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◆課題1:テーマ「ハンカチ」

<タイトル>「モノは使いよう」

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<人物>
後藤高志(38)(3)会社員
小川愛美(まなみ)(30)後藤のお見合い相手
高橋翔太(24)優斗の後輩
後藤浩(70)後藤の父
後藤美幸(25)後藤の母

女子社員A
女子社員B
部長
警察官
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○(夢)公園
   回転ジャングルジムやシーソーなど、
   昭和の懐かしい遊具がある公園。
   後藤優斗(3)が砂場で遊んでいる。
美幸の声「たかし!」
   後藤、振り返ると鼻水を垂らしている。
後藤「ママ!」
   後藤美幸(38)が手を振っている。
   顔は見えない。
後藤「お鼻が、ガビガビ!」
美幸の声「あらあら」

○(夢)公園の水飲み場
   美幸、ハンカチを水で濡らして、絞る。
美幸の声「キレイキレイにしようやね。」
   美幸、後藤の鼻を綺麗に拭いている。
   ご機嫌な笑顔の後藤。
後藤「ママ!こそばいちゃ!ママ!」
美幸の声「ハンカチもちゃんと洗わなきゃね」
   蝉の鳴声が聞こえる。

○五井建材・外観

   高層ビルに『五井建材』の看板。
   蝉の鳴声が聞こえる。

○同・営業部
   節電で薄暗いオフィス内。
   時計が12時55分を指している。
   後藤高志(38)が昼寝をしている。
   後藤のスマホにメールが着信。起きる。
後藤「ヘックション!」
   メール画面「FROM:父
   本文:見合い写真を持って、上京する。」
後藤「(博多弁で)せからしか…」
   女子社員2人と一緒に高橋翔太(24)が、
   汗を掻きながら入ってくる。
高橋「この糞(くそ)暑いのに、激辛担担麺、良いね!」
女子社員A「高橋さん、御馳走様でした!」
   女子社員A・B、涼しい顔をして自席
   に座り、さりげなく化粧直しをする。
高橋、ボディーシートで顔の汗を拭う。
高橋「先輩、お昼は?」
後藤「まだ。午後営業の見積り作ってた。」
高橋「先輩!」
後藤「うん?」
   後藤、鼻水が垂れている。
高橋「ハナ出てます。笑えます。」
後藤「あ…」
   ポケットからハンカチを出して、
   鼻水を拭うとくちゃくちゃにして、ポケットにしまう。
高橋「え?」
後藤「ここはクーラー効いてるからな。」
高橋「じゃなくて鼻水、ハンカチで拭きます?」
後藤「拭くだろう」
高橋「拭かないでしょう。」
後藤「(博多弁で)拭くちゃ!」
   高橋、後藤に女子社員を見るよう施(ほどこ)す。
   女子社員A・B、引いている。
後藤「まじか…ま、ま、自分しか使わないし!」
高橋「いやー、エチケットですよ」
   高橋、ボディーシートで汗を拭う。
後藤、鼻をひくひくさせる。
後藤「ん?翔太!なんか匂(にお)ってるぞ。」
高橋「香(かお)ってるんですよ!」
   ボディーシートをゴミ箱に捨てる高橋。
   午後の始業を知らせるチャイムが鳴る。
   部屋の電灯が明るくなる。
高橋「さーて!午後もがんばるかー。そうか!」
後藤「うん?」
高橋「先輩、だから結婚が遠のくんですよ!」
後藤「なんと?」
高橋「(大きい声で)角丸商事に行ってきま!」
   部屋を出ていく高橋。
後藤「待て!翔太!」
部長「(怒声で)後藤!住元物産の見積りは!」
後藤「行ってきますよォッ!(小声)チッ…」
   女子社員達、笑っている。

○同・エントランス
   後藤、汗をかきながら自動ドアを出る。
   太陽の日差しが後藤を照らす。
   後藤、走っていき、徐々に姿は小さく。
   鳴いている蝉(アップ)。
   鳴き声が止まり、ぽとりと落ちる。
   
○ネットカフェ・全景
   ネットカフェ、「自由自在」の看板。

○同・後藤の個室
   薄暗い。空調の音だけが聞こえる。
   後藤、チェアに座り、ボケッとして、
   ファーストフードを食べている。
   『再検討』の赤判子が押された見積書を見ながら
   項垂(うなだ)れている。
   後藤のスマホがバイブし、見やる。
   ライン画面「高橋:部長の機嫌がまた悪いですよ!今どこです?」
   ライン画面「後藤:某所で思索中」
   ライン画面「高橋:サボり?!部長に言っちゃお」
   ライン画面「後藤:お前の奥さんに、商事の女子に手、
   出してるのバラすぞ」
   ライン画面「高橋:(驚きスタンプ)それだけは勘弁しま~~!  
   <m(__)m>」
   後藤、にやりと笑い、深く座り直す。
   PC(パソコン)のキーを激しく打つ音がする。
後藤「(小声で博多弁)うるさかね」

○ネットカフェ・後藤の隣の個室
   小川愛美(30)がモニターを睨みつけて、
   必死にキーボードを打っている。
   PC画面「高収入!転職サイト 自棄(やけ)を起こして
   職場を辞めた貴方へ」
   愛美、履歴書を打ち込んでいる。
愛美「(小声で)もー、せからしかね。」
   
○同・後藤の個室
後藤「ヘックション!」
   後藤、ハンカチで鼻を拭く。
後藤「(小声で)うん?なんか匂う?」
後藤、チェアを倒して、天井を見る。
   ゆっくりと煙が漂っている。
   火災報知器のサイレンが鳴り響く。
後藤「なんね?!」
   後藤、カバンを持って、個室を出ると煙が充満している。

○同・個室の外
   後藤、手で口を覆う。
   愛美も個室から出てくる。
愛美「(博多弁)何、何、どうしたと?」
   愛美、煙にひどく咳き込む。
   後藤、愛美の手を引き、体を低くする。
後藤「煙は高いっちこに来るから姿勢は低く」
愛美「え、はい!」
   後藤、ハンカチを取り出す。
後藤「これを…あ。」
   一瞬ためらう後藤。
愛美「?」
後藤「いや…非常時やし!これで!」
   後藤、愛美にハンカチを渡し、口に充てるようにジェスチャーする。
   愛美、後藤のハンカチで口を塞ぐ。
   後藤、自分のネクタイで口を塞ぐ。
   二人、小走りに非常口へと向かう。

○ネットカフェ・外
   消防車が来て消防員が作業をしている。
   後藤と愛美、路上に座り込んでいる。
   愛美はまだハンカチを口に充てたまま。
消防員「(ハンドスピーカーで)…只今の火災、火元は鎮火しており、
 延焼の可能性もございません。落ち着いて行動してください!」
   愛美、額の汗をそのハンカチで拭う。
   後藤、その姿を気まずそうに見る。
後藤「あの、そのハン…」
愛美「はあ…なんか大変なことに巻き込まれた感じでしたね。
   あ、先程はありがとうございました。」
後藤「いえいえ、あのそのハンカ…」
愛美「あの…福岡の方ですか?」
後藤「ええ。実家は博多で。」
愛美「実は私も。飯塚。高校は嘉穂。」
後藤「お。頭、よかね。あの…」
   警察官が二人の側に近寄ってくる。
警察官「少しお話を伺いたいのですが」
後藤「あ…ええ。(腕時計を見て)えええ!」
警察官「どうかしましたか?」
後藤「会社に戻らなきゃ…。いや、マズイな」
   後藤、慌てながら名刺を差し出す。
後藤「後藤高志です。38歳です。五井建材に勤めています。ここに携帯番号ありますから、後でこちらまで。あ!会社には電話しないで下さい!サボってたのバレると、アレなんで」
   後藤、照れ笑いしながら、走り出す。
愛美「…あの」
後藤「(走りながら)それ、捨てちゃって!」
   後藤の走る後ろ姿
後藤「部長が、せからしか!」

○五井建材・営業部(夜)
   後藤、慌てて入ってくる。
後藤「只今戻りました!」
   薄暗いオフィス内には誰も居ない。
   ボードに、『本日ノー残業デー』の表示。
後藤「そうだった…」
   鞄を机の上に投げ置く。

○同・エントランス(夜)
   後藤、自動ドアが開くと、ネクタイを緩めながら歩いていく。
浩の声「高志!」
   後藤浩(70)が待っている。
後藤「なしけん、会社まできんしゃーん」
浩「東京は夜も暑かちゃ」
   浩、土産の焼酎の瓶を嬉しそうに振る。
浩「久しぶりに一杯やろうっち思っちしゃ。
 はよ話したか、こつもあっけんし」
後藤「なんちゃ」
浩「筑豊の高校ん時の友人の娘しゃん。東京におって、大企業に勤めてる、
 なんかえらくよか娘しゃんちゃ」
後藤「だからまだ結婚する気、なかちゃ」
浩「高志。母(かあ)しゃんの死んで30年になる。うちも男手ひとつで育てて
 きよった。そろそろ、母しゃんの墓前によか報告しゃしぇて、
 もろうてもよかっち思っちちゃ。」
後藤「東京でぴしゃーっと頑張っちるしゃ」
浩「まま、写真あっけんから、顔だけばってん見てみんさい。
 あい、どこいった?」
  鞄、懐を探すが写真が見当たらない浩。
  愛美、何かを探すような仕草で現れる。
後藤「(愛美に気付いて)あ」
愛美「あ。先程はどうも」
後藤「なんで、ここに?」
愛美「帰宅の通り道だったので…さっき、ここに勤めてるって
 話してましたよね」
後藤「…あーはは」
愛美「それに、これを返さなきゃなと思って。」
   愛美、ハンカチを取り出す。
愛美「でも、ちゃんと洗ってから返したいから、それからでも
 良いですか?」
後藤「え、ええ」
浩「(写真を見つけて)お、あった。あ!」
   浩、見合い写真を見て、驚く。
浩「高志!こ、これ」
後藤「なんちゃ、今…!」
   開いたお見合い写真には、愛美が写る。
   驚く後藤と愛美。
愛美「え?何これ?」
浩「あんだ、小川んところの娘しゃんか?」
愛美「これって…父が勝手に作ったのかも!」
浩「東京も狭かねえ!もう付き合っちる」
後藤「はあ?」
愛美「いやいや」
浩「うまか焼酎もあっけんから、今晩は飲もう!よか嫁になる!ささ!」
   浩、後藤と愛美を強引に後押しする。
後藤「なんちゃ!」
   蝉の鳴き声。
浩「東京は夜も賑やかやね!」
   街路樹に蝉が2匹止まって鳴いている。


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