[取材note2017#5 -「細貝萌という猛者が叶える、夢の始まり」]

3月24日、柏レイソルはドイツ・ブンデスリーガ2部Vfbシュトゥットガルトに所属していたMF細貝萌(ほそがいはじめ)選手の移籍加入を発表。

その当日の夕刻に開かれた移籍加入会見の冒頭では、「このたび、Vfbシュツットガルトから柏レイソルに移籍してきた細貝萌です。チームが少しでも良い順位に行けるよう、チームの目標を達成できるように、ベストを尽くして頑張っていきます。よろしくお願いいたします」と話し、終始リラックスした表情で記者たちとの質疑応答に応じた。

——細貝選手がチームにもたらせるものについて聞かせてください。
細貝萌「浦和レッズで6年間お世話になって、そこから海外にいるので、7シーズンぶりに戻ることになります。正直言って、日本でしばらくプレーしてないので、自分自身もわからないところっていうのはありますけど、それに関してはチームメイトからいろんなことをたくさん聞いて、たくさん話をしていきたい。海外での経験と自分の知っているものを、若い選手たちに伝えていきたいと思います」

——海外でのプレーを通じて感じたことは。
細貝萌「最初はプライベート面のことで言葉も通じないですし、コミュニケーションのところで苦労したっていうのが実際のところですけど。ピッチに入れば年上年下関係なく戦っていく仲間なので、柏レイソルは若い選手が多くいるクラブですから、若い選手たちも遠慮せずにどんどん言ってもらえればいいと思いますし、その中でチームの目標を達成できるように力になれたらなと思います」

——自身の今シーズンを振り返って。
細貝萌「トルコのブルサスポルからVfbシュトゥットガルトに移籍をして、移籍した当時の監督が辞任してしまった関係もあって、そのタイミングでのケガも重なり、試合に思うように出場できなかったという感じです」

——日本に戻る決断の大きな理由。
細貝萌「どうしても海外にいたかったという気持ちではなくて。最初はどうしても海外に行きたくて行ったんですけど。自然と自分をいちばん求めてくれるところが海外だったから今まで海外にいた。タイミングを見て日本も、っていうふうに視野に入れている中で、柏レイソルさんから、『どうしても来て欲しい』という言葉をもらって今回来たというかたちですね」

——柏レイソルの印象を聞かせてください。
細貝萌「若い選手がたくさんいて、これからのチームだなって思いますし、数年前にはタイトルを獲っていますし、僕の小さい頃からの夢のクラブでもあるので。小学校の卒業文集に『柏レイソルに入る』って書いたこともあるので、昔から気にしていたクラブではありました。黄色いユニフォームはずっと見てきましたし、このユニフォームを纏えることを光栄に思っています」

https://instagram.com/p/BSBDgoWlSvW/

——帰国の理由をもう少し詳しく聞かせてください。ドイツでやりたかったという思いは?
細貝萌「ドイツでやりたかったってことはないですね。ドイツはシーズン中で、正直言って3月31日までのこの移籍期間っていうのは、チームにとっては決していいタイミングとは言えないですから、12月にまた向こうに戻った時には向こうでやりたいと思っている中でずっといましたけど、自分のチームでの状況を考えていく中で柏レイソルさんと話を進めていくかたちになって、どうしてもここでプレーしたいと思って決断しました。試合にはもちろん出たいですけど、『どこに行ったから出れる』っていう保証はないですし、ここにも素晴らしい選手はたくさんいるので。試合に出れるように努力していきたいと思っています」

——なぜレイソルに。移籍を決めたきっかけを教えてください。
細貝萌「クラブが熱心に誘ってくれたというのもありますし、チームの状況を見て自分だったら何か役に立てるんじゃないかと思って決断をしました」

——細貝選手の持ち味をクラブでどう役立てる?
細貝萌「ヨーロッパでやってきてるので、プレー面で言えば球際のところだったりとか、自分が必死になって中盤を支えていくことで、チームが良い方向へ向かっていけばいいなと思いますし、そのためには自分でポジションを掴み取らなければいけないので試合に出れるように頑張っていきたいなと思います」

——群馬県の前橋市出身で、なぜ柏レイソルに憧れていた?
細貝萌「当時大野敏隆さん(※)がここでプレーしていて、大野さんのことが好きだったので、『あの黄色いユニフォームを着たいな』ってずっと思っていました」(※前橋商出身の元サッカー選手で、1997年から2005年まで柏レイソルに在籍)

——日本代表について。
細貝萌「今朝日本へ着いたので、試合(UAE戦)はまだ見られていないが、同世代が多いので刺激になりますし、普段からもそうですし、この移籍に関してもそうですし、連絡を取ったり相談する仲なので、彼らの活躍は刺激になってます。とは言え、自分自身は所属しているチームが何よりも重要だと感じているので、まずはここでしっかり結果を出すことを考えてそれが(代表に)つながっていくっていうのはいいことだと思いますけど、まずは柏レイソルのためにベストを尽くすことしか考えていないです」

——柏レイソル以外のクラブからのオファーは届いていたのか。
細貝萌「1月31日までの時点で他のヨーロッパのクラブを探すだとかそういうのは全くなかったです。他のクラブに関しては、話もしましたし、『欲しい』と言ってくれるクラブもありましたけど、今の自分の立場だとか状況を考えた時に、あとは熱心に誘っていただいたっていうのもあって柏を選んだというか、決断したという感じですね」

https://instagram.com/p/BSBgedZFWAf/

会見を終えた細貝はそのまま日立台のスタジアムでのジョギングと軽度のシャトルランをこなした。ジョギング中には下平隆宏監督と笑顔でコミュニケーションを交わし、意思の疎通を図っていた。

翌日のTM東洋大学戦への出場は見送り、ウォーミングアップ程度にとどめた。新たなチームメイトたちのTMを見つめつつ、チームメイトたちとパスを交わし合う程度の始動となった。

加入翌週の3月28日火曜日からはチームの全体練習に合流。新しいチームメイトたちと汗を流した。さすがにシーズン真っ盛りのドイツ帰りだけあってコンディションは上々の様子。季節外れの寒さが続いていた天候もぐっと春めいた。

——レイソルでの初練習を終えましたが、率直な感想をお聞かせください。
細貝萌「先週末はTMやOFFもあり、今週の火曜日が合流初日のようなものだったわけですが、みんなとサッカーをしてみて、若い選手が多いので、すごくフレッシュでしたね。自分自身ついていけるのかなって思うくらい(笑)。自分は決して技術があって、上手い選手ではありませんから、彼らを見習って必死になって練習に取り組んでいかないといけませんね。その中で自分が持っている知識や経験、サッカー選手としての振る舞いを伝えていくことができたらいいですね」

——さすがに時期尚早ではありますが、改めて細貝選手はどのような部分でチームの力となれそうですか?
細貝萌「技で勝負してきた選手ではないですから、ガムシャラになってプレーをすることは変わりませんし、その姿勢の中から何かを感じとってもらえたらうれしいですよね。そういった 部分が柏レイソルというクラブのレベルアップに繋がるチカラになれたらと思っていますね」

——練習後には大津祐樹選手や今井智基選手らとジョギングをしながら談笑していましたね。
細貝萌「大津祐樹とはドイツ時代に一緒に食事へ出掛けたりしましたし、自宅へ遊びに来たこともありますよ。ザックさんの日本代表でも一緒に戦ったこともありますしね。今井智基、メロとは初めて話しましたが、明るく人懐っこいイイ奴ですね(笑)」

——若い選手たちは細貝選手の気さくで礼儀正しい性格に少し驚いている様子でした。
細貝萌「若い選手は自分のようなキャリアの選手に少し気を遣ってしまうところもあるかと思うけど、自分も浦和レッズ時代に海外から浦和へ戻ってきた高原直泰さんや小野伸二さん、ロブソン・ポンテやワシントンといった経験豊かな選手たちから少しでも多くを学ぼうと自分から話しかけてみたり、コミュニケーションを取ってみたりしましたから。もしも自分にそういう部分があるとしたら、なんでも聞いてもらって構わないって思ってはいますけど、『話しかけづらい先輩だな…』と思われないようにしないといけませんね(笑)」

https://instagram.com/p/BSLmIJ0lfcd/

自らの経験を通じて、チームメイトとのコミュニケーションの重要性を強調する細貝。そして、オフザピッチでそれを早速実践している。

中山雄太は「一度挨拶をしただけで『いい人』とわかりました。それはすごいこと。自分の方が年下なのに、『まだ挨拶をしていませんよね。細貝です、よろしくお願いします』って敬語で話しかけてくれましたから」と細貝のパーソナリティに驚いた様子。

埼玉県出身の中川寛斗は「子供の頃に駒場スタジアムで見ていた選手ですし、同じチームで戦うことになって少し不思議な感じすらあります。人間性の部分でも素晴らしい選手ですし、僕らは学ぶことがまた増えるんじゃないかと思います」と話した。

下平監督は29日の会見で加入初戦となる広島遠征への帯同を明言。翌30日には追加選手登録も完了。すべてがとんとん拍子で進み、広島戦では87分から途中出場。試合を閉じた。

デビュー戦を勝利で終えて、遠く広島県まで駆けつけたレイソルサポーターへも笑顔で挨拶を済ませた。この日のスタジアムへのバス移動中にはキャプテン・大谷秀和のゴールを予言する一幕もあったという。
https://instagram.com/p/BSY-QnDl0vo/

「ピッチに立ったっていうことが個人的にはうれしいですし、それよりもチームが勝ったことが何よりもうれしいです」

すべては順調に進んでいる。

——チームから求められたこととは?
細貝萌「2-0の状況で入ったので、失点をせずにそのまま試合を終わらせるという役割ではありましたけど、最後タニくんと僕でボランチだったので、チームのバランスが崩れないように。攻められる時間でもありましたし、そのなかで失点しなかったというのはよかったと思います」

——ほぼ、ぶっつけ本番でした。
細貝萌「チームに合流して5日目ですか…なので、試合ももちろんやってないですし、今日が初めてだったので。最後、監督が使ってくれたことをうれしく思ってますし、自分の力でチームのみんなの信頼を勝ち取っていかなきゃいけないと思います。そういう立場でいられるように、試合に出られるように努力していきたいと思います」

——連敗中と今日のチームの違いについて。
細貝萌「ここ3試合チームは結果が出ていなくて、もちろん映像も見ていました。今日も試合が始まって、『こういう内容でも勝てないか…』と思いながら見ていましたけど。前半で先制点が取れて、みんなも素晴らしかったと思います。若い選手が多くてそういうチームなので、これからも、内容含めて結果がついてくるようにチームが努力していく助けとして、自分もそのピースとなれるように努力したいなと思っています」

https://instagram.com/p/BSV0RaoFFbr/

広島遠征翌日には町田ゼルビアとのTMにも出場。ゴール前最深部のスペースへ顔を出して、攻撃陣の決定機を作り出すなど存在感をアピールしただけでなく、ある若手選手へ向けて、「声で(ポジショニングを)伝えて欲しいんだ。自分はまだわからないから!」と声を掛けてチームの新たなピースとして、謙虚に戦術理解を進めている。

「コミュニケーションもコンビネーションもこれからチームとの時間を増やしていけばもっと良くなって行くと思う。チームとしてやりたいことを理解した上で、ボランチとしてバランスが崩れないようにプレーしようと意識していました。ピッチで『しゃべる』ということはとても重要だと考えている。今日で言えば、ドゥドゥとも通訳を通してコミュニケーションを取ることでゴールが生まれると思いますし、チームが良い方向へ行けばうれしい」

そう話した細貝は、今後のテーマとして、「チームが良い時はボールも自分たちへ転がってくるが、逆にチーム良くない時や相手にポゼッションをされている時にどう踏ん張るか、そこが重要になる」と話し、チーム本格合流の初週を終えた。

細貝はボランチを主戦場とする右利きのMF。体を張ったボール奪取と的確な配球が持ち味だ。柔らかな身のこなしから常に前傾姿勢でボールに集中。チームのために汗を掻き、ユニフォームを汚し、身を粉とすることを厭わない。端正なルックスとは真逆とも言えるプレースタイルにサポーターは心を掴まれることだろう。6シーズンプレーした浦和時代においても、聖地・日立台でのプレー経験は無く、4月8日の清水エスパルス戦へ出場することになれば、正真正銘の「日立台デビュー」となる。

細貝はJリーグを代表するビッグクラブの浦和、満員のスタジアムに男たちの大声がメロディックにこだまするブンデスリーガ、熱狂的なことで知られるトルコのシュペル・リグ。そして、数多の精鋭たちが集った日本代表として日の丸を背負って戦ってきた猛者。

大音量の声援に包まれ華やかなキャリアを重ねてきた選手でもある。生半可な声援では歓迎の気持ちは伝わらないかもしれない。日立台全体で改めて歓迎の意を示したい。

written by 神宮克典
©Libretas de Tiki-taka_magazine
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