GK佐々木雅士(柏レイソル/U-21日本代表)が歩む、幸せな「サイクル」ー。
アラブ首長国連邦で開催された「ドバイカップU-23」決勝・サウジアラビア代表戦(2022年3月29日)ー。最高の舞台でGK佐々木雅士に出番が回ってきた。
ここまでの2試合で、鈴木彩艶(浦和)、小久保玲央ブライアン(ベンフィカ)がクリーンシートでバトンを繋いできた。
「まず、サウジ戦までの2試合で、2人のGKが無失点で終わらせてきていたので、『次は自分も!』という気持ちは当然ありました」
シンプルで強い意志を持って決勝戦に臨んだ佐々木。見事無失点勝利に貢献し、チームはドバイカップを制した。
先々の大会を見据えても、チームビルディングというアングルから見ても、そもそもの「競争」という本質的なアングルから見ても、佐々木の出来は上々だったと言えるだろう。最高の結果を手にした佐々木はサウジアラビア戦をこのように回想した。
「後半に1本、大きなピンチがありましたが、なんとか抑えることができました。大会が始まり、2試合出番が無かった自分からすると、良いアピールの機会になったかなとは思っています。マイボール時にはビルドアップへの参加もできましたしね、自分のパフォーマンス自体は良いものだったと感じていました」
ライバルたちは個性的で、強烈だ。佐々木が「小学生時代に出会ってから、ずっと一緒にここまで来たライバル」と語る鈴木はU-17W杯(2019年)など年代別代表の全世代において主力を担ってきた存在。レイソルアカデミーの先輩にあたる小久保とはドバイで久々の再会となったが、「そのボールに、そこから手が出せちゃうのかよ…」と改めて驚かされたという。佐々木と小久保は共に中村航輔(ポルティモネンセ)に続けと、手塩にかけて育成されたアカデミーの宝と言える選手だ。非凡な身体能力を持つ鈴木と小久保との競争に際して、佐々木はどのように立ち向かうのだろうか。
「サウジ戦で『無失点』という役割を果たすために、『相手の特長を踏まえたポジショニングを取ることやコーチング』を心掛けながら試合に臨んでいました。サウジは勢いに乗せるとイヤなチームなので」
プロ入り2年目。トップチーム登録された期間を含めると3年目。ルヴァンカップが中心ではあるものの、「実戦経験」から言えば、現在この年代のGKでは一歩抜け出ている存在。
ルーキーイヤーから、「自分の前にCBがいて、シュートに備えるという状況自体はプロでもユースでも変わらない」という考え方を持っていた佐々木。特に今季はコーチングのタイミングや語気も逞しくなり、セービングの迫力も増すなど、GKとしての所作の部分で昨季からの経験を今に繋げているようだ。
ビルドアップへ顔を出す際に重要なキックや柔らかいボールタッチはもともと佐々木が持っていた武器の1つ。佐々木も「それが無ければ、きっと今の自分はいないと思う」と話す。試合前のウォーミングアップを見ていると、様々なフォームで様々なボールを蹴り分けている。このあたりの細部へのこだわりもレイソルの井上敬太GKコーチと二人三脚で続けている。
3月の代表招集を控えたある日の練習後には3mほど向こうの井上コーチと向かい合って、慎重にボールを走らせながら左右両足のパスの精度とフォームをチェックする姿があった。
「なんというか、常に意識していなければいけないところが知らずに無意識になっていたというか、少し悪い方へ傾きかけていて…細かな感覚的な部分なんですけどね、少しズレが生じてしまっていたので、パスやトラップの基本的なことから、『1つ1つのプレーに集中していこう』という狙いや『1回1回、丁寧にプレーしよう』という意味もありました」
小学生時代、父との対話から「街クラブで足下の技術を学んでみようか」と鍛錬を重ねて身につけた、GK離れした左足の精度がその後進んだレイソルアカデミーのパスサッカーにフィット。ジュニア年代から涼しい顔で相手DFの間へ鋭いパスを繰り出していたし、アカデミーや年代別代表でのカテゴリーが上がるにつれ、その距離や精度、GK技術を高めながら、プロの扉をノックした。
巧みなボール扱いと高めのポジショニングが印象的だった2021年のプロデビュー時には、「攻撃的なGK」と表現されたが、「自分ではそうは思っていないんです。パスやフィードだけにこだわってはいないですし、割り切りがついているんです」と本人はやんわり否定する。
佐々木はアカデミー時代にはアカデミーの、年代別代表では年代別代表の、そして、レイソルではレイソルの戦い方に則って自らの姿を変え、フィットしてみせる。いわば「オールラウンダー型」を極めようとしているように映る。
「現在のレイソルではリスクを冒さないビルドアップ参加を求められているので、パスの選択肢も近くよりも前方を見る意識が強くなっています。そこに則ったチャレンジであれば、ネルシーニョ監督は評価してくれますから、前へ蹴るにしても、ポジティブに、積極的に、プレーできています」
優勝で終えたドバイカップ。そして、今回のアジアカップへ向かっていく中で佐々木が感じていた昨季と今季の違いは、自分の中に生まれ出した「サイクル」の存在だという。
「やはり開幕前の『ちばぎんカップ』にスタメンで出られたことが自分の中で大きかった。『ちばぎん』を経てルヴァン杯初戦に臨むことができたので、実戦への良いイメージ作りと試合までに取り組むべき課題がしっかりと掴むことができていたので。そのサイクルの積み重ねがドバイカップでのパフォーマンスへ繋がっていったのだと思っているんです。だから、続けていきたいですね。今の自分は『試合に出ること』が大事なんです」
ウズベキスタンへ旅立つ前に、韓国代表GKキム・スンギュに代わって、Jリーグとルヴァンカップを合わせて4試合連続出場という「サイクル」が発生したことも追い風だ。試合に出て実戦を重ねる中で、GKである自分が何をすべきなのかについても整理されていたという。
「レイソルにはスンギュさんというGKがいて、自分の出場機会はまだ限定的な状況。試合で起用してもらえた際には、『しっかりと自分を示さなければ』と思いますし、出場機会が少ない中でもU-21代表へ呼んでもらえた時に、試合に出ていないということが、言い訳にならないようにしなければと思います。自分の特長だけを強く主張するのも違いますしね。自分は『勝利から逆算してプレーすること』が良いプレーへ繋がっていくと信じているので、これからもそこを見失うことなくやっていきます」
ドバイカップから約1ヶ月が経ち、再びU-21代表へ招集された佐々木。今回は小久保に代わり、野澤大志ブランドン(盛岡)という優秀なタレントがレベルの高い競争に加わった。佐々木にとって当たり前のストーリーがおそらく現役を退くまで続いていく。佐々木は語気を強めてこう語ってくれた。
「彩艶にブランドン、ブライアン。各々はっきりとした個性や特長を持ったGKばかりですが、今後も彼らに負けないように、レイソルでアピールを続けていきたい。チームで結果を出さなければ、代表へ呼ばれませんからね。自分のやるべきことを完璧にやっていきたい」
昨秋に行われた代表合宿でのある日のトレーニング。コーチ陣がゴール前に散らばったボールを片付けはじめると、佐々木が「もっとやりましょう!」と声を張り上げ、ポジションにつくと、トレーニングは続行された。チームの中での振る舞いには、レイソルアカデミーが輩出してきた多数の優れたGKの中でも特別なものを感じさせる。
また、佐々木とのプレー機会が増えた柏レイソルDF大南拓磨からは佐々木が持つ肝の太さについての言及があった。
「まだ若い選手ですけど、『マサ、試合は緊張する?』と聞いてみたら、『全然しないです』って言える、良い図太さがあるし、技術も高い選手。自分たちCBからしても、安心して自分たちの後ろを任せられるんです」
まさに「心・技・体」が充実した状態で迎える「AFC U23 ASIAN CUP UZBEKISTAN 2022」というキャリア最高のステージに臨む前のその気持ちも佐々木らしかった。
「このアジアカップに出場することができたら、優勝を目指してプレーをする、チームの力になれる選手でありたいです」
クラブでの実戦から準備。また実戦、そして、代表。また、実戦。そして、付け加えるならば、強烈なライバルに恵まれたという「天命」も含めて、こんな幸せな「サイクル」を歩む佐々木がどのような結果を残し、そのサイクルにどのような彩りを加えるのか楽しみだ。
text & photo by 神宮克典
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