20230223
まんがかんそうぶん。
三文未来の家庭訪問 庄司創(講談社アフタヌーンコミックス 2013/3/22 1刷)
SF短編集。短編とはいえ長い。さすが四季賞出身。
「辺獄にて」
貧困の再生産、宗教二世、ファーストコンタクト、そしてラブストーリー。最後が急に身近だ。いや、ファーストコンタクト以外は身近なんですが。
主人公は母子家庭で育ち、その後母親が急逝したため施設で暮らしたおっさん。
そして急に死ぬ。
その走馬灯の一瞬を千年に引き延ばす宇宙人が出てきて、思い出す時間と未来を考える時間とを千年ぶん手に入れてしまう。人間の寿命より圧倒的に長い時間を思考に明け暮れる。
思い出せば地獄、未来について考えると、それはもう手に入らない時間であるわけで、考えれば考えるほど地獄。生きるって死ぬよりむつかしい。
300万円で未来を取り戻したおっさんは、宇宙人のハイパーテクノロジーで生き返って終わる。クライマックスの、全身を使って、下を向いて、なんとか未来の扉を開けるシーンが印象的だった。猫背のまま虎になりたい。
「ちゃんとした」親がどれほど難しいか。難易度の低い家庭がどれほど難しいかとつくづく思う。まじめなだけじゃだめで。人生というか、生きるとは修正の連続。修正を受け入れらない人間はいつか必ず破綻する。そのとき身近な人を巻き込んで破綻するのだ。破綻は連鎖する。悪意のぷよぷよみたいに連鎖する。連鎖中はなにもできずただただモニターを眺めるしかない。いや、連鎖終了後の世界を予想して行動計画を立てておきましょう。
「三文未来の家庭訪問」
宗教二世、遺伝子操作、性差、そしてラブコメ。
主人公は強制解散させられた宗教団体の生存者。男の子。小学生。遺伝子操作されて、男性でありながら出産が可能、見た目は女の子。それって女の子なのでは。でも、本人の性自認は男性。社会復帰として小学校に編入する。まぁ、腫れ物ですな。とはいえ、未来の日本。それなりに社会がバリエーションを受け入れる文化的成熟を獲得している。宗教がないからだろうなぁ。国体に宗教、思想が不可分に組み込まれていると、不寛容になるだろうし。そういう意味で舞台は日本でよかったな、と。日本じゃなかったら即死でしょう。即死と言うか即殺。教義に反する存在だから。現在においても、まぁ、日々似たような感想は持ちます。
で、その編入先にかわいい女の子がいるだけれど、これが宗教二世。同じく腫れ物。日本でよかったな、ほんと。宗教の自由が認められててよかったよかった。お母さんがガッチガチの信者で、それ以外の生き方を知らない。したがって娘にもそれ以外の生き方を教えられない。宗教二世の誕生です。修正を受け入れらない人はこうやって破綻する見本です。
みんなして短気ですよね。自分の世代で幸せになれる、問題は解決されると信じてる。未来に託す、ができない。300年後には解決されているだろうが、そのために今は種をまく、水をやる、その一粒の種になる覚悟がない。自分が受益者になりたいと願ってやまない。猫背のまま虎になりたいと祈ってる。世界はおまえにとって不都合の連続なのだと認めない。
あと「三文オペラ」って言葉が珍妙だなと思いました。通貨単位と文化背景がつながってない感じがします。こういう珍妙な翻訳だいすき。
「パンサラッサ連れ行く」
時はカンブリア紀。舞台は海。海中生物、みじんこのご先祖様たちの物語。そのみじんこたちが擬人化されて書かれる。一読では例えがわからんかった。原形でかくか、擬人化するかどっちかにしてくれ。
生きるために侵略したり、外交したり。神に祈ったりする。それぞれの種が種族を形成し、融和したり、排斥したりしながら海全体のバランスが保たれている。
最後には見えない未来を暗いものとして恐れ、それでも生は続いて終わる。
生きるためには何をしても許されるんですかね。生存バイアスが強すぎて、発狂しそうになる。みんな正しい。わけあるか。みんな正しいので、ぶつかって、残った考えが正しい。だとするなら優れた暴力こそが正であり、ほろんだ種は、間違っていたから、劣っていたから、妥当であるとするのは、それこそ暴力である。が、しかし、世界はその暴力に満ちていて、誰にとっても不都合の連続だ。生きる、生き残るのはむつかしい。運よく惰性で生きられる時代がある。そして生きるを忘れてしまう。死ぬ間際におもうんだろうなぁ。「生きてた」って。「生きたい」って。手遅れなのに。
生きてる間は、生きてるのを忘れてしまう。それは悲しい。
さすが四季賞。うっとうしい短編集でした。タイトルの含意、作中の意思、作者の考えていることを答えられるだろうか。さっぱりわからない。読んで、自分の中に生まれた感想だけが正だ。作者が何を考えているのか答えなさい、と最後のページに書いといてほしい。わかりません、と答えます。
そういう作品に触れた時、とても悲しくなる。わからない、の箱にしまう。残念で悲しい。
もっとわかりやすく、私にもわかるように具体的に、理解できるように、誤解がないように書いてほしいなんて願ってしまうが、そんな都合の良さは期待するべくもない。
自分の中の感想だけを抱えて生きてゆく。そういうところもふくめて四季賞っぽい。
四季賞のマンガ読んだな!