夢を図る歌舞伎に魅せられた
この数ヶ月、オンラインエンタメ作品を探してふわふわとインターネットを漂っているのだけれど、ここまでのところで一番自分の扉が開いたな〜と思ったのが、「図夢歌舞伎 『忠臣蔵』」だった。図夢→ずーむ→Zoom。今年、一躍有名になったWeb会議サービス「Zoom」を活用し、別々の場で行うお芝居を映像でつなげて見せるという試みで、企画・演出・出演の松本幸四郎さんは、「夢を図る」という意味を込めた、と言われていた。舞台ができない状況の中でも、なんとかお芝居をしたい、と話されていた姿も印象的だった。
私が歌舞伎の舞台を見たのは2回ほど。どちらも友達に誘われて見にいったもので、面白かったな〜という記憶はあるけれど、自分でチケットを買って行くことは、これまで無かった。新しいもの見たさと、応援したいというクラファン感覚でチケットを購入したところ、6月末〜7月末の毎土曜日、全5回で構成された作品の、進化の過程が思いの外面白かったので、書き留めておこうと思う。
6月27日 第1回(大序〜三段目)
2人が別々の場所で、それぞれ半分ずつのセットを背にお芝居をして画面をつなげる、という見せ方が面白かったものの、カメラの手ブレが気になったり、上演時間に物足りなさを感じたり。でもここから何かが始まるかも、という期待を込めて2〜5回の通しチケットを購入。
7月4日 第2回(四段目)
忠臣蔵は全部で十一段あって、全部通したらかなりの長丁場になるらしい。そんなことも調べながら一週間を経て第2回。1シーンを複数アングルで撮って画面分割で見せたり、アップ多めで表情や所作がよく見えるようになったりと、1回目とは格段の差ができていた。ちょっと面白くなってきた。
7月11日 第3回(五・六段目)
カメラが演者に果敢に迫り、舞台に乗ってお芝居を見ているような感覚があった。映画やドラマを見ている感覚とは違っていて、それは歌舞伎特有の言い回しや、いかにも大道具、なセットが間近に見えるからかもしれない。また、チャットを見る楽しさにも気付いて、物語や役者を熟知しているファンの「来るぞ、来るぞ」とか「○○屋!」といったコメントを追っていたら、なんだかファンの仲間入りした気分になってきた。生配信時はチャットを追って、演技はじっくりアーカイブで、のパターンが定着。
7月18日 第4回(七段目)
幸四郎さん祖父・初代松本白鸚さんの映像と、時間と空間を超えた共演。生の舞台では次元の違いが明らかに出てしまうし、映像作品としてやっても意味は見出せないような気がする。別々の場でやっているお芝居をつなげるという今回の見せ方だからこその面白さがあったと思う。
7月25日 第5回(九・十一段目)
八段目と十段目は上演することの少ない場面らしい。ここは段ごと省略されているけれど、他の段も短い時間かつ少ない演者(各段、3人くらい)だから、省略されたり大幅にアレンジされたりしているようで、元の脚本が読みたくなってきた。本来もっと人がいるだろうシーンを一人芝居でやり切る市川猿之助さんの演技に圧倒されているうちに、クライマックスの十一段目、討ち入りへ。見所はソーシャルディスタンス立ち回り。接戦じゃない分、緊迫感は少なめだったけれど面白い編集だった。そしてエンディング、由良之助(幸四郎)の言葉は今に合わせたもののようだった。永久保存版。
7月31日まで全回分販売中だけど、残りの日数もわずかなので、どれか1つお勧めするとしたら、やっぱり第5回かな。汗だくになって、目をキラキラ輝かせてお芝居をしている幸四郎さんを見れたのは眼福だった。舞台ではここまで見れないからなあ。
ちなみに、忠臣蔵についても全く前提知識がなかったので、イヤホンガイドのYouTube講座であらすじを学んだ。これも今回の作品に合わせて更新されていたようで、とってもありがたかった。
今、自分でチケットを買って歌舞伎座に行こうと思っている。状況も状況だから迷う部分もあるけれど、お芝居が好きで楽しくて、という人たちを見て楽しみたいし応援したいし、つまりは沼にハマりそう、ということ。
舞台が再開しても、今回みたいに常識を壊す作品が生まれてきたら楽しいだろうな。
まずは全ての部が、最後まで無事に上演されますように。