルビレックス新潟へ移籍)から直々の指名を受けての背番号変更だった。
「イナさんには昨年の指宿キャンプの初日からずっとプロとしてたくさんのアドバイスをもらっていた。家族ぐるみでかわいがってくれたことは当時の自分にとって大きかった。サッカー以外の面でもたくさんの影響を受けました。自分もいつかイナさんのような人になりたいという気持ちは変わりませんし、自分にとって特別なこの背番号を背負う以上、もっと成長していかなくてはいけない。16番のユニフォームの重みは想像以上で、ずっしりときました」(滝本)
GKという特別なポジション。先輩たちとのキャリアや実力を考えれば、まだその背中を捉えられるかどうかの存在だ。ただ、プロとして1年を過ごした滝本に対して、選手やチームスタッフら多方面から「コツコツよくやっている」、「成長を感じる」という言葉が聞かれ、2年目もさらなる成長が期待される。
そんなサクセスストーリーがたやすくないのは周知の事実。しかし滝本にはGKらしい体格と長い手足、謙虚で正直で前向きな内面が備わっており、稲田との出会いを自分の未来へ繋げ、こじ開けようしている。何よりも、自身に自身が期待しているような雰囲気さえ漂う。GKとしての基本技術の更なる向上と併せて、滝本の「自分育て」の険しい道は続いていく。
~研ぎ澄ますものたち~
「自分に失うものなんて、何ひとつ無いですからね」-。
ひねた表情ではなく、前向きな明るい表情でそう話すのは育成型期限付き移籍先のカターレ富山から復帰した大島康樹。
常に実力に勝る選手たちが揃うFW陣の中で結果を求められる立場は入団時から変わらない。だが、3年目の今年は気負いや焦りを胸に抱え込まず、良い精神状態でシーズンイン。特長であるゴール前でのポジショニングと決定力を磨き、いつか迎える「その時」を逃すまいと練習に没頭している。
「1トップでも2トップでも構いません。チームの選択肢が増せばチャンスが広がりますから。まずはどんな練習の中でも決めるべきところで自分がしっかりとゴールを決めていくことから始めたい。ブラジル人たちを見てみても、そのあたりは徹底していますからね」(大島)
ハモンの加入により更に厚みを増した攻撃陣。相手のDFが彼らのアタックとボールに吸い寄せられれば、大島はフリー。並み居るスピードスターたちを囮にして、ゴールへの最短距離を見つけ出し、ゴールへ流し込む…そんなシーンを思い描いてしまう。
だが、まずはその場にいなくてはいけない。それは大島も重々理解している。「まずは継続してベンチ入りできるようにならなくてはいけない」(大島)と胸に誓っている。
「すべての力を向上させることに変わりはないですけど、富山では2列目でのプレーを経験しましたし、攻守で走ることを強く要求されました。今まで自分が学んできたサッカーと違いましたが、改めて勉強になりました。特に『スプリントの質』という部分で。攻守において、自分がどこで走るべきなのかが分かってきた気がしますし、今のレイソルにおいてもすごく必要な能力だと思います」(大島)
もう、自分がすべきことは分かっている。大島に必要なのはゴールネットを揺らし続けること。持ち味の得点力+富山から持ち帰ったスプリント力で結果を掴みたい。
レノファ山口から新加入の小池龍太は、別メニュー調整からの始動となってしまった。控えていた指宿キャンプに照準を合わせ、黙々とピッチを駆ける日々。焦りの色は見られなかった。
レイソルが小池獲得を決めた最大の要因は彼の「走力」だったという。その持ち味をしっかり発揮する為に、牙を研ぐような調整が続いた。
「自分のアピールポイントの『走力』を評価してくださって、自信になりました。今はその中で自分の色をどう出すべきなのかを考えています。評価してくださったこと、今までやってきたことは続けて、レイソルの強烈な前線の選手たちを上手く使いたい。そこは自分たちの能力次第ですし、彼らを活躍させることは試合に勝つ上で絶対に必要なこと。まず第一に考えていきたい」(小池)
小池が話した「今までやってきたこと」とは、「相手の裏を取る動きや点を取りに行く姿勢。常に相手の嫌がるプレーをする」ことだという。
一方で、この当時の小池の悩みは「『R』と呼んで欲しい」と自ら話したニックネームについてだった。
「まだ、『ユリコ』とか『エイコ』、『テッペイ』なんかが中心なんで…(笑)、早くみんなとプレーをして本当の意味でチームに馴染みたいですね!」(小池)
「今日の質問は1つだけだからね!」と悪戯に笑い、記者たちの前へ現れたディエゴ。「ア・レンダビーバー」のチャントはレイソルサポーターの心を掴んで離さない。それはただメロウなリズムが心地良いからだけではない。彼が残してきた良い仕事、その結果と信頼が「チャント」以上の「アンセム」としてサポーターの胸を掴んで離さない。
そこで、「きっと今年もサポーターはディエゴのチャントで盛り上がりたいはず。今年も沸かせてくれますよね?」と聞くと、ディエゴは「もちろん、自分もそれを望んでいるさ。でもね…」と話すと口角を緩めながら、「…もし、自分が活躍しなかったとしても、昨年のチャントの録音を大音量で流して欲しいんだ(笑)。少なくともサポーターは盛り上がってくれるよね!ダメかな?」とおどけて笑う。記者たちとのジョークはもはやお手の物。
今年もピッチ内での勇敢な姿、ピッチ外でのおおらかで愉快な姿を期待してよさそうだ。
《つづく》
written by 神宮克典
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