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レオの足跡
レオの足跡
小学3年生の校外学習。
僕は手塚治虫記念館に行った。
帰った後、先生から入場券が記念として配られた。
レオ、火の鳥、どろろ、アトムの四種類。
僕はレオか火の鳥かで迷った。
結局はレオを選んだ。
取り合いじゃんけんに参加した。
僕は勝ち組だった。レオの入場券を握りしめてすごく嬉しかった。
だが、僕は遅刻してきた余り仲のよくないクラスメイトに入場券をあげた。
欲しそうにしていたから。
余ってたのはアトムと、どろろの入場券だった。
僕はアトムの入場券を取った。帰ったら父にあげるつもりだった。
今でもあの頃をよく思い出す。
僕は記念館の前の庭のようなところに刻まれたレオの足跡を見ていた。
自分の足を重ね合わせてみる。僕の足のほうが大きい。思わず苦笑した。
僕が館内に入り、受付の前に立つと、
「300円です」と低く素っ気ない声がした。
僕は財布から300円を出した。
「あの」
僕の声に受付の係の人が顔を上げる。
その不機嫌そうな顔に僕はつい首を横に振り言っていた。
「な、なんでもないです」
「では、これを…」
僕は受付係の声を最後まで聞かずに、館内の方に歩き出していた。
なにをしているんだろう?少しばかり恥ずかしかった。
なんで6年間も入場券に執着していたのか。自分でも不思議だった。
僕は2階に上がるとミュージアムショップの前にたった。
けれど、そのまま通り過ぎた。
そしてライブラリーから一冊の本を抜き取った。
「ジャングル大帝」の一巻。小学3年生の頃、映画を見た記憶がある。
その時、僕より年下_ちょうど3年生ぐらいの男の子が僕の手の中にある漫画を見つめているのに気がついた。
僕はジャングル大帝を何気なく棚に戻した。
階段を降りかけたところで振り向くと、さっきの男の子が嬉しそうに読んでいた。
そろそろ帰ろう。僕は決めた。外は雨が降りそうだった。
受付の前を素通りしようとすると、低い声が私を読んだ。
「ちょっと、お客さん。入場券。ほら、これ」
僕の手に受付の係の人は入場券を置いた。
その顔こそ笑っていなかったが目は少し笑っていた。
「ありがとうございます」
僕は頭を下げると歩き出した。
火の鳥の像の前を通り、バス停の方に歩く。
頭の中には笑っていた男の子と受付係の顔が浮かんでいた。
バスの中で揺られながら僕は手を見つめていた。
今は裏返しになっている。
今見てしまおうか?家まで待つ?長すぎる。
僕は深呼吸すると入場券を表に向けた。
ハアと吐息が漏れる。
入場券に描かれていたのはレオだった。
「6年間も執着してたくせに…これだけかよ」
自分で自分に文句をつけた。けれど、少し嬉しかった。
入場券の中のレオは笑っていた。
あとがき
これは私の実体験を元にしたお話です。
どこからどこまでが想像でどこからどこまでが本当かは教えません。
ご自身の想像にお任せいたします。
ちょっとありそうな小学校トラブル(?)。
手塚治虫記念館は兵庫県宝塚市にあります。
ぜひ行ってみてください。
そして、入場券が何のキャラクターだったか教えてください!
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