56. スラムダンク創作山王でわちゃわちゃする話(深津一成•沢北栄治•一之倉聡•牧伸一•藤真健司)
主人公 佐藤アキちゃん、山王工高出身、大手雑誌編集部で働いている。
沢北:アキの幼なじみ 山王工高出身 アメリカ在住
深津:東京のプロチーム所属 沢北の先輩 山王工高出身
リョーコ:深津の幼馴染 東京プロチームのマネージャー
水原さん:アキの上司、大手雑誌編集部で働いている。
仙道: 東京のプロチーム所属
※成人指定※
※直接的な表現ありなので、苦手な人はご遠慮ください
完全自己満、結構大人な内容ですので苦手な方はご遠慮ください。あまりバスケに触れず健全な男女として書いてます。誤字脱字あり。すみません。前回の続きです。
※本作はファンアートです。原作とは一切関係ありません。
「誰かを見てて、時間が止まったみたいに思う時ない?」
多分そう呟いた時
何かを意図してた訳じゃなくて
目の前にいない誰かを思って遠くを見つめる君が、消えてなくなりそうで
今、自分といるこの場所に繋ぎとめたくて声をかけた。
遠くを見ていた目がこちらを向いて、初めて同じ時間軸を共有している気分になる。
「それって、クロノスタシスっていうんですよ。」
君は綺麗な目でそう言って、自分から喋りだしたのに不思議そうな顔をしてる自分に教えてくれた。
「時計の針が止まって見える。とか。そういう錯覚。」
夜中のコンビニの前で、それを聞きながら今同じ現象が起きていると感じた。
「錯覚?」
「そう、錯覚。」
そう聞きなおした俺に、君は悲しそうに言ったんだ。
いつか「心の時間」は「時計の時間」とは必ずしも一致しない。そう自分で言ったのに。
もうくたびれたよ。何をしてても思い出すから。
終わりにしないと自分が自分じゃいられなくなるから、声も横顔も
いつかまた会いたい。
何か声をかけさせてくれよ。ただそれだけでいいんだ。
※
体育館の天井に挟まったボールを見上げる。骨組みの隙間に挟まったまま誰かにとられるのを待っている。
誰が上に挟めたんだろう。そう思うと体が固い床に沈んでいく感覚になった。
いつもなら、このまま落ちていく体を味わっていた。
アキちゃんと再会してからは、こういう時笑ってるアキちゃんが思い浮かべる。
いつか海に行きたい。アキちゃんはきっと喜んで、秋田の湖みたいだって自分たちにしかわからない比喩をするんだろう。
「深津。大丈夫か?」
顔を見下ろしてくる仙道の顔を見て不思議に思った。
なんで仙道がここにいるんだろう。
そうか。ここは山王じゃないぴょん。
気づいた時に合宿試合中、ひっくり返って軽く頭を打ったことに気づいた。
顔を横にむけると、いつもの調子を取り戻した沢北が、歩きながら倒れた自分を心配する素振りもなく、俺を倒したヤツを見てわくわくしながらコートを歩いていた。
声をかけられた事に首をかしげた。大丈夫に決まってるから。
体を起こしてノールックで練習に戻る。手をあげて監督にスタートの合図を出した。
「お。」仙道が起き上がった自分を見て声をだす。
仙道の視線の先には、懐かしい相手がいた。
「動揺とかしないか。」牧伸一が俺を見てそう言って不敵に笑った。
日本人に体が吹き飛ばされる感覚が新鮮だった。まるでダンプカーだ。
「神奈川No.1プレイヤーか面白い」沢北がわくわくが止まらないそんな顔で見ていた。
まあ、素早いパスと懐かしのゾーンプレスが必要か。牧と目を合わせて、お互いに睨み合う。仙道も決着をつけたがってる。
そんな最中また考え事をした。
アキちゃんと付き合ってから、前よりさらにバスケが面白く感じる。
わくわくした。足取りが軽くてこの状況さえも楽しんでいる自分がいる。
※
観客席から目くばせすると、大きな体を翻してこちらに向かってくる。
「イーサン、ありがとう。」
「サトシ、また日本で会えて嬉しいよ。」
手を握りあって背中に手をまわして叩いた。河田にそっくりな日米ハーフのイーサンとはコーチ留学プログラムを通じて知り合った。
「まさか、代表の合宿にアシスタントとしてスカウトしてくれるとは思わなかったよ。」首から下げたスタッフのカードに書かれた「一之倉聡」の文字を誇らしげに見せる。久しぶりに興奮している。まさか自分にこんなにはやく機会が訪れるとは思わなかったから。
「サトシ、世の中全部コネクションだよ。」そう言って自分の腕を撫でる。
「さすがにベンチには入れないけど、今はこの場所にいれるだけで嬉しいよ。」
そう言って迫力抜群の代表選手たちの試合を眺めた。
「監督通訳の仕事がきたから、どうせなら俺を構ってくれる人と一緒がいいな。と思っただけだよ。」ふざけた様子で言う、気前の良さが好きだった。
「どう、選手たちは。」そう声をかけるとイーサンと2人でコートを見つめた。
その中でも目立っていた2人。一発触発の危機を秘めて火花を散らしていた。
「久しぶりに倒れる深津みたよ。」そう言ってははっと笑った。
「今回の合宿を見ても、PGが豊作だね。牧選手のプレーは直線的で深津選手のプレーは曲線的だ。藤真選手もジャンプシュートがあるから、飛び道具になる。」
「海外のプロ選手はオフェンスもできてシュートもしてくるしな。」
求められることは大きい。ディフェンスではオールコートで走れる体力。そのために必要なフィジカルとスティールを狙う機動力と判断力を見られる選考の練習試合はつねに緊張感が流れる。
「頑張れよ深津。」観客席から無表情ながら楽しそうな深津を見つめた。
※
「牧、久しぶりだな。」いつまでたっても変わらない爽やかさで声をかけられた。
「藤真か。髭どうした?」
「毎回会うたびいうのやめろよ。」眉間に皺を寄せて頭をかいた。
「高校思い出すな~。懐かしい。」
合宿中の食堂で、辺りを見渡す。
「もう、監督じゃない気分はどうだ。」
目線を移して、すうっと息を吸うと我慢できないみたいに笑う。
「あー。正直、いいよ。ただ、ずっと燃えていられるし。」
途端にうるさい声がしてそちらを見た。
「深津さん!なんでそいつとご飯食べてるんですか?」
「あ?何メンヘラの彼女みたいな事言ってるぴょん。」
沢北が深津と流川を見て騒いでいた。
「おれ友達いないんですから深津さん一緒に食べてくれたっていいじゃないですか!」
ぎゃーぎゃー騒ぐ沢北を見て、
日本一のエースってあんな感じなのか…?と少し拍子抜けする。
「あっ。ゴーヤチャンプルーだ。宮城に写真送ろっと。」
勝手に深津達の前の席に座って携帯を取り出す。
「もう、他の男の話ぴょん。お前はそういう奴だぴょん。」
「え?なんか言いました?」何も聞いてなかった沢北が深津を見る。
「先輩、元気すか?」
急に流川が喋ったので少しシンとする。
「え?宮城?…ああ、元気だと思うよ。」
返事をまたずにご飯を食べ始める流川。
沢北がキョトンとした後、いたずらっぽく笑う。
「宮城、何してるか気になる?」
「…うす。」
「来季も同じ大学でプレーするって決めたみたいだよ。もう1年大学でやってその実績も含めてNBAエントリー挑戦するって。勝負の1年にするみたいだぞ。NBAチーム練習に参加したいから頑張ってるぞ。」
「…。」
「お前のこと、待ってるぞ。」
深津が何も言わずに、沢北の言葉で流川が燃えているのを見つめた。
「あ、牧悪い。ちょっと知り合いいたわ。」
やりとりを静かに聞いていた時、藤真が席を立ったので
何かと視線をうごかすと、手に持った箸を落とした。
自分も知り合いを見つけたから。
※
「佐藤、久しぶり。」
「え、えーー!藤真さん。」
食堂に行くと懐かしい人に声をかけられた。
大学で一緒だった藤真さんだった。
「びっくりだな。こんなとこで会えるなんて。」
「いや~本当びっくりです。」なんだか照れくさくて笑う。
はにかんで笑う藤真さんを見て懐かしい気持ちになる。
「佐藤がバスケの取材するなんて、な。」私が首から下げている取材陣のパスを指さして言った。
大学でよく話してた時は、藤真さんがバスケをしていたことはもちろん知ってたけど、深津先輩を思い出すからあからさまにバスケの話題を避けていた。
「そうですよね…。」
「佐藤あれから、どうした?もう大丈夫か?」
「あ…そうですね。大丈夫です!」
少し言葉を選んだ。ここで話すのは…何かと気を遣う。
なんとなくそう思って目を泳がすと、藤真さんが不思議そうに私の様子を見ていた。
「まだ、いるんだろ。終わったら話そう。」
「そうですね。」
手を振って、軽食だけにしようと食堂にあったパンだけを手にとってお会計した。
大学の頃を思い出して懐かしくなる。
当時の私が、今の私を知ったら驚くだろうな。
気になって後ろを振り向くと、藤真さんが立ちつくしててこちらを見ていた。
目が合ってびっくりして、ゆっくり手を上げる。
気づかれた事が恥ずかしかったのか、少し顔を赤らめて手を振っていた。
「…水原さん一緒に来たはずなのに?どこ行っちゃったんだろ。」
周りを見渡したけど、水原さんの姿はなかった。
※
自動販売機に小銭を入れる。
一番上にある紅茶花伝のボタンを押そうと背のびした。
大きな手が上に伸びて、先にそのボタンを押される。
すぐに誰なのか気づいた。
「まだ、これ好きなんだな。」
「…久しぶりね。牧君。」
自販機に腕を置いて、自分の視界に入ってくる懐かしい男性。
「ヒトミさん。ちょっと食べたら?そんな細くて。顔色悪いし。」
「ちょっと、仕事で来てるんだから下の名前で呼ばないでよ。」
髪を耳にかけてしゃがんで、紅茶花伝を自販機のドアからとった。
「…水原って呼んだことないからな。」自販機から体を離して、ウェアのポケットに両手をいれて自分を見下ろしている。
「相変わらず大人っぽいね。」何も変わってない牧の顔を見上げた。
「褒めてるよな?それ?」嫌そうな顔を見て笑った。
「さっき…俺のことみて逃げただろ。」ホットのペットポトルを手に蓋を開けて少し時間をあけて何て答えようか迷う。
「それは自意識過剰じゃない?」ふふっと笑いながら言った。
「そうだよな。水原さんは昔の男見て逃げるような女じゃないか。」ぎこちない苗字にムズムズする。
「昔の男って…。言い方なんか悪意ない?」あえて目は合わせずに言った。
「悪意は、ないよ。」そう言ってポケットから何かを差し出す。
手をだすと、いちごみるくの飴だった。
思わず吹き出す。
「まだ持ち歩いてるの?」肩を震わせて笑った。
「これ好きだっただろ。貧血になった時よく食べてたから。」
「…よく覚えてるね。」
「ただの大学の後輩だから。覚えてますよ~。」当時より、凛々しくなった体つきを見据えて少し溜息をつく。
「牧君。もう私は大丈夫だから。そんな構わなくて大丈夫だよ。」
そう言って後ろ手に手を振って、歩いていく。
「すまん。構いたいんだよ。俺が。」
そう言われて思わず、立ち止まる。
「過保護。だから老けてるって言われるんだよ~?」
「それは関係ないだろ。」明るく切り返すと、困ったように笑ってそういった。
もう何も言ってほしくなくて、後ろ手に手を振った。
※
「おーい。藤真さんと仲良いんだな。」
「うわっびっくりした。」急に肩が重くなる。
一人でパンを食べてると沢北が肩に顔を置いていてびっくりした。
じっと見つめてくる大きな目が前より元気そうで安心しながら、何故か言葉を探した。
「大学、一緒だから。」そう言って目を合わせずにもぐもぐする。
「ふーん。」そう言って、パンをかじられた。
「ちょっと~。」沢北の方を見ると元気そうに立ち上がってストレッチを始める。
「別に、俺たちの知らないアキがいるのはしょうがないし、いいんだけど。」
俺たち…?そう言ったのを聞いて、言おうとしてる事に勘づく。
「深津さんには、前もって声かけといた方がいいと思うぞ。俺と違って、すぐアキに聞いたりしないだろうから。」
沢北の方が深津先輩を理解してる気がして、拍子抜けした。
「まあ、藤真さんは俺よりアキを知らないし」そう言ってにやっと笑う。
「アキが藤真さんを、深津さんより好きになる事ないと思ってるけどさ。」
目を丸くして当たり前みたいに言う沢北が可笑しかった。
「ねえ、自信ありすぎじゃない?」
「アキが好きなのは深津さんの次に俺って決まってるだろ!」あまりにも吹っ切れてて笑いが止まらなかった。ありがとう沢北。
何でもない時も、沢北の根拠のない自信は人を元気づけるよ。
「でもさ。沢北。」そう切り出す私に、顔を向ける。
なぜ私もそんな切り出しをしたのか不思議に思いながら、言葉を続けた。
「2人ともいなかった間、私寂しかったよ?」心の中から絞りだしたようで、
自分でも少し動揺しながら、沢北の反応を待っていた。
「うっわ。」嫌な顔をする沢北が、私の横に座りなおした。
「全然聞きたくない。何か嫌な予感する。」そう言って耳をふさいだ。
「いいよね。心の声丸聞こえで。」明るく答えてパンの袋を丸めて捨てた。
嫌な顔をした沢北の反応にどこかで安堵した。その反応を期待してた訳じゃなくて、沢北が聞きたくない。そう言ってくれた事で救われた気がした。
昔、深津先輩と話す時、こんな風に心の声が聞こえてたらよかったのに。
そう思った。
沢北が私の肩に手をまわして、広場からトレーニングセンターの中に入る。たわいのない事を喋っていると、廊下を向こうから歩いてくる集団と鉢合わせる。
「あ。お疲れ様です。」
沢北が礼儀正しく頭を下げるけど、私の肩に手をまわしたままで。あまりいい心証を与えなそうな絵面だった。慌てて私が咳払いして肩から手をはらう。
牧選手と藤真さんと知らない選手だった。
会釈をして通りすぎるけど、沢北が藤真さんと見つめ合ってる事に気づいた。
「ちょっと。沢北、見過ぎ。」小さい声で肘うちする。
「沢北、余裕だな。」そう牧選手が笑って言うから「そんなことないですよ!楽しみですね試合!」沢北がひょうひょうと答えた。
そのあと「世界大会って言った方がいいか。」そう付け加える。
少しピリッとしてなんとなく、沢北が嫌われる理由がわかる気がした。
私も行動に気を付けよう。そう思って心配そうに沢北を見つめる。
牧選手たちが横を通り過ぎる時、沢北はずっと藤真さんを見ていて、完全に通りすぎた後遅れて私の心配そうな顔に気づいた。
沢北が牧選手たちの後を遅れてついて行って、私も一緒に歩いていく。
その時、向こう側から大好きな歩き方を見つけた。
反射で前髪を整えた。その様子に気づいた沢北が少しバカにしたように笑う。
「アキって本当わかりやすいよな。」そしてため息をついて、なぜか私の頭をぽんぽん叩いた。
沢北はそう言った後急に走り出す。
足のはやさに牧選手たちが一瞬足を緩めるのを横目に沢北が思いっきり深津先輩に抱き着く。
「深津さん、久しぶりに1on1やりましょーよー!」
「離れろぴょん。」
そう言った後、私を見つけて少し優しい顔をした。
深津先輩と目が合うといつも、時間が止まって周りの人が気にならなくなる。
「なんで流川とずっと一緒にいるんですか?俺とは一緒にいないのに?」
「お前、そう言われる気持ち考えた事あるぴょん?だいぶきもいぴょん。」
流川選手が何も言わずに眠そうに外を見ていた。その後、目線だけ沢北に向ける。
「俺とも、やりましょうよ。」そう急に呟く流川選手に、沢北が少したじろぐ。
「え…別にいいけど。俺に。絶対勝てないと思うけど…。」凄くやりにくそうに言ったけど、まんざらでもなさそうだった。
「北沢、俺ともやろうぜ。」後ろから水原さんと一緒に仙道さんが歩いてきた。
その姿を見て「おっ。」と顔がゆるむ。
2人でいる姿を見るのはあれから初めてだったから。
「…?それって素で間違えてます?」沢北が不思議そうに仙道さんに向かって顔を傾けた。
私がくすくす笑うと、私をじっと綺麗な顔で見てる深津先輩とまた目が合った。
なんだろう。こうやって外で会うのっていつもと違ってすごく照れくさい。
私もじっと見つめる。気のせいかもしれないけど、熱い視線に目が離せない。
好きで好きでたまらないっていう目。ってよく深津先輩が私の視線を言うけど、最近は私でも感じる。こんな目が、そういうんだなって。
多分同じ事を考えてるはずなんだけど、時折感じる不安な気持ちが、2人一緒にいなかったすれ違った時間を感じる。
だけどその感情は私をただ、深津先輩への気持ちを再認識させる。
きりなんてない。どれだけ愛されてるかなんてわからないから。
大好きだって伝えたくなる。
「パンだけじゃお腹すくぴょん。」
「え。」
そう急に話しかけられて、びっくりした。
私が食堂にいた事に気づいてたんだ。
ポケットからクリーム玄米ブランを取り出して私の手に渡す。しかも、私の一番好きな味でよく朝一緒に家をでるとコンビニで買うやつだった。
よくみてるな。そう思って「ありがとう。」そう恥ずかしそうに言うと「ぴょん。」とだけ言って訓練場に沢北が抱き着いたまま向かう。
その背中を見送ると、藤真さんと目が合った。
私を見ていた事に気づいて、少し驚く。
藤真さんが見たことない風景を見るように私を見る。
共通した時間を抱えているから、見かわす視線に昔の自分を見てしまう。
悲しかった事や思いやる気持ちとか、視線の中に感じて何も言えなくなる。
目をそらしたくなるけど、我慢して小さく頭を下げた。
※
「ミレイちゃん。なにそんなに睨みつけとんの?」
「わっすみません!気づかなくて!」
誰もいなくなったオフィスで、空調の音だけが鳴り響く。
自分がデザインしたバッシュを身に着けた流川選手がカバーを飾っている雑誌を食い入るように見つめた。
その雑誌の横には、挑発的な笑顔の沢北選手がライバル会社のバッシュを身に着けているカバーの雑誌を並べて置いている。
あまりにも夢中になっていて、諸星さんが近づいてる事に気が付かなかった。
「もう、デザインチームみんな帰ったんじゃない?」
「…そうなんですね。」2冊の雑誌から目を逸らさないで言う上の空の返事を聞いて、諸星さんが一呼吸おいて横の椅子に座った。
私の様子を見据えて、椅子の背もたれを前にして両腕に顔をのせて覗き込む。
「全然違う?」
その一言を聞いて、ゆっくり振り向いた。私に目線をくれて、そのあと2冊の雑誌を指さす。
「…なんか、やっぱ他人が作った物って凄くよく見えますよね。」
考えていたことを当てられると思わなくて驚く。
「そりゃ~まだミサキさんには勝てないでしょ~。」
そう言った後「あ。」という顔をして口をわざと抑える諸星さん。
「…意地悪ですね。でも本当そう!」
そういってアイパッドをのぞき込んで制作レシピを見直す。
「ミサキさんはディレクターだしね。制作工程から企画、素材の選定まで詳しいから。勝てないって思うのも無理ないよ。やってる事が違うじゃん。設計までしてると、調和が生まれるのは当たり前だよ。」
「悔しいです。」
そうハッキリ言う私の顔を面白そうに見つめる。
「私のデザインはうるさくて、邪魔してるように感じちゃう。」
「うるさいのが若年層向けだもんで、いいんじゃない?」諸星さんが椅子を揺らしながら、少し呆れた表情で見た。ぶっきらぼうな言葉だけど励ましてるのがわかる。
「ミレイちゃんさ。仕事に合わせたコンセプトデザインしか出来なくなる日がくるかもしれないから、ミレイちゃんだけのデザインを評価してもらえる時は素直に、まっすぐ構えてた方がいいよ。ブランドフィルターを通してみても、採用されるデザインを作れてるってことは間違いないし。」
「…ありがとうございます。」
一人で考え込むより、人と話した方がスッキリするって同じ職場の人ならではだよね…。そう思って、なんだか胸が軽くなった。
「今21時だけど。帰んなくていいの?」
「え、もうそんな時間ですか?」焦って後片付けを始めた。
まさか、待っててくれてた訳じゃないよね。ちらちら、椅子をくるくるさせながら、紙コップのコーヒーを飲む諸星さんを見つめた。
そう不思議そうに見つめていると「ん?待ってたよ。」
当たり前みたいに言われてびっくりする。
「新卒一人にして帰れないでしょ~。」
「ああ…。」そっちの意味か。一瞬腑に落ちたけど、諸星さん営業だし関係ないけどな?そう思いながら鞄に私物を詰め込んだ。
オフィスの外に出ると諸星さんは慣れた様子で施錠する。
「すみません。遅くまで残らせちゃって。」
「ええよ。別に。」
そう言ってアップルウォッチを見て、私の顔を見た。
何か言いたそうなので、顔を見つめた。
「あんまり考えすぎないで、アイディアを大事にしてどんどんアウトプットしてよ。クリエイティブなインスピレーションを楽しんで。」
そう真っすぐ言う諸星さんは、珍しく真面目で説得力があった。
「…そうですね。ありがとうございます。」
実際の現場ではアートは求められてないから。そうはいかない事も多い。諸星さんがあえてそう言ってくれてる事に気づいた。
「飲み、誘いたいけど。」そう一言いって、なぜか私の後ろを見た。
「今日は帰って寝るわ。」急に背を向けて歩き出したので
後ろ姿に「お疲れ様でした!」と声をかけた。
オフィスビルエントランスの階段を駆け下りていくと、広場に出た。
噴水の水を見ていると、噴水前のベンチで見たことある人と目が合う。
「聡!」
名前を呼ばれて立ち上がると、切れ長の目を細めて笑顔になる。
一之倉が私の方に歩いてくる。
実業団バスケとコーチを両立してる一之倉と私は、あまり平日会えない。
最近はそれに加えて、スポットで大事な日本代表チームの合宿にアシスタントとして参加してるから、全然顔を合わせていなかった。
だから、職場にいる一之倉を見てびっくりして駆け寄った。
手を広げてにんまり笑うから、嬉しくて抱きついた。
「残業しすぎじゃない?」一之倉は大好きな匂いがした。
会いたくて会いたくてたまらなかったから、一之倉の背中に手をまわして広い背中に手をすべらせる感覚を味わう。
「どうして?ずっと待ってくれたの?」
「会いたかったから、会いに来た。」
耳元で低い声で言われて、ドキドキしてるのにお腹が凄い勢いで鳴る。
2人で抱き合ったまま笑い合った。
「お腹減ったでしょ?ミレイ食べたいって言ってたの買ってきたよ。」
一之倉が手にもった袋をみて思わず大きな声をだした。
「韓国チキンじゃん!聡いっつも鳥胸肉とブロッコリーしか食べてないから、一緒に食べてくれないと思ってた!!」
「それ以外も食べるよ!」そうかぶせるように言って爆笑する。
嬉しそうな私の顔を見て満足そうに両手をポケットにいれて体を傾けて、私の全身をくまなく見た。まるで、目に焼き付けてるみたいに。
恥ずかしそうにする私を見て、顔を覗き込む。
何を言われるのかな、と顔を赤くして一之倉を見つめた。
「俺ん家くる?」そう言われて顔がにやけた。
「行く!でも、何にも持ってきてないよ...。」
「俺の服着て仕事行けばいいじゃん。部屋ではどうせ裸にするし。」
何言ってんの!って叩く私の手をとって、恋人つなぎして歩きだした。
一之倉はいつも、言葉なんかより一緒にいる時間で、笑いかける瞬間で、元気づける。
不思議だった。頭の中で新しいデザインがたくさん浮かんで気持ちが軽くなった。
このまま2人の時間に浸ってお腹いっぱいになってから、口についたハニーマスタードを舐められて、そのまま私の指を舐めた。その様子に見とれて、一之倉が指から首をなめて私が疼いて声を漏らす。
「こんな時間まであいつと一緒にいんの?」そう耳元で言われて
諸星さんに嫉妬した一之倉のセックスが待ち遠しくなる。
私に覆いかぶさる、一之倉を見上げると切れ長の目を少し下げて冗談だけど不満気な表情を見ると、奉仕したくなって体を屈ませた。
いつも「いいよ。しなくて。」って飄々とした表情で制するのを振り切る。
口の中でいっぱいにすると、表面痛覚は皮膚や粘膜を通じて感じ始める。
この痛覚も悪くなくて、そっと目を閉じた。
舐めてる時、頭を掴みながら息を吐いてその後優しく撫でられる。
そのあとに腰を落として喉奥まで入ってきて、思わず一之倉の太ももを叩いた。
ぐっと力が入って嗚咽する。その様子を見て腰を引いて私の顔を撫でた。
「ごめん。苦しかった?」なぜか悪びれもなくて、愛おしそうな様子を見て、恥ずかしくなって首をふった。涙が出て、一之倉が何も喋れない私にキスをした。
少し怯んでる様子の私に優しく触れて唇を撫でて、襟をひっぱって上半身を脱ぐ。
一之倉にくっつきながらぎゅっと抱きしめて、慣れてきた自分を触る手を味わう。
「仕事大変?」
急にそう聞かれて「ううん。楽しいよ。難しいけど。」ぽつりと言う。
「頑張りすぎたら言うんだよ。」低い声で当たり前みたいにさらっと言われた言葉が嬉しくて、ただ背中を撫でた。
「話聞いてあげたいし、忘れさせてあげるから。」
ぎゅっと抱きしめなおして、眉毛を下げて優しく言うからドキドキして嬉しくて何も言えなかった。ただ、首を縦にふる。
「ん…。大好き。ありがとう。」言葉が自然とでた。
「俺は仕事中、一緒にいれあげれないけどさ。」そう言って悔しそうな顔をしてる一之倉が可愛かった。
「仕事中も一緒だったら、緊張しちゃうよ。」思わず照れて笑う。
「だから、あいつが羨ましいよ。俺が知らないミレイが見れるから。」
一之倉がそんな事を考えていたなんて意外で、珍しく子供っぽい顔をする。
「私は…。」ミサキさんが羨ましい。一之倉が好きなスポーツの業界で活躍しているあの人の才能が、私の知らない一之倉との時間を共有しているあの人が。
そう言いかけるのを、寸でで止めた。
感情をぶつけるより、いい方法を見つけたから。
「今からいっぱい見て。みんなが知らないところ。」そう言って顔を撫でた。
撫でていた手で一之倉の顔を引き寄せてキスをする。
高校生だった頃大好きだった一之倉に、今触ってるんだ。
毎回そう思うと、くだらない感情がどうでもよくなって嬉しさで溢れだす。
何年も前なのに、まだ覚えてる。心で感じる時間はすぐ昨日の事のようだった。
※
「沢北。」
「ん?なんですか?」
練習終わりに誰もいなくなった練習場で、ボールを片付けながら深津さんが声をかえた。正直、こんな事しなくていいのに深津さんは誰よりも残って練習したがるから、俺も合宿中は付き合う事にしている。
ボールを手にもって回転させながら、空中にスナップさせてボールを浮かせる。
ボールをキャッチしても、深津さんからの声が聞こえないので手を止めてゴール下を見た。
「藤真と、アキちゃんって何かあるぴょん?」
なぜか、俺が動揺してボールを落とす。
ほら、アキ。喋れっていったのに。
心の中でそう呟きながらボールを拾った。
「俺より、お前の方が昔のことは詳しいから。」そう清々した顔で言う深津さんには変な嫉妬も感じられなかった。
「大学一緒なんですよ。それだけじゃないですか。」
ボールを交互に手で持ち替えて深津さんに近づく。
「そうか。」
それだけ言うと、深津さんは無表情で練習場から出ようとする。
もっと何か、聞いてきてくれた方が俺もなんかアキに聞けるのにな。そう思いながら背中を追いかけた。
「気にしなくていいんじゃないですか?」
「別に気にしてないぴょん。」
すぐそう言い返す深津さんの強がりを感じて、ふふっと笑いながら。
「アキは深津さんが好きですよ。」
そう付け足した。
言ってほしい言葉がわかったから。
何も言わない深津さんから感じ始める罪悪感が、なんだかうざったくて
「その次に好きなのは、俺だと思いますけどね。」
そう大きな声で言うと、
深津さんが俺の方を目を丸くして見たから笑いかけた。
そうするとふっと口角だけ上げて笑ったのを見て
珍しくて目を丸くした。