あたらしいようせい


「な、すごいだろ、ほのか」
「うん」
その時、ミカが私たちに気がついて手を振った。
「降りてきなよ、スーフ。バレバレだよ!」
「今そっち行くよ!」
私とスーフは近くの階段を急いで駆け降りた。
「うわぁ、ようせいって生まれた時からこんなに大きいんだ」
「つか、元がちっさいからな」
「妖精ってそういうものよ。小人に間違えられることもあるって言うしね。庭人形になることもあるそうよ。昔話だけどね」
「へぇ」
続いてやってきたティンセルの説明に私は相槌を打った。
ようせいのことはまだまだ知らないことだらけだ。
「それに、もう喋ることができるの。さて、名前をつけないとね」
「ほのちゃん、つけていいよ」
「え!いいの、ミカ」
「うん」
ミカに言われて、私は頭をフル回転させた。
「うーん、ミルってどう?」
「いいね!」
「すっごく、いい。冴えてるね、ほのちゃん」
「いいんじゃねーの?」
「いいと思う、ほのか」
「「「「え?」」」」
突然あるはずのない声が聞こえて、私たちは振り返った。
あ、生まれたばかりの妖精_ミルだ。
「ね、妖精ってすごいでしょ。人間だったら『バブー』なんだから」
「そうだね」
私とミルはすぐに仲良しになった。

「ミル!今日の見張りはあなたの当番よ!」
「あ、オッケーティンセル。じゃあ、行ってくるね、ほのちゃん」
「うん、いってらっしゃい」
私は見張り当番に呼ばれたミルを見送ると、プリンセスの書庫に入った。
ここでいろんな本を読むのが楽しみなのだ。
その時、突然外で大きな音がした。
私が慌ててドアに駆け寄り、開けようとすると、
外から重いものがのしかかっているようで開かなかった。
「スーフ!ミカ!ティンセル!カーマイケル!ミル!」
やがて、外が静かになると、扉がそーっと開いた。
「大丈夫だった?ほのか」
「あ、ティンセル・・・」
「ハチの王が急に軍隊を連れて攻めてきたの。ミルが噂を聞きつけたらしいわ。カーマイケルと私だけ逃げ延びたんだけどね」
そういえば、スーフが妖精が生まれるのはとても貴重だって言ってたっけ。
私はティンセルについて書庫を出ると、大広間にはカーマイケルがポツンと座っていた。
「・・・やあ、ほのか。無事だった?ごめんね、ずっと地下で。
戻してあげれなくて、ごめん。僕が弱虫だから・・・」
「ううん、そんなことないよ」
私は首を横に振ったけど、カーマイケルは悲しそうに俯いた。
そう、ハチの王との戦いの後、プリンセスの魔法のステッキが壊れてしまい、私は元の姿に戻れなくなっていた。


その頃、蜂たちはスーフとアーミーを牢に入れ、ミルとプリンセスはそれぞれ別の隣り合った特別な魔法の使えない部屋に入れられた。
若い妖精や、プリンセスの魔法の力はとても強いから、特別な対策がいるのだ。
魔法に対抗できるのはハチの王が持っている毒針だけだ。
この毒針の毒が体に触れると妖精たちは痺れて、魔法が使えなくなる。
はあ、とスーフはため息をついた。
リーダーであるアーミー、プリンセス、ミルも捕まってしまったし、
あとはティンセルからの援助を待つしかない。
だが、残った味方は?
ティンセル、カーマイケル、ミカ、人間のほのか。
勝ち目がないと考える方が自然。
頼む、来ないでくれ。俺たちだけでなんとかするから。


そんなスーフの思いは露知らず、ティンセルはハチの巣へと向かっていた。
魔法の腕輪であっというまに門番を倒すと、侵入した。
「ハチの王、覚悟!」
その時、示し合わせていたようにミルが特別な部屋の天井を突き破った。
ミルの頭は石頭なのだ。
「ティンセル、待ってぇ〜!」
ティンセルに続いてミカも飛び出してきた。
そのまま、ティンセル、ミル、ミカはハチの兵士たちを次々と薙ぎ倒した。
そして、ミルの案内で特別な部屋に入り、プリンセスの救出に成功した。
「ね、スーフとアーミーは?」
「わかんない。てぃ、ティンセル、後ろ!」
「うわわ!ハチの王だわ!逃げましょう!」
騒動が起きているのをスーフはじっと聞いていた。
アーミーがコソコソと話しかけてくる。
「な、スーフ。俺、リーダーやめようと思うんだけど、どう思う?」
「アーミーは最高のリーダーだよ。いなくなってティンセルが跡を継いだとしたら副リーダーはどうするの?大体、リーダーをやめたらどうするつもり?」
「妖精を受け入れてくれる探偵所があるらしいから、そこに行こうかな。
新たらしいことを始めてみたいんだ。次の妖精が生まれたら、ってずっと思ってたんだよ」
「それは、牢屋で話すことじゃないよ。それより、逃げないと」
「大丈夫。ティンセルたちは強いから。すぐに助けに来てくれるさ」
バカだな、とスーフは思った。
そんな考え方だから、すぐにハチに捕まるんだ。
ティンセルもそうだ。
行動すれば全てうまくいくってわけじゃない。
頼むから、もう捕まるなよ。


ティンセルたちはスーフとアーミーを助けられなかったものの、
プリンセスを助けられたので意気揚々と帰ってきた。
だが、そこにいたのはほのかだけだった。
「あれ、カーマイケルは?」
ミカの問いに私はびっくりして答えた。
「え?一緒じゃないの⁉︎自分もみんなの役に立ちたいからって追いかけたはずなんだけど・・・」
「「「「えっ!」」」」
「スーフとアーミーは?二人はまだ捕まったまだなの?カーマイケルもそこかも。今度は私も一緒に行くよ!」
私がティンセルに詰め寄ると、ティンセルは突然苦しみだした。
「っ。ううっ」
「ティンセル?大丈夫⁉︎」
「まって、ミカ。この反応は・・・」
私たちはプリンセスの言葉を待った。
「スーフかアーミー、カーマイケルのだれかがティンセルにテレパシーを送ってるのよ」
「どうやって?」
「鱗粉にはテレパシー効果があること、忘れたの?ミカ」
「あ!」
テレパシー⁉︎
妖精ってそんなものまで使えるの⁉︎すごい!
って、今はそんな場合じゃなくて。
「ティンセル?」
「アーミーが、『カーマイケルも捕まった』って。で、スーフが・・・」
「スーフが?」
ミカが先を促した。
「『来ないでくれ』って」
「「「えっ⁉︎」」」
「来ないでって、そんなのおかしいよ!だって、一生ハチの巣だよ!」
私は聞こえるはずないけど、大声で言った。
スーフに聞こえるように。
「スーフ、どうしちゃったのかしら・・・」
「ミカ、私にもわからないけど、なにか、考えがあるはず。スーフとテレパシーをもう一度取れない?ティンセル」
「・・・また、メッセージがきました。『もう連絡するな、バカ妖精』」
「「「・・・」」」
「私が、ずっと鱗粉を消耗するから、怒っているのかもしれない。
魔法を使うのにも、鱗粉が必要だから」
「私がなんとかして、連絡を取れないかやってみます。それから」
プリンセスが急に言葉を強くしたので、私たちはプリンセスを見た。
「引越しましょう。ここは、危険です」
「じゃあ、もう会えなくなるの⁉︎」
私はびっくりして、叫んだ。
「いいえ、会えます。それに、あなたはまだ元の体に戻れない。
申し訳ないですけれど」
「いいえ、かまいません」
確かに、今のままじゃ、ハチに怯えながらビクビクして暮らすだけだ。
その状況を抜け出したいのはよくわかる。
私もハチの恐ろしさは身に沁みてわかっているつもりだから。
「あ、ふぁ、おはよう、カーマイケル、アーミー」
「なにいってるの、ミル。カーマイケルとアーミーはハチに捕まっていて」
そこで、ティンセルは言葉を切った。
私もティンセルにつられて振り返ると。弱々しく笑うアーミーとカーマイケルが立っていた。
「アーミー!カーマイケル!スーフは?」
「スーフは今、追手をまいてくれてるんだ。プリンセスは?」
「奥よ。もうしばらく来ないと思う。知らせましょうか?」
「いいや、いいよ。疲れたから寝たいし」
よかったぁ。
ほっと胸を撫で下ろした私に、カーマイケルが声をかけた。
「ほのちゃん、ごめんね。心配かけて。そうだ!お詫びに、いいもの見せてあげる」
「いいもの?」
私はティンセルを見た。
「いっていいわよ。カーマイケルなら大丈夫だと思うわ」
それは、たぶんカーマイケルの素敵なものはくだらない、という意味を含んでいるんだろうけど、とりあえず私はついていくことにした。
「で、いいものってなんなの?」
「え?俺の変身シーンだよ。滅多に見れねぇぜ」
「どういうこと⁉︎」
私がびっくりして前を飛ぶカーマイケルをみると、カーマイケルはいきなり、頬を引っ張っていた。
そのまま、カーマイケルの顔がビリビリと破れていき、
下から現れたのは・・・ハチの兵士の顔だった。
「だr、グムグムモゴモゴ」
私は、あっという間に口を布で塞がれてハチの巣へと連れて行かれた。

その頃、アーミーはポツンと切り出した。
「ごめんよ。罠にかけて。カーマイケルはホントのカーマイケルじゃなかった。ハチの兵士の変装だった。でも、そうしないと、そうしないと・・・」
「「「「えっ!」」」」
「プリンセスでありながら、気がつけなかったなんて」
「だから、プリンセスに会わなかったのね・・・バレるから・・・」
「アーミー。気にしないで。あなたはリーダーだもの。妖精全員を考えないといけない。それって、すごく大変だもの」
「じゃあ、ほのかは?」
そこで、みんなは忘れていた人間の女の子を思い出した。
「今頃ハチの巣だろうね。僕らもすぐ行くことになるよ」
アーミーのしょんぼりした声に、みんなも思わず俯いた。
「なんだか、外が騒がしいわ」
ティンセルがポツンと言った。
みんなは覚悟した顔で外に出た。

そこには、ほのかを連れたハチの兵士たちが笑いながら立っていた。


次回予告
妖精たちはどうなってしまうのか?
妖精の国はハチの手に⁉︎
ほのかは元の姿に戻ることができるのか?
(戻れば1万人力)
「ようせいのくに大ピンチ」に続く!
みんなの運命の行方をお見逃しなく!


あとがき(ちょこっと)


こちら、小学2年生の時の次回予告をそのまま使いました。
なんか、ちょっと恥ずかしい。
もちろん、アレンジしましたけどね。
運命の行方ってなんか変じゃないですか?
まあ、あえて変えずに残しときますけど(>_<)

シリーズの続編は、「ようせいのくに大ピンチ」です。
でも、たぶん次の記事は「おともだち」になると思います。
夏休みの話ですね。
もう終わりですけど。
もう9月ですけど。まあ、そんなこと言わずに読んでください。
書く方も大変なんです。

だから、写すだけでも、アレンジしたりするから結構時間かかるんです。
別に、みたさんのタイピングが遅いわけではありません!
自慢じゃないですが、寿司打で1秒間に6.9回です。

あと、「あたらしいようせい」イラスト編も出します。
今度は完全にモノクロバージョン。
もおう、色塗るのがめんどくさいので。

それでは、また次の記事でお会いしましょう!

おつがさ!

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みった/
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