「僕/私」

眼鏡を手を手に取る。
眼鏡せずに生活を送る人なんていなくなった。
それを掛ける事で今まで見ていた世界は変化し、様々な色を持つ。
鏡に写る自身の姿も思い描いた憧れの姿へと変わる。
僕もこれから眼鏡かけ、いつもの遊び仲間の所へ向かう。

◆◆◆

私は、遊び仲間の中では頼られるキャラでいる。
そういうキャラになるように眼鏡を掛けて見える見た目を調整したし、そういうキャラ作りを徹底した。結果として、そういうキャラとして認識されたのは努力の賜物という所だろう。
「カリタさんに相談があるんですが……」
そう私に声をかけてきたのは、仲間内でも問題を抱え込みがちなアズさんだ。
「全然聞くよ。どうしたの」
遊び仲間たちはまだ来ておらず、私とアズさんは二人だったのでこの場で聞くことにした。
「実はまた友人たちの争いに巻き込まれてしまって……お前はどっちの味方なのだと」
「互いの言い分は聞いてみた?」
「話は聞いてみたのですが、どちらにも言い分があって」
「どちらの味方に付いたらいいのだろうって?」
「まぁそういう感じです。いつもみんなの頼りになってるカリタさんだったらどうするのかなと思って」
「私だったら、まぁ、自分が納得できる言い分を持っている方かなぁ……」
「確かにそれでいいのかも知れませんね……」
アズさんの顔が少し曇ったように見えた。
「私はって話だから、アズさんはアズさんなりの答えを出してみてね」
何か答えを間違えかと思ってフォローを入れてみる。
「あ、はい、それは大丈夫です」
「そう。なら良かった」
「ですです。ほんとこんな面倒な事が起こるのは眼鏡をしていない間だけにして欲しいですよね。俺は、こういう面倒なのが嫌で眼鏡を掛けている時は気弱な優柔不断なキャラを通しているので……カリタさんみたいに頼られキャラで居られるのは凄いと思いますよ」
アズさんの突然の暴露に思わず戸惑い、言葉を失う。
「あれ? 驚きましたか? ハハ、これは他の人には秘密ですよ。失礼なのは承知ですけど、仲間内で頼られてるカリタさんに私の代わりに問題を考えて貰ったってわけです。私の答えとはちょっと違ったけど、概ねはその通りかなと思うのでその方向で行こうと思います」
普段のちょっと引っ込み思案であまり意見を持たない感じのアズさんとは全然違う。饒舌でキッチリと言ってくる。
「カリタさんは、いつも頼られているの疲れません?」
「いや僕は……」
突然の質問に思わず素で答えてしまう。
「素でいるのが楽かー、凄い。これからもよろしくお願いしますね~! あ、ちょっと呼ばれたので、それでは、また」
私には、聞こえてないのでダイレクトメッセージなどで呼ばれたのだろう。
アズさんは、手を振り私の視界から消えていった。
私も、ちょっと遊ぶ気分ではなくなってしまって、自宅へ戻り、眼鏡を外した。
◆◆◆

僕は、みんなに頼られる人に憧れていた。
私は、みんなから頼られるようにしてきた。

だから眼鏡を掛けた姿はそうなるように努力をした。
憧れていたから。でも、憧れていた存在は、頼られないように過ごしていた。

どうして、アズさんは、頼られないように努力をしているんだろう。
私の憧れていた頼られる人というのは――。

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