主婦ポリ3:"民主勝利への道3-変わるサンベルト郊外"
今回のチャプターはSouthwestという題で”サンベルト”と呼ばれる地域の西側を取り上げています。(The Wilderness Chapter 3: Southwest)
サンベルト 画像元https://en.wikipedia.org/
サンベルト民主化
民主党クリスティン マーシュは元来共和党のお膝元であったアリゾナ州マリコパ郡(フェニックス市を含み、人口380万のアメリカ国内で4番目に大きい郡)で2016年上院議員選に出馬し、負けたもののたった267票差の僅差だった。
クリスティン マーシュ 画像元https://www.nwea.org/
マリコパ群(フェニックス市とその郊外)のように、ダラスやヒューストンなど南西部の元々共和党の強い地盤だった市と郊外(*1)が軒並み民主に動いて来ている。なにが起こっているのか?
【(*1):「郊外」とはいわゆるsuburb、exurb、と呼ばれる居住区で、これと市内を合わせて「メトロ地区」と呼んだりします。郊外の道路はグリッド式ではなく、ループ型にしてあり、そこでの生活の事をループの意の「cul de sac文化」と言ったりします。】
郊外の道路 画像元http://www.wherethesidewalkstarts.com
サンベルトの郊外のデモグラフィーの変化が一つ。トランプのめちゃくちゃさにどん引きしてる郊外の大卒白人層が共和党離れを起こしているのがもう一つ。
アメリカ民族大移動
郊外がどんどん多様化して来ている。70年代に比べて、黒人は2倍に、アジア系は5倍、ラテン系は9倍だ。人種だけでなく、所得層も多様化が進んでいる。労働者階級が増えているのだ。元来「郊外」は1950−60年代に南部から解放された黒人達が他の地区の市内に移り住んだのを嫌った白人達が市外に出て作られたもの。だから郊外の文化は市内に比べて白く、保守的、差別的だった。
デレック トンプソン 画像元https://www.theatlantic.com/
アトランティック紙のデレックトンプソンは言う。
アメリカのリベラル派は今まで人口集中の問題を抱えていた。既に民主が強い地域に固まって住んでいたので、民主/共和を決めるファクターでは無駄な票が多すぎた。しかし、若いリベラル派がそういう都市からどんどん流出している。NYCからは平均毎日300人が離れているし、同じような人口流出がLA、San Jose、San Diago、Chicago、Baltimoreなどでも起こっている。すべて民主の強い州の都市だ。そしてその人達は今拡大中のサンベルトの都市に移住している。Dallas、Phoenix、Houston、Atlanta、Orland。これらの街が属する州はすべてトランプが2016に勝った州だ。フロリダやアリゾナが「引退した老人が移り住む州」と言う古いイメージは捨てた方がいい。いま、全米で移住を盛んにしているのは20−40代のミレニアル達だ。民主の票が必要以上に集中するイーストビレッジを後にし、赤青揺れ動くオースティンやアトランタに移り住んでいる。
白人だけでは無く、過去に南部を後にした黒人達もまたサンベルトに戻ってきている。沿岸の民主の市内から、サンベルトの郊外へ。
サンベルトは確実に、より若く、多様化され、大卒が増えている。
テキサス変遷
オバマ前大統領は再選時、テキサスの4大都市ヒューストン、ダラス、サンアントニオ、オースティンを約10万票差で勝ち取っている。7年後、上院議員選で現職テッド クルーズに善戦したベト オルークは同じ4都市で80万票差で勝っている。7年で70万、民主党は共和党に差を広げたと言う事だ。トランプが2016年テキサス州を勝ち取ったときの票差は80万票。
ベト オルーク 画像元https://ja.wikipedia.org/
アリゾナ変遷
アリゾナ州最大郡であるマリコパ群(含フェニックス市)では2012−2016の間に10万票が共和から民主に流れた。その後2018の上院選でキルスティン シネマは当選時同郡で更に10万票を増やした。6年で20万票アリゾナ州で民主票が増えている事になる。トランプが州を穫った2016年の票差は9万票。
キルスティン シネマ 画像元https://kyrstensinema.com/
キルスティン シネマは1988年以降初めてのアリゾナ州民主上院議員で、史上初バイセクシャルを公言する議員となった。クリントンが2016負けた州で中間選挙にも関わらずクリントンより3万票多く得票し、共和党色の強かったマリコパ群を青く染め上げた。
マリコパ群は2016トランプが勝ち、2018民主が勝った最大の郡。今のところ過疎部の票に重きを置選挙人制度、人口と関係なく州2名という上院議員の数によりトランプが優勢な地域も、そこに移り住む民主の支持層に浸食されている。---Ron Brownstein from Atlantic
長い目で見れば民主に有利に動いている事は確かだが、今現在はどんな感じなんだろう。上院選でシネマが2.5ポイント差で勝ったが、州知事選では民主は14ptで負けている。政党で自動的に決まる訳ではなさそうだ。
フィニックス フォーカス グループ
2012年オバマ再選時に相対する共和党ミットロムニーに投票し、2016年ではクリントンに投票したロムニー/クリントン投票者達に集まってもらった。6百万人いると言われるオバマ/トランプ投票者よりは少なく3百万人程と言われているが、アリゾナの投票者の感覚を掴むためにいいサンプルだと思う。
「政治の案件で一番重要だと思うのは?」
温暖化
国民皆保険x2
経済x2
教育制度改革
女性の中絶権利
LGBTQ権利
「国民皆保険と答えた方、どれ位深刻で、何が心配?」
もの凄い問題だと思う。そしてどんどん酷くなってる。
もし会社をクビになったら保険が無くなる。怖い。
「教育、と答えた方、詳しくどう思うか聞かせて。」
アリゾナ州は特に教育に注ぐ予算が少ないから。全国で49番目です。私も美術系の学校を出て公立学校の教師になりましたが、子守りの仕事に変えました。そっちの方が稼げるんですもの。
「トランプ、どう思う?」
無能。
大統領としての気品がない。
何しでかすか分からない子供を見ているよう。
5歳の娘に見せられない。いつ酷い事口走るか分からないから。
トランプへの不満は大きい。しかし彼らの不満はトランプだけへではない。
「政治全体に対してどう思う?」
怒りを覚える。
不安。
将来が心配。
「どうしてそう思います?」
右と左に振れ過ぎ。
中道がいない。
私たちの気持ち反映してない。
団結力がない。
中道路線のシネマがアリゾナで勝った理由の分かる回答だった。
シネマは左右の溝を超えて働きかける事ができる候補だった。アリゾナの中道派を体現している。党派心丸出しの共和党が政治の場でカオスを生み出し、結局何も解決しない。これに嫌気のさした人たちが中道民主に鞍替えするのは筋が通っています。---アリゾナ民主党チェア、フェリーシャ ロテリーニ
過去10年ほど、共和党は「絶対に譲らない」強行手段で民主に反抗、妨害を繰り返し有権者を政治全体への不信へと駆り立てている。
「民主党をどう思いますか?」
急進派、極左が嫌だ。
Medicare For AllとかGreen New Dealとかああいう社会主義的な政策はアメリカではない。あれでは人々のやる気をそぎ、経済が停滞するに決まっている。
Ron Brownsteinが言う。
フェニックスの有権者の多くは文化的には民主支持。ただ、国家経済、予算の事になると、国民皆保険のような大きなプロジェクトには尻込みしている。何処まで国家が経済に介入できるのか。国民皆保険をやって多額の税金を使って、それが経済にどう響くのか。その辺りで意見が分かれている。民主はこの元共和の彼らに対してどれ位急進的なアイディアをプッシュできるか見極めた方がいい。彼らが「それは無理」と言うポイントとはどこか。
「Medicare For Allについてどう思います?」
呼び名が良くない。
もちろん皆保険は必要だけど、public option(*2)じゃないとだめだ。
【*2:国民皆保険の呼び名の事に関しては主婦ポリ2で解説しましたのでこちらでどうぞ。】
「Medicare For AllとPublic-option、どちらがいいですか?」
Public-option x4
分からない、どっちでもいい。最初はpublic optionでそのうちMedicare For Allに移行とか?
「どんな人が大統領になって欲しい?」
JFKみたいな人
国をまとめられる人
「民主大統領候補にアドバイスは?」
極左に行くな
中道を目指せ
んー、でも誰が候補でもトランプはどうせ、共産主義!って叩いてくると思うけど。
本当の「中道」とは
思想(イデオロギー)と言うのは選挙でどれくらい大事なのか?アリゾナでシネマは中道路線で勝ったけど、ウィスコンシン州ではタミー ボールドウィンがかなりの急進派路線で大勝したし、オハイオ州上院選で勝ったリベラル派Sherrod Brownや知事選で善戦するも負けた中道派Richard Cordrayなど、そうでない例もたくさんある。
タミー ボールドウィン 画像元https://en.wikipedia.org/
対戦相手との相性もあるし、一概には言えないけど、思想の他にも政治的強みや、人の心の掴み方もあるだろう。左右の思想の観点だけの「中道」を見ればアリゾナに焦点を当てたからと言って、それが全国で通じるとは限らない。
「中道」の本当の意味は思想のポジションでは無い。人々と繋がれる候補、真実/心情を誠意を持って、変えたい社会を誰にでも説く事のできる候補。考え方が違っても、「私の目指すものはこれです。私の政策はこう。あなたの力が必要です。あなたの話を聞かせて下さい。一緒にできるはず。」とい言える人が本当の意味での「中道」---ベッキー ボンド(ベト オルーク上院選時senior advisor)
ベッキー ボンド 画像元https://twitter.com/bbond
人々の気にしている事は教育機関の整備、皆保険、女性の選ぶ権利、温暖化。しかしこれらを実現させる「社会主義」の観念は、彼らにとって「極左」という事で敬遠される。今回インタビューした人達は元々ロムニーに投票した共和党支持者だったのだから、当然と言えば当然。しかし彼らのような投票者が2018民主に勝利をもたらしたのも事実。
クリスティン マーシュの信条
冒頭の元教師、上院選で敗れたクリスティン マーシュはまた2020年に出馬する。
教育の現場が本当に酷い。生徒達に上げるキャンディーバーはもちろん、家で電気を切られた時の為に懐中電灯を自費で常備している教師もいる。1クラス42人。共和党が公教育予算をどんどん削っていった成れの果てだ。
彼女のタウンホールに行けば、人々は皆保険/教育/温暖化/経済などへの不安を次々に口にする。90ある州政府の議席中5つを奪還すればアリゾナ州政治を民主がコントロールできる。
私は教師ですから。どんな子供でも愛することをポリシーとしていました。彼/彼女達が私を心から嫌っていて、授業の妨害を一生懸命やっていても。
このような態度こそが次の選挙で試される。Brownsteinによれば次の選挙での新規投票者(voter turnout)は1500万人とも言われている。その人たちを捕まえられるか。
アリゾナで、テキサスで、ジョージアで。
次回はジョージア含むSoutheast地区です。