成功事例:コカ・コーラ社の中国商標戦略から学べること
鬼滅の刃、中国商標の問題でうまく行っていません。
その失敗事例を、過去、2回に分けて語りました。
その1:
・タイミングが遅かった
・その前に既に他人により出された
・区分の選択も問題あり
その2:
・公序良俗違反になる可能性大
・超似てる「鬼吹灯」事例が既にある
今回は、成功事例を1つ紹介します。
コカ・コーラ社の中国商標出願状況を見てみたいと思います。
中国人は、コカ・コーラを「可口可楽」と言います。
「口に合って、楽しめる」との意味で、これを飲むとハッピーになるかも、と思われるようなイメージが湧きます。非常に相応しく訳されたパターンだと思います。
このコカ・コーラ社は、中国でビジネスがうまいだけではなく、中国商標も非常に良く取れています。
ここでは、コカ・コーラ社の中国商標のお話をしたいと思います。
1,可口可楽の中国商標
中国で非常に有名になっているコカ・コーラ社、中国語のネーミングも非常に良く着けた可口可楽、その中国商標を調べてみました。
1979年5月20日に、飲み物関連の第32類で出していました。
現行の中国商標法第73条では、このように規定されています。
この法律は、1983年3月1日より施行する。1963年4月10日に国務院が公布した「商標管理条例」は、同時に廃止する。その他の商標管理に関する規定がこの法律と抵触するときは、同時に失効する。
この法律の施行前に既に登録された商標は、引き続き有効とする。
すなわち、現行の中国商標法は1983年3月1日から施行されました。
中国が改革開放政策を取ったのが1978年です。
Wikipediaより:
改革開放(かいかくかいほう)とは、中華人民共和国の鄧小平の指導体制の下で、1978年12月に開催された中国共産党第十一期中央委員会第三回全体会議で提出、その後開始された中国国内体制の改革および対外開放政策のこと。
と言うのは、
中国で商標法も出来上がる前、旧商標管理条例の元で、中国が改革開放に舵を切って半年も経ってない1979年5月20日に、コカ・コーラ社が、「可口可楽」商標を中国に出しました。
「可口可楽」中国商標
しかも、このネーミングの中国商標を調べてみても、1979年から1994年までの15年間、誰一人もこの商標に接近していません。
合計113件のうち、第101~113番目の商標は、全てコカ・コーラ社によりしっかり取られています。
他社により、チャレンジされたのは、2004年以降です。
例えば、第87番目のお酒関連の33類の商標が、個人により出願されました。
但し、中身をみると、拒絶されました。
この他、薬関連(第5類)の第84番目商標、化学物質関連(第1類)の第76番目商標も、全ては拒絶査定で収まりました。
こちらは、最近の公開情報です。
未だに、この商標に出している業者がたまには出ていますが、それは、商標のことを知ってない素人が、お金を無駄使いしているだけであって、
実際のところ、コカ・コーラ社以外には、誰一人も成功したことがありません。
このように、中国では、商標的にも、「可口可楽」と言う4文字は、確実に、コカ・コーラ社のものになりました。
コカ・コーラ社が確実に「可口可楽」と言う4文字を中国商標として収めた最大な理由は、やっぱり、出願のタイミングです。
中国も日本と同じく、先願主義の考え方を取っているので、早いもの勝ち、みたいな感じです。
①早く出す、
②自分のビジネスに関連する区分をしっかり含ませる、
コカ・コーラ社はこの2点を徹底したので、
過去40年間、中国で、商標的に、「可口可楽」に便乗しようとした他の会社を、全て排除できた訳です。
2,ANELLO事例
非常に成功した「可口可楽」事例とは逆に、非常にもったいない「ANELLO」事例を挙げてみましょう。
実は、中国商標問題で失敗事例はいくらでもあります。その中で、日本企業のかばんブランドであるANELLOを事例として挙げたいと思います。
ここでANELLO事例を取り上げる理由は、
特許庁が企画した商標拳でANELLOを成功事例として取り上げたからです。
日本国内では、ANELLOが確かに成功事例になっているかと思いますが、
少なくとも、中国では絶対そうではないです。
ANELLOの中国商標を調べてみましょう。
ANELLOかばんブランドを展開するこの日本企業が持っている中国のANELLO商標は、こちらになります。
2015年4月29日に出された商標です。
その中身をみると、
この商標は、2016年6月13日に公告され、
その2年後の、2018年2月14日に登録されました。
何故、2年間も掛かったのでしょうか?
経過情報をみましょう。
実はこの商標、異議申立がありました。
この異議手続きで2年間戦って、2018年2月14日にようやく登録されたんです。
その後、2018年6月1日に、譲渡されました。
ANELLOかばんブランドを展開するこの日本企業に譲渡されたんです!
と言うことで、
現在の権利者は、ANELLOかばんブランドを手掛けている日本企業になりました。
この商標について、何があったかと言うと、
某中国の方により、中国でかばん関連の指定商品で、ANELLO商標を先取りし、
その後、気付いたANELLOかばんブランドを展開する日本企業が、この商標を無効させようと、2年以上戦ったけど負けちゃって、結果的には買い取っちゃた。
とのことです。
これで、あの日本企業は、ようやく中国でかばん関連の指定商品でANELLO商標を手に入れることができました。
それでは、他の分野ではANELLOと言うネーミングは誰のものでしょうか?
範囲を限定せずに、ANELLOと言うネーミングを調べてみました。
その結果、ANELLOと言うネーミングは、もう、中国では誰が使ってもいいものになったことが分かりました。
中国における、ANELLO商標の公開データをみてください。
いろんな区分で、いろんな会社により、好き勝手に出されています。
あの日本企業は完全に諦めていますね。
この日本企業はかばん関連のANELLO商標は持っているので、かばんは合法的に売っているけど、
スマホケース、服装などの横展開される商品では、他人が例えばANELLOブランドのスマホケースを作っても、自分の権利ではないので、主張できなくなります。
3,まとめ
中国商標は、とにかく、早く出しましょう。
日本で起業する前に出しましょう。
「中国進出するから、そろそろ出そうかな~」と思ったら既に出遅れです。
中国弁理士、TRY㈱、LTASS㈱の代表取締役。
東北大学(CNIHA)工学部、東京理科大MIP卒。2007年来日、東京の特許調査会社と特許事務所を経て2014年東京で起業。現在、中国・北京にも特許事務所を構え、中国特許出願をダイレクトに対応している。