ミコ・ぺレド、スピーチ(2)
パレスチナ解放運動家のイスラエル人、ミコ・ペレドの2020年のスピーチ。第二回。初回はこちら
*講演中、彼はイスラエルと私たちが呼ぶ国の事をパレスチナと呼んでいます
1948の真実
もしあなたがイスラエル人として生まれていれば、1948はヒーロー伝説として教わる。独立の記念日だと。それが超絶効果的な民族浄化キャンペーンだったことは教わらない。情熱を持って綿密に計画された長期のキャンペーン。残酷で暴力的な民族浄化。およそ100万人のパレスチナ人を追いやった。
その末裔500万人が今でも難民キャンプに暮らしている。
その事は語られない。
聞くのは1967からの「占領」の問題だけだ。「正当なイスラエル領土proper Israel」と「ちょっとヤバ気な占領地区(ガザと西岸地区)」がある、と言う。「正当なイスラエル領土」とは?
なぜ、パレスチナ人の民族浄化、何百もの町や村、家屋、学校、モスク、教会の破壊は語らず、1967年の「占領地区」の話ばかりする?
パレスチナの問題は「占領地区」でない。パレスチナの問題はその全土が侵攻され、民族浄化を受け、アパルトヘイトの圧政を強いられた事だ。
ZOCHROTという団体がある。是非覗いてみて欲しい。
Zochrotの意味は「Remembering」。破壊された村や町の記憶を記録する非営利団体。そこで、あらゆる村や町についてデータがある。人口はどれだけだった?どのように住民は殺された?どの軍部が破壊した?何がその村・町で起こったか、詳細が記録されている。
ざっと見ると、虐殺、虐殺、虐殺、虐殺、虐殺、虐殺、虐殺、、、、。「虐殺が起こり生存者は逃げた」「虐殺が起こり生存者は逃げた」の繰り返しだ。
ジェノサイド、民族浄化、アパルトヘイト
オンラインで「ジェノサイド犯罪crime of genocide」の定義を探してみて欲しい。
それを読んだ後、パレスチナの過去70年の歴史を見てみて欲しい。私はそれをした。そしてその結果はショッキングなものだった。過去70年間パレスチナ で起こった事はジェノサイド以外の何ものでも無い。
「ジェノサイド犯罪」は国際法ではっきり定義されている。「民族浄化」も、「アパルトヘイト」も。
これらの単語を使うことは大きな責任を伴うこと。ある国家のジェノサイド、民族浄化、アパルトヘイトを非難する時、あなたはその定義を確実に100%理解していないといけない。(その上で私は言う)イスラエルは、ジェノサイド、民族浄化、アパルトヘイト圧政を行なって来た。国際法定義のそのままである。
なので問題は「占領」では無い。問題は入植型植民地主義であり、人種差別主義であり、イスラエルによりパレスチナ人が被る暴力である。
私が20年前このサンディエゴで踏み出した「あちらの世界」への旅は、そのことを教えてくれた。これが「現実」だと。少しの疑問もなく明確に示してくれた。
特権世界の住人が、良心に従い、流れに逆らってあちらの世界へ行く事は少ない。「特権」と「良心」は大体相反するものだから。でも、時々、人々はそうしなければならない事態に追い込まれる。私がそうだった。
私がしている事は「勇敢」でもなんでも無い。「義務」である。ただ大多数の人間はそれを敢行できる立場に無い。
ただ、私は、良心ある一個人として、シオニズム、イスラエル国家を否定しない訳にはいかないのだ。良心があるならそれらは否定されなければならない。
なぜか。イスラエル国家を築いたシオニズムは、人種差別的イデオロギーだからだ。残忍で、暴力的、人種差別的なイスラエル国家を作り上げた。この主張が「反ユダヤ」だって?私はユダヤ人だ。同じ主張のユダヤ人は多数いる。私よりずっと前からそう言い続けているユダヤ人は数えきれない。
大体、反シオニストの世界最大コミュニティはユダヤ人だ。超正統派ユダヤ人。シオニズム台頭の当初からずっと異議を唱えている。「パレスチナの地に"ユダヤ教国"を作るなど、聖地に暴力しか生まない。」と。120年前から言っていた。イスラエル建国は「ユダヤ教信者とイスラム教信者の関係を悪化させる。」と。当たっていた。
シオニズム・イスラエル国家の否定は「反ユダヤ」などでは無い。逆だ。人種差別を否定し、暴力を否定する。それがユダヤの教えだろう。
そんな当たり前の事を何度も言わなければならない、その事実が問題なのだ。
国外パレスチナ難民
ヨルダンには何百万人ものパレスチナ難民がいる。先日難民キャンプを訪れた。ヨルダン北部のジェラシュにあるガザ難民キャンプ。舗装されていない道。最低の生活基準に達していない環境。貧困。形容しようの無い悲惨な状況。4万人が1/4平方マイル(160エイカー、東京ディズニーランドは126エーカー)に暮らしている。
パレスチナの国境から車で1時間。パレスチナ国内の彼らの出身地までは2時間。なぜこんな所でこんな環境で暮らさなければならないのだ?理由は一つ。
1948年、イスラエルが建国と同時に国外のパレスチナ人の帰宅を違法にしたからだ。
ここの難民達はこんな酷い環境で、衰弱しながら暮らしている。単に、家に戻る事を禁じられているからだ。
子供達は自分の家族がパレスチナ国内のどの町・村から来たのか知っている。全員だ。誰も「ここ(ヨルダン)出身だ」なんて言わない。ベエルサバ、ヤッファ、アスカラン、、、彼らは全員、どこの村から来たのか明確に覚えている。
この難民キャンプを歩いていて思う。(ヨルダン)川の向こう、イスラエル政権は年に$4B弱/年の援助を(主に米国から)受けている。イスラエルは裕福な国だ。イスラエルのユダヤ人は誰も難民キャンプのパレスチナ人の様な環境で暮らさなくて良い。川のこちらは舗装道路も、下水も、マトモな教育施設も無い難民キャンプ。
どうしてこれが「問題ない」と言えるのか。
「正当イスラエル」領土内のパレスチナ人
パレスチナの南半分以上はネゲブ砂漠と呼ばれる。そこは「proper Israel」と呼ばれる地域(1967以前のイスラエル領)である。
肥沃な砂漠地帯で農業に向いている。地下水も豊富だ。1948年イスラエル建国前、この地域には10万人のベドウィン(アラブ遊牧住民)が住んでいた。自分たちが数世代にわたって所有してきたその土地で農業を営んでいた。
イスラエル建国時、民族浄化の結果、このベドウィンの90%は土地を追われガザ やヨルダンに散った。残ったのは1万人。
70年後の今日、ネガブ地域には20ー25万人のベドウィンが暮らしている。彼らはネガブ砂漠北部に集められ、農業を禁止されている。
農業を営み、都市、町、繁栄し裕福なイスラエル人のコロニーの隣に、失業と貧困に喘ぐパレスチナベドウィンのゲットーがある。ネガブ地方のベドウィンの半数は水道も、電気も、道路も、医療機関も無い、イスラエルが法律上「町」と認識しないその様な地域("township")に暮らしている。10万人。彼らは「イスラエル国民」である。高速道路の向こう側に住むユダヤイスラエル人と、同じ国民であるはずなのに、全く違う現実を生きている。
オメルという町。新しいイスラエルの町だ。栄に栄え、現在経済成長4位。
道路の向こうはテル・サバというtownship。高い失業率。貧困。ここに住む人はオメルに行く事はできない。警察に止められる。
そのどちらも「イスラエル国民」だ。完全に違う現実。
分かるでしょう。問題は「占領地」だけでない。イスラエルという国そのものなんだ。残忍な政権。パレスチナ人の生活を不可能にする政権。
テル・アビブの足下には
前述したZOCHROT。ツアーもやっている。もし機会があれば参加をお勧めする。破壊された町や村のツアーだ。そしてそこに何が建てられたか見る事ができる。ヤッファのツアーに友人達と参加した。
ヤッファはとても栄えていたパレスチナの街だった。人口10万人。劇場、商店、カフェ、政治参加する市民、新聞、、、近代のメトロポリスだった。海岸近くのハッサン・ベク モスクに行った。今はテル・アビブ。でも昔はヤッファだった。
ツアーガイドは何枚かの写真を見せてくれた。
まず最初はNachum Gutman(1930~1940ヤッファ在住)。彼の絵画、砂丘、モスク、港、その間の欧州風の建物。
その次にその時代の同じ場所の写真。人で一杯の街。ギッチリ建つ家屋。それらは最初の絵には描かれていない。
次の写真。1948に侵攻された直後のヤッファ。第二次大戦後のベルリンと同じ様な写真だ。家屋、建物は全て瓦礫になっている。
そして今をみる。プロムナード、公園、芝生、駐車場。それらすべての足下に数千人のパレスチナ人の住居がある。1948年、10万人いたパレスチナ人は3千人になった。街は壊滅、その後テル・アビブになった。今は誰も前の事を覚えていない。
多くのイスラエルの町々に、「アラブ人住居」がある。エキゾチックな、前時代風の、「アラブ人住居」。住人はどこに行ったんだ?「知らないな。」
そしてここのアラブ人住居の一つは「ヤッファの解放者に捧ぐ」とされている。解放者?誰からの?(イスラエル人がヤッファを解放したと言っている)
恥知らずな!
ヤッファの破壊と民族浄化は大きな犯罪だろう!
それを「解放」と呼ぶとは。
誰がそれを尋ねる?この美しいプロムナード。人々はジョギングをしたりビーチを楽しんだり。そしてそこには「ヤッファの解放者」を称えるアラブ人住居。誰も訊ねない。あの国は全土がその調子だ。
分かるでしょう。1967からの「占領地」が問題なのでない。問題はもっと前から始まっている。
民族浄化、ジェノサイド、アパルトヘイト政権、これらを承認する我々が問題なのだ。
ある一定の法制が特権階級に、全く違う法制がそれ以外に施される。それがイスラエルだ。
イスラエル擁護のシオニスト達は反論する。「"民族浄化"とはとんでもない!」「"ジェノサイド"なんて言葉を使うなんて!」「イスラエル政権が"アパルトヘイト"だなんて」
分かりますか?彼らが気にしているのは「名称」「レッテル」だけ。自らの民族浄化行為、虐殺行為を問題視している訳でない。「そう呼ばれる」事が許せないだけ。
どうしてこれらを指摘することが「反ユダヤ」なのか?犯罪じゃないか。これら犯罪が今でも毎日行われる事をなぜ良心のある私たちは黙って見ていられるのか?そうだ、今でも殺戮は終わっていない。民族浄化は止まっていない。アパルトヘイト、パレスチナ人への差別ーーイスラエル市民であろうがなかろうがーーは今でも毎日起こっている。
(3)に続く。