【2024年上半期】Web3求人動向の分析
企業の求人動向は、業界の需要やその将来性を測る指標となる。本レポートでは、Web3業界の求人データを基に、そのトレンドを分析し、Web3業界全体の展望を紹介する。
※英語の元記事が2024年7月31日リリースのため、本レポート内の一部表現が最新の情報を反映していない可能性があります
Tiger Research(タイガーリサーチ)は、Web3に特化したアジア最大級のリサーチファームです。Web3企業の経営者から個人投資家まで必読の市場分析レポートを無料でお届けします。
30秒でわかる!本レポートの要点👇
米国でのビットコインETF承認が求人市場を牽引:ETF関連企業を中心に前年比20%増も、2021-22年のブームには及ばず
勤務形態の変化:「場所を問わない求人」が最多となり、Web3企業の働き方の柔軟化が進んだ
アジアのプレゼンス拡大:全求人の20%を占め、欧州(15%)を大きく上回る。特にシンガポール、インドが活発
成長の質に課題:技術革新よりもミームコインなど投機的取引が主流となり、持続的成長への懸念がある
💼2024年上半期のWeb3求人動向
ビットコインETF承認後
2024年1月の米国SECによるビットコインの現物ETF承認を受け、市場回復への期待感からグローバルWeb3市場の求人数は大幅に増加し、2024年上半期の求人数は前年比約20%増となった。
ただし、現在の求人数は2021/2022年のブーム期と比べるとまだまだ低い。その要因として、以下の点が挙げられる。
第一に、ビットコインETF承認の影響は、特定のセクターに限定されている。求人の増加は、主に暗号資産ETFの運用会社によるものである。例えば、Grayscale(グレイスケール)などの暗号資産ETF運用会社の求人数は、前期の7件から28件へと4倍に増加した。一方、暗号資産取引所の求人数の変化は比較的小さかった。
第二に、最近の上昇相場はイノベーションではなく、投機的な動きに起因している。ミームコインなどの投機的取引が市場の中心となっており、時価総額10億ドルを超えるミームコインプロジェクトが複数登場している。
2024年6月以降の求人は減少傾向
2024年6月以降は、Web3業界の求人が急激に減少している。その原因には、二つの可能性が考えられる。
一つは市場環境の悪化である。マウントゴックスの返済やドイツ政府によるビットコイン売却圧力に起因する暗号資産の価格の下落と、それに続く取引量の減少が市場心理を冷やした可能性がある。
もう一つは、季節要因だ。多くの企業が6月から始まる夏季休暇シーズンに入り、一時的に採用活動を控える傾向にある。
🌏地域別Web3求人動向
2024年上半期の地域別Web3求人数は、①リモートワーク、②北米、③アジア、④欧州、⑤中東の順となった。
注目すべきは、リモートワークの求人が北米を上回り始めた点である。これは、Web3業界でリモートワークが定着し、地理的制約を受けない柔軟な働き方が浸透していることを示している。
また、アジア市場と欧州市場の求人数の差が拡大している点も注目に値する。アジアは2023年上半期に欧州を上回り、その差は2024年上半期にさらに広がった。
2024年上半期時点で、アジアは全求人の約20%、欧州は約15%を占めている。これは、Web3業界の重心がアジアへとシフトしている可能性を示している。
アジアでの国別Web3求人動向
2024年上半期のアジアでのWeb3求人数は、①シンガポール、②インド、③香港の順となった。
シンガポールは2023年下半期比約23%増と、最多の採用数を維持している。これは、明確な規制の枠組みと柔軟なWeb3ビジネス環境が評価されているためである。
香港は2023年6月のWeb3市場開放後、当初は企業の参入増加に伴い採用も増加した。しかし、香港証券先物委員会(SFC)が暗号資産ライセンス申請者に対して中国本土向けサービスを禁止したことで状況が変化した。
Binance(バイナンス)、OKX、HTXなどのグローバル取引所がライセンス申請を取り下げ、採用が減少した結果、香港市場の採用は前期比約40%減少し、インドに次ぐ3位となった。
💹 暗号資産取引所による求人動向
2024年上半期の暗号資産取引所における求人数は、前期比約45.6%増加した。この上昇は、ビットコイン価格の上昇と取引量の大幅な増加による取引所収益の向上を反映している。
主要取引所の採用動向は2023年と同様、①OKX、②Binanceが中心となっている。以前はBinanceがより積極的な採用を行っていたが、2023年6月の米国司法省による起訴以降、この傾向は変化した。さらに、アブダビやオランダでのライセンス取得失敗も、採用活動の縮小に影響を与えた可能性がある。
注目すべきは、OKXの採用数が前年と同程度を維持する一方、Coinbase(コインベース)は前年の39件から今年209件へと大幅な増加を示したことである。この急増は米国SECのビットコインETF承認に関連していると考えられる。
Kaikoのレポートによると、ETF承認により米国規制下の取引所での取引量と流動性が増加しており、Coinbaseはこの恩恵を受けたと推測される。
🔗 ブロックチェーン・メインネットの求人動向
2024年上半期のアジアにおけるブロックチェーンのメインネットでの採用数は前期比で微減したものの、多くのメインネットがアジアで採用を行っている。
特にScroll(スクロール)は、2024年上半期の20件の採用のうち14件をアジア地域で実施している点が注目に値する。
また、オーストラリアを拠点とするWeb3ゲーム・メインネットのImmutable(イミュータブル)が、アジアでの採用数で最多となっている。
また、Ripple(リップル)、Aptos(アプトス)、Avalanche(アバランチ)など、アジアを拠点としない主要メインネットもアジアでの採用を継続している。採用数の絶対値は高くないものの、メインネットのプレイヤーがアジア市場の可能性を重視していることは明らかである。
📱その他の注目すべき求人動向
2024年上半期には、新たな採用トレンドが浮上した。Story Protocolは、IP(知的財産)のトークン化のためのレイヤー1ブロックチェーンを計画し、年初から積極的な採用を開始して計16件の採用を行った。米国を拠点とする同社は、最近韓国での経営陣も採用しており、韓国市場への展開を示唆している。
Animoca Brands(アニモカブランズ)も採用を加速させており、2023年下半期の4件から2024年上半期には約40件に急増した。同社はNFTプロジェクトのMocaverseやWeb3チェスゲームのAnichessなど、様々なプロジェクトと投資事業での採用を積極的に行っている。
🎯 まとめ
2024年上半期のWeb3業界における求人数は前年と比べ増加したものの、2021年と2022年の水準には及んでいない。業界の発展に伴う求人数の増加は自然な流れではあるが、Web3業界の成長規模に比して見れば、まだまだ期待を下回っている状況である。
この乖離は、Web3業界が自律的なエコシステムの育成よりも、ミームコインの取引やエアドロップなどの短期的・消費的なトレンドに偏っていることに起因するのではないだろうか。業界の持続的な成長には、根本的な議論の転換と新たなイノベーションの創出が必要であると考える。
※本レポートは、タイガーリサーチがSubstack上で発信する英語の記事(2024年7月31日公開)を翻訳し、一部編集したものです。
※最新の英語のレポートについては、以下リンクよりご確認ください。
免責事項
本レポートは信頼できると考えられる資料に基づいて作成されておりますが、情報の正確性、完全性、および適合性について、明示または黙示を問わず、一切の保証を行うものではありません。本レポートまたはその内容の使用に起因するいかなる損失についても、当社は一切の責任を負いかねます。本レポートに記載された結論および提言は、作成時点で入手可能な情報に基づくものであり、予告なく変更される可能性があります。また、本レポートに記載されたすべてのプロジェクト、推定、予測、目標、意見および見解は、予告なく変更される可能性があり、他者または他組織の意見と異なる、もしくは相反する可能性があります。
本レポートは情報提供のみを目的としており、法務、事業、投資、または税務に関する助言として解釈されるべきものではありません。また、本文書における有価証券やデジタル資産への言及は、例示を目的としたものであり、投資推奨や投資顧問サービスの提供を意図するものではありません。本レポートは、投資家または潜在的投資家に向けて作成されたものではありません。
レポートの引用に関して
タイガーリサーチは、そのレポートの公正使用(フェアユース)を許可いたします。「公正使用」とは、対象コンテンツの商業的価値を損なわない限りにおいて、公共の利益に資する目的での使用を広く認める原則です。公正使用の目的に合致する場合、事前の許可なくレポートを利用することが可能です。ただし、タイガーリサーチのレポートを引用する際は、以下の要件を必ず遵守していただく必要があります。
なお、資料の再構成および公開を行う場合は、別途協議が必要となります。無断使用が確認された場合、法的措置を講じる可能性がございます。