見出し画像

ClubHouse朗読劇『石枕』告知

 さて、皆さんはClubHouseというスマホアプリをご存じだろうか?
 声のSNS、グループトークツール、様々な呼ばれ方をしているが、コロナウィルス禍真っ只中の2021年にリリースされた、スマートフォン専用の音声コミュニケーションツールである。
 特徴としては、当初はApple版しかなかったので、iPhoneユーザーに限られていたこと(現在はandroidでも利用可能)が有名ではあるが、完全実名登録が推奨になっているところなどはFacebookを、完全招待性でしか登録できないところなどは初期のMixiを、それぞれ想わせてくれる。

 そういう意味では、その初期から登録活用させて頂いていた俺などは、数奇な縁や人脈に恵まれたツールでもある。
 ClubHouse日本版の特徴としては「声でコミュニケーションする」ツールで、しかも実名主義でソーシャルなので、プロの声優さんや、アナウンサーなど、いわゆる「声のプロ」が集まり、即興芝居をしたり、朗読劇をしたり、親睦を深めて、互いの技術を使って楽しく盛り上がる部屋も多いというところだろうか。ここでは書けない、国民的アニメの主役の声優さんが、ざっくばらんに馬鹿話をしているroom等もあったりするから面白い。

 その中で、最近ちょっと面白いムーブが(代理店的仕掛けではなく)ClubHouseの中で目立ってきた。
 それはいわゆる「朗読劇」という、ミニメディア的エンタメイベントなのだが、その中心となったコンテンツが、『膝枕』という短編小説であった。
『膝枕』

膝枕イラスト

 
 この、なんとも形容しがたいシュールな作品を執筆されたのは、NHK朝ドラの『てっぱん』(2010年)や、映画『嘘八百』で名が知られている、脚本家の今井雅子氏だ。
 その今井氏が、理由ときっかけは、リンク先の今井氏のnoteで読んで頂くとして、機会があって書いた没プロットを、短編小説としてリライトして、それを声のプロ達が、ClubHouse内のroomで朗読するというイベントが、5月31日にひょんなことから始まり、だんだん評判を招いて盛り上がり、その過程で様々なアレンジや外伝等も生み出して、一日も欠かすことなく、ついにこの9月には、朗読公演100回目を迎えたという、ある種の声のSNS独特のムーブメントとして、広く認知され、興味をもたれて話題にあがるようになったのだ。
 
 その『膝枕』。内容をお知りになりたい人は、是非ClubHouseに来て朗読を聞いていただきたいと思うし、もっと手早く中身を知りたければ、今井氏のnoteに全文が載っているのでそれを読んでみればいい。のりにのった筆が、どれだけの「声のプロや好事家」の、やる気を引き出しチャレンジさせたのか、読んでみるだけで充分に堪能できる。その上で、ClubHouse内での朗読roomを訪れてみてもよいだろう。
 黎明期の角川映画の宣伝ではないが「読んでから聞くか。聞いてから読むか」である。
 
 その魅力、短編小説としてのポテンシャルの高さは、ネタバレになるのでここでの言及は控えるが、個人的には「そもそものプロットとして送付された先の、ブランドコンテンツ」には、実は僕もコンペに参加したことはアリ、採用されたことがないから悪態もつけるのだが(笑)「あのコンテンツ」が、一時期以降絶対的にルーティンとして決めごとにした「なにがなんだかわからない、あやふやな終わり方」が、大河さんとしては、数あるアンソロジーの「終わり方の一つ」としてはいいのだが「全てがソレ」というレギュレーションが、まず「面白くない」。
 
 短編エンタメとしては、星新一氏とRod Serling氏を神と崇めてやってきた物書きの身としては、ふわふわ不可解で終わるラストもあってもいいとは思うが、その良さを生かすためにも、一方でカッチリとオチが着く作品があってもいいじゃないかと思ってしまうのだ。
 例えるなら、寿司を手桶一つ分食うのなら、光物があってもいいが、マグロの赤身や貝類だって絶対必須だろっていう話になる。桶の中全部青魚じゃ、食っててつまらなくなるし、青魚の良ささえ消しちゃう気がするのだ。
 
 いやいや、何が言いたいかというと。
 ちょっといろいろ縁が重なり、今回僕と繋がりがある声優さんが、その『膝枕』のClubHouse朗読枠をやるという。いや、そりゃ晴れ舞台だ。俺も聞きに行くから頑張れよという話になるが、どうやら俺は聞いてるだけじゃすまなくなったらしい。
 
「今の『膝枕』ウェーブは凄いんです! 腕に覚えのある人は、そのまま朗読するだけではなく、アレンジやスピンオフ新作、ほぼオリジナルに近い作品まで作り、幅広く皆で盛り上がっているんです!」
 
 うん、それはとても良好な環境である。だからガンバレ。
 
「なので、ぜひ大河さんも参加しましょう!」
 
 いや……その……。俺は確かに、学生時代に部活動で演劇をしていたし、知り合いの監督さん達から呼ばれて、エキストラ以上、役あり以下みたいな立ち位置で、何本か映画とかに出演しているけれども……。
 
「違いますよ、大河さん。誰が大河さんに『膝枕』を朗読しろなんて言いましたか。大河さんの朗読なんか聞くぐらいなら、落語のCD聞いてる方が。まだナンボかメリットがあります。大河さんはなんですか? いつの間に声優になったんですか? アナウンサーですか? プロの声楽家ですか?」
 
 ……いえ、一介の物書きでございます、はい。
 
「でしょう? 物書きなんだから書いてください。大河さん流の『膝枕』のアレンジ作品を。書いてくれれば私がそれを、改めてClubHouseで演じます!」

 ほほう。そうきたかァ!
 しかし、改めてそういう視点でとらえ直すと、『膝枕』は、極めて女性作家さんならではの視点と実力で、謎の物体に「女性らしい生々しさ」が籠められている傑作である。むしろ、そこがこの作品のリアルさでありテーマでもあり、シュールな出来栄えに繋がっているのだ。
 一方で、一応これでも大河さん、プロの物書きではある。しかも「声優の朗読劇」というジャンルとあれば、かつてニッポン放送で、新人時代の根本流風や高木友梨香などをまとめた声優メンバーで、朗読劇『カミサマ未満』を、企画・脚本・演出した経歴もある。
 よし、じゃあ挑戦してみよう。
 
 書けと言われれば、書けぬものなどないのがプロ魂である。
 せっかくアレンジをするのだ。アレンジ元の原作を因数分解して、この子の演じ方や引き出しに合わせて、作品全体を「アテガキ」にすることをまずは決めて作劇にとりかかる。その上で、俺の悪い癖である「生身の女性をどこまで描けるか挑戦します」病が発症(笑)
 それとは別に、元作品のディテールや展開には、ちゃんと敬意を払って忠実に、しかしそれらの立ち位置を、ほんの少しだけずらさせて頂いて再構成。その上で「あえて元作品を弄った意味」に明確な裏付けを築かなければいけない。
 良くも悪くも、演じる本人はそこまで考えてはいない。というか、演じる人にそれを考えさせてはいけない。
 その上で「この物語、このあとどうなっちゃうんでしょうね」という、今井氏がプロットを提出した先のコンテンツの「まるで決まりごとのような終わり方」を、あえて変えて、決め打ちで着地させる方向で舵をきる。
 大河さん唯一の、物書きとしての弱点が「放っておくと尺が長くなる」なのだが、今回も、元作品が5千文字弱だったのが、僕の作品は結局6千文字までいってしまった。
 
 芝居の尺なぞ、いざ演じてみなければ分かるまい!
 
 見事な開き直りで(だってもう、削るところないんだモン的な)、ラストまで一晩で書き上げる。
 ……で、翌日「いつもの」推敲作業をして脱稿。声優さんに渡して、根本的なところで、自分がやりたかったものと大きなギャップがないかどうかを、チェックしてもらったら、はい、それで俺のお仕事は終了!
 
 後は野となれ山となれ。今回ばかりは、脚本を書くだけで、演出までは請け負ってはいない。あとは完成品から一番遠い立ち位置の「ホン屋さん」として、完成朗読を楽しませていただきやす!
 これが「プロの仕事」だ。この場合は「完全犯罪」とも言うが。
 今回俺が唯一拘ったのは、俺が唯一ドラマの師匠と仰ぐ、山際永三監督のポリシー「表現は狂気だ」である。
 ドラマだ小説だ、映画だ漫画だ、そんなものが事実であるわけがなく、嘘八百、ほら吹きドンドン、人が生きていく日常では決して味わうことが出来ない「狂気」を、思う存分「ツクリモノ」の作品表現で味わってもらうこと。
 
 というわけで、今井雅子『膝枕』原案 市川大河・作 そらぺち・演 『石枕』
 
 ClubHouse「#膝枕リレー」「石枕」roomにて、月日午後時より、公演といたします!
 
 なお、上演後は、拙筆によります『石枕』は、まず当サイトで公開。その後、今井雅子氏のnoteの、『膝枕』バリエーションアーカイヴに掲載される予定です。

石枕 バナー

#膝枕 #膝枕リレー #今井雅子

いいなと思ったら応援しよう!