映画『街の上で』髭野純プロデューサーインタビュー(後編)
変わりゆく街 下北沢でオールロケを敢行し、その街で生きる若者の姿をリアルに描いた本作。観ていてどこか身近に感じて、クスッと笑える不思議な魅力をもったこの作品はどんな経緯で作られたのか、本作のプロデューサーである髭野純さんにインタビューしました❕
ここでしか聞けない映画へ込められたこだわりも制作秘話も見逃せません✨
「街と人」の映画のはじまり
第11回下北沢映画祭にて、『街の上で』 初お披露目。右から、今泉力哉監督、若葉竜也さん(主演)、大橋裕之さん(共同脚本)
ーー「風景が変わりゆくなかで、今の下北沢を切り取った映画を作りたい」という思いから始まったそうですが、どうして今泉力哉さんに監督をお願いしようと思ったんですか?
髭野純プロデューサー(以下、髭野さん):これは今泉監督が発言されていたんですけれど、下北沢ってスーツ姿の人をあまり見かけないんですよね。ある種どんな人でも受け入れてくれる街なのかなと。下北沢を舞台にはしていますが、ただただ「下北沢最高」という映画を撮っていただきたかったわけではなくて。「街と人」というテーマを考えた時に、そこに住んでいる人々の生活や思いを描ける監督が良いなという思いがありました。監督がご自身で脚本も書かれている『退屈な日々にさようならを』という作品がとても好きなんですが、監督の地元である福島と東京を舞台にした作品で。オリジナル脚本の新作を観てみたいという気持ちもあり、今泉監督にオファーさせていただきました。
ーー上映時間が長い映画って少し気がつまりますけど、『街の上で』の130分はその長さを感じないくらい、物語がすっと入ってきました。
髭野さん:当初は70分くらいでも充分と思っていましたが、いつの間にか130分になっていましたね。厳密には129分40秒ぐらいなんですが、上映時間の表記について監督は“9”という数字は政治的に感じるから良くないと主張で。一方自分は少しでも短いほうが良いという意見で、言い合いになりました。今となっては130分で大丈夫でしたね(笑)
2019年10月の第11回下北沢映画祭で『街の上で』のお披露目は決まっていたので、その後に上映される作品のことを考えると、130分はギリギリのラインでした。編集は少し前に終わっていましたけど、実際に映画が完成したのは上映の2日前でしたね。自分は下北沢映画祭のスタッフでもあるのですが、映画祭側から「いったい何分になるんですか!?」ってずっと聞かれていましたね。
魅力的なキャスティングの裏側
ーー若者の日常をリアルに演じられていた役者さんたちがとても魅力的でしたが、どのようにキャスティングを行われたのですか?
髭野さん:有名じゃない役者さんでも参加できる映画になったらいいなと思って、まず2018年の年末に下北沢映画祭主催という形で今泉力哉監督によるワークショップ・オーディションを開催しました。500名近い応募があって、そこから50名ほど参加いただきました。募集要項には「男女各一名以上、映画の出演者を選出」と記載していたんですけど、今泉さんが男女合わせて10名ほど合格を出して。その時点では脚本がまだないのでその方々が何の役か決まっていないし、脚本も無いのにこんなに合格させて大丈夫かな?という気持ちがありました。「役はまだ分からないけど合格です!」という連絡、謎ですよね(笑)
古着屋を訪れるカップル役の遠藤雄斗さんと上のしおりさん、居酒屋のマスター役の小竹原晋さん、居酒屋で青に絡む五叉路役の廣瀬祐樹さん、『南瓜とマヨネーズ』を読んでいる未羽さん、メンソールの女を演じたカレンさんなどは、オーディションから参加いただいた方々です。
ーー脚本にあわせてキャラクターが作られていったんですね。
髭野さん:オーディションからのキャストは、元々の脚本から当て書きしていくような形でキャラクターが作り込まれていきましたね。
主役についてはなかなか具体的に話が進まず、夏の撮影を予定している中で春を迎えていた頃でした。『愛がなんだ』の公開が始まり、そろそろどうするか決めませんか?と焦っていたところ、監督から若葉さんの名前が挙がりました。「若葉さんなら是非!すぐにお願いしましょう!」と、その後正式にオファーしました。監督からご本人にも軽く打診していただいたのですが、その際は主演とは思っていなかったみたいですね。立て続けに今泉作品へ出演していただけるか不安もありましたし、初主演ということで断られる可能性もあったかと思いますが、引き受けていただきホッとしました。
当初はアキ・カウリスマキ監督の作品のように、「寡黙な主人公」というアイデアもありました。「今泉作品史上一番主人公が喋らない映画になるかもしれない!」と盛り上がっていた時期もありましたが、ふたを開けたら全然違いましたね...。
ーーヒロインの4人はそのあと決まっていったんですね。
若葉さんが引き受けてくださってから、徐々にヒロインたちのキャスティングも決まっていきました。城定イハ役の中田青渚さんは、自分がプロデューサーとして参加した『もみの家』という作品の現場ですでにご一緒していたのですが、ある日、今泉監督から「まだ有名じゃないけれど(別作品の)オーディションでとても良い芝居をする女優さんが居た」と言われて、それが中田さんでした。その際に「下北沢で撮る映画もメインキャストで中田さんを起用するのはアリかもね」という話になっていました。
ヒロインに関して、監督の中ではどの役をどの方にお願いするか悩んでいた時期もありましたが、中田さんを城定イハでお願いすることが決まってから、他の方々も正式にオファーさせていただきました。監督とは意見や価値観が合う部分が多く、こちらが希望した方々にご参加いただけてとても光栄でした。
今泉力哉監督との出会いは東京国際映画祭
――今泉監督と初めてお会いした時はどんな印象を受けられましたか?
髭野さん:なんか馴れ初め聞かれてるみたいですね(笑)第一印象...?それこそ、初めてきちんとご一緒したのは、2017年の第30回東京国際映画祭かなと思います。「SHINPA」という若手監督による短編作品撮り下ろしのプロジェクトに自分も運営スタッフとして参加していました。参加監督10名のうちのひとりが、今泉監督でした。
その前年に、自分は『太陽を掴め』でプロデューサーとして第29回東京国際映画祭に参加していて、今泉監督も『退屈な日々にさようならを』を出品されていたので、そこでの出会いが先にありますかね。『退屈な日々にさようならを』はワークショップから立ち上がった作品ですが魅力的に撮られていて、松本まりかさんやカネコアヤノさんも起用されていたので、やっぱりキャスティングへの信頼感はありますよね。
髭野さんがこれから作りたい作品
大きいバジェットの作品をつくりたいのかどうか、正直よくわからないんです。パンフレットひとつ取ってもそうですが、『街の上で』はスタッフやキャストだけでなく、デザイナーさんなど関わっている全員のことを監督が顔も知っているような体制でした。大きい規模の映画だと、監督がデザイナーさんなど知らない場合もあるじゃないですか。その距離感だと自分もどこにいるのかわからなくなっちゃう気がしていて。
ーー規模の大小に関わらず、今後こういう作品をやってみたいとかありますか?
髭野さん:これからもユーモアのある作品をつくりたいですかね。「これ面白いでしょ!」という台詞や演出、あるいは役者さんがここは面白いシーンと思って演技するのではなくて、登場人物本人達は必死だからこそお客さんは笑ってしまうという構図が映画における笑いのポイント、という風に今泉監督はおっしゃってました。
いわゆるロマンティックラブコメディみたいなジャンルの作品は邦画ではまだ少ないかなと感じます。ハリウッドはそういった作品、沢山ありますよね。現実が困難な時代だからこそ、なんでもない日常に寄り添うような、お客さんが前向きになれる作品を作りたいです。
笑いを交えながら、気さくに質問に答えてくださった髭野プロデューサー(画像右)
プロフィール
髭野純さん (Jun Higeno)
1988年生まれ。東京都出身。合同会社イハフィルムズ代表。アニメ会社勤務を経て、インディペンデント映画の配給・宣伝業務に携わりながら、映画プロデューサーとして活動。配給を担当した作品に『ひかりの歌』(19/杉田協士監督)、主なプロデュース作品に『太陽を掴め』(16/中村祐太郎監督)、『もみの家』(20/坂本欣弘監督)など。『彼女来来』(山西竜矢監督)、『映画:フィッシュマンズ』(手嶋悠貴監督)が公開中。『春原さんのうた』(杉田協士監督)が2022年新春よりポレポレ東中野ほか公開予定。
※画像提供
(c)「街の上で」フィルムパートナーズ
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最後までお読みいただきありがとうございます!
全2回にわたるインタビュー記事はいかがだったでしょうか。映画の魅力はもちろん、髭野さんの温かい人柄がひしひしと伝わってきましたね☺️
そして、映画『街の上で』から耳寄りなお知らせがあります📣
青梅市にある木造映画館 シネマネコにて8月27日(金)より2週間新たに上映されるそうです!
現在も、本作の舞台である下北沢トリウッドで上映中ですよ✨
映画を見逃してしまったという方は、ぜひこの機会に足を運んでみてください🎬
(執筆者・上戸智香)