【中国商標】鬼滅の刃、そもそも中国で商標登録できない理由
前回は、集英社が「鬼滅の刃」中国商標を出し遅れた話をしました。
この記事では、
・タイミングが遅かった
・その前に既に他人により出された
・区分の選択も問題あり
の話をしました。
今回は、そもそも、「鬼滅の刃」(鬼灭之刃)の商標は、中国で通らない可能性が非常に高い、との話をしたいと思います。
1,集英社の「鬼滅の刃」は未だに中国で商標登録されてない
先ず、集英社により出された「鬼滅の刃」の中国商標は、未だに登録されていません。
出願:2019年12月7日
拒絶査定:2020年7月1日
拒絶査定不服審判請求:2020年7月14日
ご覧の通り、
集英社が去年の12月に中国で出した「鬼滅の刃」商標は、
今年の7月に拒絶査定になりました。
その後、審判請求していて、今、結果待ち状態ですが、非常に難しい戦いになると思います。
私が予測するに、
「鬼滅の刃」の中国商標を取るには、第二審の訴訟まで、最後まで戦う必要があり、
そのためには、
お金を、何百万円掛けて、
時間も、何年間掛けて、
結果的は、やっぱり商標取れなかった、
になる可能性が高いです。
なぜ、商標取れないんでしょうか?
2,「鬼滅の刃」は、そもそも、中国で商標登録できない理由
私は当事者ではないので、具体的な拒絶理由はわかりませんが、推測はできます。
私が推測する理由は、不良影響です。日本で言っている公序良俗違反です。
そもそも、「鬼滅の刃」と言う単語は、
中国商標法10条1項8号違反の可能性が非常に高いです。
他人が先に出した商標が理由で拒絶されたわけではないと思います。
中国商標法 第十条
次に掲げる標章は、商標として使用してはならない。
(一)中華人民共和国の国名、国旗、国章、国歌、軍旗、軍章、軍歌、勲章等と同一又は類似するもの及び中央国家機関の名称、標識、所在地の特定地名又は標章性を有する建築物の名称若しくは図形と同一のもの。
(二)外国の国名、国旗、国章、軍旗等と同一又は類似するもの。ただし、当該国政府の許諾を得ている場合は、この限りでない。
(三)各国政府よりなる国際組織の名称、旗、徽章等と同一又は類似するもの。ただし、同組織の許諾を得ている場合、又は公衆に誤認を生じさせない場合は、この限りでない。
(四)実施管理し保証することを表す政府の標章又は検査印と同一又は類似するもの。
ただし、その権利の授権を得ている場合は、この限りでない。
(五)「赤十字」、「赤新月」の名称、標章と同一又は類似するもの。
(六)民族差別扱いの性質を帯びたもの。
(七)欺瞞性を帯び、公衆に商品の品質等の特徴又は産地について誤認を生じさせやすいもの。
(八)社会主義の道徳、風習を害し、又はその他の悪影響を及ぼすもの。
県級以上の行政区画の地名又は公衆に知られている外国地名は、商標とすることができない。ただし、その地名が別の意味を持つ場合、又は団体商標、証明商標の一部である場合は、この限りでない。地名を使用して既に登録された商標は、引き続き有効とする。
中国商標法10条1項8号は、日本商標法4条1項7号に該当します。
公序良俗違反です。
これに引っ掛かったら、いくら頑張っても、ひっくり返すことが非常に難しいです。
すなわち、だれでも、中国では、「鬼滅の刃」商標を持つことができないと思います。
実際のところ、最初に出した他人の「鬼滅の刃」商標も拒絶されています。
ご覧の通り、他社により、2019年1月に出された最初の「鬼滅の刃」中国商標も、2019年6月に拒絶されました。
3,「鬼吹灯」事例、ご存知ですか?
私が、このように確信に近い推測をする理由は、
実は、中国には既に「鬼滅の刃」に非常に近い失敗事例があるからです。
それが「鬼吹灯」事例です。
「鬼滅の刃」:鬼を殺すナイフ
「鬼吹灯」:鬼が吹いたランプ
似たようなタイトルですね。
じゃ、「鬼吹灯」事例をみてみましょう。
「鬼吹灯」は、2005年に発表したヒット小説のタイトルです。
ここに関わっている会社は、この商標を取るために、過去13年間頑張りましたが、結果的には、負けちゃいました。
中国では、2007年1月から2020年11月現在まで、
13年間掛けて、「鬼吹灯」商標を取ろうと頑張っている人達がいます。
今のところ、どれ一つも登録されていません。
特に、直近の事例として、出願から行政訴訟の第2審まで行って、法律手続きを最後まで踏んでもひっくり返さなかった事例をみましょう。
中国商標34182677事例です。
この「鬼吹灯」商標をみましょう。
2018年10月22日に出された商標で、現在、無効確定状態です。
経過情報をみましょう。
出願:2018年10月22日
拒絶査定:2019年4月15日
拒絶査定不服審判請求:2019年5月5日
拒絶審決:2019年11月8日
審決取消訴訟:2020年3月24日
拒絶判決:2020年10月15日
審決取消訴訟の第一審で負け、第二審でも負けました。
これで「鬼吹灯」商標は、拒絶確定です。
その後、今年の11月3日、裁判所で発表会を開き、「鬼吹灯」商標に対する裁判所の考え方を述べました。
北京知的財産法院では、この発表会で、公序良俗違反の典型的な事例として、「鬼吹灯」事例を取り上げました。
「鬼吹灯」商標の現在が、「鬼滅の刃」商標の未来になる可能性が非常に高いと思います。
4,まとめ
そもそも、
「鬼滅の刃」と言う商標を、中国で出すべきじゃないと思います。
日本の感覚で、中国でやるとうまく行きません。
じゃ、それでは、何を出すべきでしょうか?
この話については、別の機会に述べたいと思います。
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中国弁理士
TRY㈱とLTASS㈱の創業者。
東北大学(CNIHA)工学部、東京理科大MIP卒。2007年来日、東京の特許調査会社と特許事務所を経て2014年に起業。中国ビジネスに重みを置く日系企業を幅広く支援。現在、日本でIT会社、知財会社を経営しつつ、韓国・ソウルにある特許事務所、中国・北京にある特許事務所の経営にも参画し、日・中・韓の知財業務をシームレスかつダイレクトに支援している。