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誰が『BANANAFISH』を殺すのか

どハマりしているアニメ『BANANAFISH』(以下BF)、終了まであと3話、というタイミングの22話予告で
個人的にはとんでもない爆弾が投下されたので、書くことにしました。

<何が起きたか>

セカンドレイプと呼び得るセリフがありました。

毎週木曜深夜に放送されているアニメなのですが、その予告が、放送週の火曜(もしくは水曜)にウェブ上で発信されています。
映像はしっかり予告ですが、音声が基本的にはギャグテイストの掛け合いとなっていて、本編がシリアスな分、予告で癒される……みたいなことが多くありました。

22話予告では、主人公を昔から知る重要人物Bと、主人公との掛け合いが行われました。
Bが主人公に呼びかけます。「はぁい、ムービースター」と。

https://www.youtube.com/watch?time_continue=2&v=W_EkWwhuCK0

この「ムービースター」という言葉が問題でした。

BFの主人公は性的なトラウマを抱える少年です。受けてきた被害の中に、年少時に受けたレイプの様子を撮影されムービーとして残される、というものがありました。
そのレイプにおける加害者がとある件で殺された際、「お前はあいつを憎んでいた、だから殺したんだろう」と濡れ衣を着せられるシーンがあるのです。
そのくだりで、主人公の冷静さを奪うため、主人公や他に複数人の刑事のいる場でたっぷりとレイプ動画を流した人物が、去り際の主人公に言うのです。
「またな、ムービースター」と。

とても殺傷能力の高い二次加害です。

またこれは重要なポイントと思うのですが、先日放送された21話では、主人公の「レイプされ、その自分の様態を自分の許可なく被写体にされる」というトラウマが再度強調され、撮影していた加害者と相対するシーンが発信されたばかりでした。


<なぜ、今回の予告がセカンドレイプたり得るのか>

「またな、ムービースター」のセリフが発されるシーンは第2話なのですが、この2話において「ムービースター」と言う言葉は、主人公のトラウマを十分に抉るものとして用いられました。

この語を使用して主人公のトラウマを抉るシーンを締める、と製作は選択し、発信したのです。

2話においてのこの演出は、素晴らしいものだったと思います。
甘さのかけらも当然なく、とても誠実さにあふれていた描き方だったと、自分は感じました。

その、二次加害表現の極め付けとして用いられた語が「ムービースター」だった、はずなのです。

そのセリフがなぜ
こうも軽々しく、親しみの表現であるかのように、今回用いられてしまったのでしょうか。

セカンドレイプって、性的加害なんですよ。
でね、
性的加害を軽んじて扱うのって、セカンドレイプの典型的なもののひとつなんです。

なので今回の予告は、セカンドレイプの構造を持っていたと思っています。

セカンドレイプをしたのは、セリフを発したBではありません。
Bに、あえてこのセリフを言わせると決めた公式です。

Bと主人公との間で行われたセカンドレイプ、ではないんです。
Bという人物や、Bと主人公との関係性などの、キャラクター解釈の話ではありません。


いろいろな人が「原作補完」という旨の声を上げていますが、懐疑的です。
というか、
原作補完なのだったとしても、結局は「原作のセリフをなぜわざわざ改変して、なぜわざわざ『ムービースター』という表現に変えたのか」という問題が残りますし、セカンドレイプたり得る構造であるという点は変わりません。

他にも、主人公とBとの関係性から見てBに性的揶揄の意図はない、というような声も見ましたが、それにしても同様です。
なぜわざわざ、ムービースター?

Bというキャラの意図ではなく、公式の意図と認識の問題なのではないですかね。


何がイヤって

ここまでのアニメBFにおいて、性的な被害・加害は
本当に、ほとんど徹底して誠実に描かれていたと思っています。すごく信頼していた。許さない、という強い意志とそれを表現しようという意図も感じていました。

とあるキャラクターの言動に関しては初期から「おいお前……」という点はあったし、
そのキャラがやったことについては、つい先日も「アウトです」「それリアルでやったら、目の前の被害者しぬかもよ?」っていう描写があったのですが(これは原作からそういう内容です)
ただこちらは
主人公の自己肯定感がこう、低くて、
年上の成人男性の「やさしさ」に見えるものにめっぽう弱くて、
だからつい反抗せず受け入れてしまう、という点で言えばとてもリアルではあるなと思っていて

受け入れてしまうからこそ、その時に言われた「こんなもの(被害)にお前はもうとらわれなくていいんだ」という言葉のかけらが主人公の中に残って、
それが主人公を助けた部分もあったろう……とも、思えなくもなかったのです。
本当にそのキャラの言動はアウトだったと思うんですけど
この2人の関係性に限っては黒だけはないように見える、みたいな。(感想には個人差があります)

でも、今回はそうじゃないので。

だから、公式さんにがっかりしたのですが
いやでもね、
「認識が甘かった」「間違った」ってなることって、まぁ、誰にでもあると思います。

私にもあるし、
それでときどき指摘してもらって「ごめんなさい、ありがとうございます」ってなったりします。

ダメなことをダメと教えてもらえるのは、とてもありがたいことです。

公式から今後、どういう反応があるのか(ないのか)は、わかりません。
それは今後も見ていきます。

でも、でもね、私ら視聴者が
「いやこれはきっと***だからセーフだよ!」
って、
そういう保身に走ってしまったら、それはもう本当に取り返しのつかないことではないか
と思うのです。

このへんの話って
「本当に全然気にならなかったけど……?」て人ももちろんいるし、
本気で「セーフでしょ」て思ってる人ももちろんいると思うのですが、
こういうのって、意図ではなくて構造の話なんですよ。

意図も問いたいけど、
意図があろうとなかろうと、構造の問題なんです。
気になる・ならないの話にとどまらない。

性的加害を軽んじた形でマスに発信する、ということの社会的な意味、それのもちえるパワーの話です。

でね、
もし、もしも「アウトな気がするけどアウトじゃないって信じたい」って気持ちから
セーフだよって言える材料を探して発信してしまってるんだったら、
それをちょっとだけ、待ってみてほしいんです。

大切な作品だし、きっと切実に大事にしたい作品なのだろうとも思うし、BFファンのコミュニティのあたたかさとか居心地のよさってけっこうすごいから、そういう繋がりを大事にしたい、という気持ちとかめっちゃわかるし。

でもさ

それで性的被害を軽んじると、無言で弾かれて消えていくしかできない被害者が生まれるんですよ。

それに

製作に「これはアウトだわ」ってところが見つかったとしても
「それでもこれは好きな作品だし、最後まで見るよ! 見たい!」っていうのは、全然悪いことじゃないんだし。だから、その点は安心してほしいなとかも思うし……。

私は、最後まで観ますよ。
私にとっても、ずっと大事な作品です。
原作だけじゃなく、アニメにもずっと感謝してる。

1話で、「顔はうつすな」ってセリフが、アニメオリジナルで入れられているんです。
あれを聞いたとき、
本当に、この製作にずっとついていこうって決めたんですよwww

性的な加害がどれだけのパワーを持っているのか、
それをちゃんと考えたことがある人たちじゃなきゃ、あのアニオリは挿入されないと思う。(甘いかな)

繰り返し、繰り返し、
性的な加害・被害に対して、誠実さを積み上げてきた公式ですよ。
そういう姿勢も込みで愛好してきたのではなかったですか。(そうじゃなくてももちろん、本当にそれでももちろんいいんですけどもね)

セカンドレイプ的なものを、我々ファンが「セーフ!!!!」にして受け取ってしまうのって、
これまで公式が積み上げてきたものを、もしかしたら本当にぶち壊しにしてしまう行為なのではないかって思うんですよ。

誰が『BANANAFISH』を殺すのか。ファンの保身と油断です。

性的な暴力・被害への抵抗が超図太いテーマとして横たわっているこの作品のファンが、作品への愛のためにセカンドレイプに対して鈍くなったり、保身・庇う行為のためにセカンドレイプを強化してしまうような構造を作ってしまうなら
そのときこそ、アニメ化は失敗という結果になるのだと思います。

すごく今、わかれ道だと思います。
アニメ化が成功で終わって、……そして映画化がマジで実現してくれますようにと、心から願っています。


……偉そうに書いてごめんね!
でもこういう風に思ってる人もいるよってちゃんと書いとかないと、いつかどこかで誰かたちが消えていくので、もうそういうのいやなんですよ。

こういうのは、たぶんセンシティブなくらいがちょうどいいんだと思ってます。



おしまい。

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