ひ・み・つ
「こんにっちはー!」
私はおばあちゃんの家に来ていた。
おばあちゃんの家は私の家からバスで30分ぐらいのところにある。
私は早速、書庫に入った。
書庫には私の好きな作家『みすず ふるる』の本が揃えられている。
みすずさんは情報が全て非公開の覆面作家だ。
そして、おばあちゃんの家で本を読むのが私の楽しみなのだ。
「おばあちゃん?」
おばあちゃんは書庫にも、リビングにもいなかった。
と、いうことは・・・
きっと、屋根裏部屋にいるのだろう。
おばあちゃんは屋根裏部屋を防音室にしていて、よくピアノを弾いている。
そういうときは、人に邪魔されたくないようで、部屋に入るとすごく怒る。
でも、外からの声は聞こえてるらしいから、放っておくのが得策だ。
ま、本を読むか!
えーっと、今日は何を読もっかな〜?
『鋼と海』もいいし、『彼女』もいいんだよな〜
どっちも恋物語だけど、ジャンルを一転してファンタジーの
『遥か枕』もおもしろいし〜
読むのを迷ってしまう!
こんな時は、定番のあれ!
私は一瞬で決断すると、みすずさんの代表作『ふるるたまご日記』を手に取った。
日常生活の物語が断片的に描かれてる短編集で、賞を取った本だ。
そして、私の一番好きな本でもある。
「あら、すずちゃん。遊びに来てたの?」
「あ、おばあちゃん!」
おばあちゃんがピアノの練習を終えたようで、書庫に入ってきた。
「また、みすずの本を読んでるの?好きね〜そうだ、新作を手に入れたのよ。読まない?」
「うん、読む!」
私はおばあちゃんに手渡された本をまずじっくり眺めた。
凝った装丁、タイトル。うん、やっぱりいい!
題名は『孫と胡麻』。みすずさんらしいタイトルだ。
ただの読者だけど、本は全巻読んだし、それなりに理解してるつもり。
私が『孫と胡麻』を読み終えようとしていた頃、おばあちゃんがやって来た。
「買い物に行ってくるから、お留守番頼める?」
「もちろん!任せて!」
「なにかあったら連絡してね。スマホは持ってるかしら?」
「うん」
私はおばあちゃんを見送ると、密かに前から考えていたことを実行することにした。
それは、屋根裏部屋に入るってこと。
おばあちゃんがいない時はなかなかない。
だから、今が絶好のチャンス!
私は抜き足差し足忍び足で屋根裏に上がった。
「うわぁ」
屋根裏部屋にはちっちゃなピアノがあるだけだった。
そして、部屋には大きな机。
その上には、たくさんの原稿用紙とパソコンが載っていた。
私は原稿用紙に書かれている文をちょっと読んでみる。
え?これって・・・
その書き方は、みすず ふるるのものだった。
そして、題名の下にも『みすず ふるる』と書いてある。
え?なんで?
おばあちゃんって、別に編集者とかじゃないよね?
そういえば、5年前、私が6歳の時におばあちゃんがみすずさんのサインをもらってきたことがある。
その時は、素直に喜んだけど・・・
覆面作家ならサインなんてもらえないはずだ。
じゃあ、おばあちゃんがみすずさんってこと?
私は慌ててスマホを取り出し、さっき読んだ『孫と胡麻』を調べる。
検索結果は_一致しなかった。
やっぱり。あれはたぶん編集者さんと確認するために刷ったゲラだ。
だから、検索しても出てこないんだ。
まさか、おばあちゃんがみすずさんだったとは・・・
私はちっちゃいけど、秘密を知って嬉しくなった。
「ただいま」
おばあちゃんの声とドアの開く音が聞こえて、
「おかえり!」
大声で叫ぶと、私はドタドタと階段を降りていった。