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NPR Planet Money 'Mask Mover'
NPR ポッドPlanet Moneyの4/17版、'Mask Mover'です。
ジェフ ポーレンは引っ越し屋。個人の引っ越しではなくて、会社丸ごとの引っ越しなど大規模なもの。
ジェフ「一度仕事をした人とはずっと連絡を途絶えさせないんだ。複雑な仕事、大好きですよ。色んな会社に出入りしたし、色んな政府機関の建物にも出入りしてきた。」
しかし、今は、自宅待機で誰も動いていないので、彼のビジネスも3月上旬に休業した。
そのすぐ後、3/13にメールを受け取った。
「イリノイ州政府からメールが来たんだ。”PPEを見つけてくれ”ってね。CCを見たら1000以上の同じような中小企業宛に送られていた。」
PPE。個人防護具。マスク、ゴーグル、ガウン、シールドなど、医療スタッフや一般人を感染から守るものだ。
全国的にPPEが少なくなっていた。国内からはもう買えない。中国からも中々来ない。連邦政府が製造して配ってくれるかと思えばそれもない。
現場は戦々恐々。自分たちでPPEを作ったり、規定よりも長期間使用したりして医療スタッフはどうにかしのいでいる。
ジェフ「私は医療物資のエキスパートではないけど、このリストに載っているものは全部確保できる自信があった。」
ジェフは「できます。」と返信「ただし、私のやり方でやらせてくれ」とも言った。
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各州が競ってPPEの獲得に奔走していた。ここで何が一番大事かと言えばサプライチェーンだ。これからこのイリノイ州の医療物資獲得の戦いの一つを紹介する。生と死の分かれ目は、コンピュータールーム、$3.5 mil (3.5億円)の小切手、そしてman with a van(引っ越し屋)に託された。
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ジェフがまず電話したのは彼の最初の仕事の上司。20代からの付き合い。その元ボスはシカゴでシルクスクリーン印刷の会社を経営している。今でも頻繁に連絡し合う仲だ。Tシャツなどの印刷なので、中国にコネがあるだろう。
運輸のエキスパートも必要だ。
話し始めて20分もしないうちに、元ボスの紹介でドイツにいる輸出入、ロジスティクス業者と3ウェイコールが始まった。
そして、次は中国国内のコンタクトが必要になる。
ウェイが適任だ。
ウェイはテキスタイル業者。1年に3ヶ月はシカゴにいて注文をとり、残り9ヶ月は中国でその製造を工場で監督する。
中国まで入れた4ウェイコールになった。
注文を一つの工場で受け付ける事はまず無理だろう。今世界中から注文が来ているから。とウェイ。
でも、私は顔が利くから多くの工場にちょっとずつ注文を滑り込ませる事は出来る。2万はこっち、10万はこっち、という感じで。
そしてウェイは話を付けに奔走し、100万枚のマスクを注文する事に成功した。そして50万枚、すでにできているマスクも色々なところで見つけたのでそれもゲット。彼は150万枚のマスクを獲得した。
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その頃ジェフはなんとルイジアナ州からもコンタクトを受けていた。同じマスクを、$2 mil (2億円)割り増しで買う、というのだ。
商売人にとっては夢のような事態だ。
ジェフの周りではこの状況を利用して、値段をつり上げる業者もたくさんいた。大体ジェフの本業は休業中なのだから、ジェフだってお金は必要なはず。周りも「ルイジアナを取るべきだ」と言っている。
ジェフ「そうやって、値上げして、大きな利益を得てる人達を責めはしないよ。でも、できなかった。」
ジェフはイリノイに48年住んでいる。
ジェフ「嫁さんはここの看護師だし、両親も、親戚もみんなここにいるんだ。もし、私がここでルイジアナを取った事で、私の知り合いが亡くなったなんて事になったら、、、?私がマスク一枚に$2上乗せしたかったが為に?」
結局ジェフはイリノイ州に留まった。
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イリノイ州政府オフィスにメールした。
「ブツは注文できるよ。」
メールは180マイル(290キロ)離れた州庁舎で開かれ、緊急対策部〜物資獲得班を経て監査官室に伝えられた。
監査官とは州の会計士。支出を司り、小切手を切る部署。
エレン アンドレス。州監査官補佐。エレンの仕事はイリノイ州民の収税が無駄な事に使われないように監視する事。
ジェフのメールを見たとき、エレンは心配になった。「マスクの支払いは、全額前払いで」と言うのだ。
ジェフ「中国の現場はイリノイが誰かなんて知りもしないし、どうだっていい。金がなければ、注文は成り立たない。」
中国の銀行にすぐ送金しなければいけない。ジェフのメールには「明日までに、まず私に送金できなければ、時間内に中国に届けられない。この機を逃せば次に注文を取り付けられるのはいつになるか分からない。」とも書いてあった。
エレンは思った。前払い??あり得ない!
エレン「州政府が前払いをする事はまずありません。」
イリノイ州では州が何を注文するのにも3−6ヶ月かかる。契約の内容を監査官がしっかり調査、吟味する。しかし、今この状況で医療物資の注文がこのプロセスによって行き詰まり、結局契約を失う、という事例が多発していた。
300の人工呼吸器を仲介を介して注文したと思っていたら、一晩のうちにNY州が製造元の中国から直接倍の値段で、300全て、そして更にその工場が持つ全ての人工呼吸器を買ってしまった。
モタモタしていると、なにも手に入らない状況だった。
エレン「今まで通り注文書をプリントして、送って、、、などとやっていたら何もできない非常事態だ、って分かってた。」
ルールを破る事は本望ではなかったが、人の命がかかっている。型破りでいこうと決めた。
さて、ジェフのメールが来たのは午後5時だった。
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イリノイ州は独自に海外送金はしない。小切手を刷り銀行経由で海外送金をする。エレンの働く階に、州発行の小切手を印刷するコンピュータールームがある。年に2000万件の小切手を印刷する。毎日3時にIT技師が機械を立ち上げ、翌日送付されるべき小切手を刷り始める。
公立学校の教師の給料や年金など、数万件の小切手を3時からノンストップで刷り始める。
ジェフの小切手を明日までに届けるには、彼の小切手を優先的に刷らないといけない。しかしもう、機械は動きだしているのだ。
エレンはこのシステムを中断した事は無い。
システム落とせばどうなる?再開したときにそこから始まるのか?ファイルはちゃんとセーブされるのか?
プログラマー、ジェリーが呼ばれた。
ジェリーは少し考えた後「理論上は出来るはずだよ。」
オッケー、、、、で、どうする?本当に止めるのか?本当に、小切手1枚の為にイリノイ州全体の支払いプロセスを中断するのか?
エレン「でもこれをやらなきゃ、人が死ぬかも知れないんでしょ。やるしかない、と言ったわ。」
ジェリーがコードをうつとシステムは止まった。そしてその後3時間かけてジェフへの支払いをシステム内で認識、確認して、印刷順の先頭にあげた。長い3時間だった。
ジェリーは$3.5Mの小切手を印刷機に送り、システムを再稼働した。システムは問題なく立ち上がり、ジェフの小切手は印刷された。
心地よい達成感と共にエレンは帰宅した。「明日、ジェフが小切手を取りに来て、そうしたら150万枚のマスクが注文できるんだ。」
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次の朝、ジェフから大声の電話があった。ジェフは支払いが彼の銀行口座に直接送金されると思っていたのだ。
ジェフは「私の銀行は今日早く閉まるんです!2時までに小切手を銀行にもって行かないと、注文が成立しない!」と叫んだ。
ジェフの自宅は彼の銀行から180マイル(290キロ)離れている。
時間内にジェフが銀行に小切手届けるには、エレンが小切手を持ってジェフまで届けるしかない。
エレン「それは考え得る全ての規則に違反する行動でした。」
州政府の公費を$3.5M(3億5千万円)、車の助手席に乗せて、会った事も無い人に送り届ける。監査官の資格を剥奪されるかも知れないレベルの違反。
でも、しょうがない。
ジェフは「中間地点で落ち合おう」と言った。ドゥワイトで。そこの高速出口のマクドナルドで。
ジェフが先についた。エレンがその後。二人は車から降りて、お互いを見た。もちろんSocial Distanceを保ったまま。
ジェフ「金はあるか?」
エレン「これです。IDは?」
ジェフ「免許証のコピーと、コントラクターライセンスだ。」
お互いに中身を確認。
肘を突いて(握手の変わりに肘をぶつけあう挨拶がNew Normalです)、ジェフは走り去った。
ジェフは閉行20分前の銀行に滑り込み、中国への送金の手続きをした。これが中国に着くにはまた時間がかかる。ジェフはその証明書の写真を撮り、中国にメールで送った。
中国側は、その証明書写真を信用し、少し早く製造を開始した。
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4月の上旬、150万枚のマスクが届いた。半分は州の備蓄庫へ、半分は早急に医療現場に配られた。
エレンは言う。
このマスクを注文できて本当に嬉しかった。でも、苦い思いもある。この150万枚のマスクはニューヨークやカリフォルニアやルイジアナも欲しかった物資だ。隣人と奪い合うのはいやだ。
どの州も言う、連邦が一括して管理して欲しかった。と。
でもそのようなシステムは無かった。
アメリカは、ジェフやエレンのような人達に支えられていた。
祈るような州からのマスメールに応えた引っ越し屋。たまたま人生最初のボスと連絡を途絶えさせなかった引っ越し屋。その初ボスがドイツにいる誰かを知っていて、そのドイツの誰かが中国の誰かを知っていて、その中国の誰かを信じる工場がたくさんあった。
そして$3.5 milの小切手を助手席にのせて高速をぶっとばせる監査官。