だつぼっちふぁんくらぶ1〜あつまれぼっち〜
学食の椅子に座るのが怖くて、裏庭で弁当を食べることにした。
僕は、ぼっちだ。
これといった友達もなければ、ツルむ相手もいない。
前のグループは決裂してしまった。
僕はそういうことをウジウジと引っ張ってしまうタイプなので、
すぐに新しいグループへ、というわけには行かないのだ。
どうしよう・・・
ぼっちは、標的だ。
僕は辺りを見回して、一人の男子と目が合った。
男子が二カっと笑う。
背筋がゾクっとして、僕は逃げるように裏庭を後にした。
「君、ぼっちだよね?」
突然かけられた声に僕は動揺したのを隠して応答する。
裏庭でニカっと笑った男子生徒だ。
「え?なんのことですか?」
「裏庭で、食べてたよね、弁当」
「あ〜そうですけど、なにか?ってか、あなたもぼっちじゃないんですか?」
「へへ。君、鋭いねぇ〜心療内科の息子だもんねぇ」
ゴクリと息を呑んだ。
僕の父は心療内科の医者だ。
人間の心理のことはパズルがわりに教わってきた。
たとえば、人は隠し事をするときに癖があるから、それを見抜くコツとか。
そういうのって世間では気持ち悪いって言われるから隠していたのに。
なんで、こいつは!
「で、なんの用なんですか?」
「ふふん。脱ボッチファンクラブに入らない?」
「だ、ダツボッチファンクラブ⁉︎」
「そそ。こっちこっちぃ」
僕は手を引かれてあっという間に一つの教室に連れて行かれた。
『だつぼっちふぁんくらぶ』という看板が目に入った。
これも、部活の一種だろうか、と思ったが、あるわけないと被りを振った。
こんなファンクラブ、誰も入らないだろう。
よりよって、なんで全部ひらがな。ここは有名私立高校なのに。
まあ、私も漢字の読み書きは苦手なのだけど。
「うわあ、大変だったね。僕もそういうことあるよ。だって・・・」
いきなり大声が聞こえてきた。
「そうなんですよ!」
「君は正しいと思うよ」
「あ、ありがとうございます!自信が持てました!」
「よかったら、脱ボッチファンクラブ入らない?うん、署名し」
その時、私の隣からにゅっと手が伸びてドアを開けた。
「やめろよ、こころ。廊下まで丸聞こえじゃん。ハズいって」
「ええ?どこが?俺はハズくないよ〜」
「・・・この天然ボケ野郎」
「えっ⁉︎」
私は恐る恐る部屋の中を覗き込んだ。
部屋にいたのは、一人だけだった。
「ふ、二人いましたよね!もしかして、食べたんですか‼︎」
「「なんでそうなるの⁉︎」」
「いや、違うよ〜俺が一人二役してたのぉ」
「そ、そうなんですか!二人いると思いました!」
「でっしょ?てか、じゃないとただの変態野郎だし」
「自覚あるじゃん」
隣の人がボソッと呟くが、こころと呼ばれた人は微塵も気にしていない。
私は思わず笑ってしまった。
「え?なんか、俺おかしい?」
「いや、ツッコミどころしかないだろ」
「あの、私もだつぼっちふぁんくらぶ入らせてください!」
昔から、周りに合わせるのが得意だった。
こうやれば、この人は喜ぶだろうな、みたいな。
ひねれくれているのとはちょっと違うのだけど、
優等生の自分をどうしても作ってしまう。
殻の中の自分はもっと違うのに。
こうしないと、友達が離れていくから。
そして、周りにはできないことがよくできた。
でも、褒められても、何も考えずに遊ぶこと。
ただ、それだけが私の望んでいたことだったのだ。
だから、『さくらも、そう思うよね?』と言われるとうん、と答えてしまう。
でも、私の親友は違った。
悪口に同調を求められたとしても『え?そうかな〜』などと軽く流して見せる。
そんな親友に私はずっと憧れていた。
私の話を聞き終わった二人は、うんうんと頷いた。
「そっか〜さくちゃん、大変だったね〜そうゆーの逆らえないもんね。
俺っちもわかるわ〜」
「いや、なんでさくちゃんなんだよ。気軽に呼ぶな。
てかさ、要するに、姫咲さくらさんは、変わりたいって思ってるってことでしょ。じゃあ、変わればいいんじゃない?」
「え、どうやって?」
軽い方のこころという男子に冷静なツッコミを入れてからもう一人の男子は私に言った。
確かに、ずっと変わりたいと思っていたのかもしれない。
優等生と言われることに嫌気がさしていたのかもしれない。
辻村深月さんの『闇祓』みたいに。
「そりゃさ、だつぼっちふぁんくらぶに入るしかないでしょ!」
「おい、こころ!」
「入ったらなんとかなりますかね。っていうか、もう入ってるんですけど」
「あ、ほんとだ。忘れてた〜」
こころさんはすごい天然ボケ男子だ。
でも、悪くはないと思う。
そのふんわりとした感じがだつぼっちふぁんくらぶをよりよくしてくれる。
「じゃじゃ、自己紹介しよぅね!さくちゃんはもうやったけど、改めて。
俺っちは川矢見こころ。で、こっちが・・・あれ、なんだっけ?」
「まだ自己紹介してないだろ。奥田だよ」
「私は、さっきも言いましたが、姫咲さくらです。よろしくお願いします!
あと、奥田さんはなんか疎外感があるので、ヨウスルニさんと呼んでもいいですか?」
「はい?つか、疎外感って何?どっからそんな言葉出てくんの?」
ひょえええ?
私は思いがけず、へんてこりんな答えをされて、戸惑ってしまった。
「だいたい、なんでヨウスルニさんなの?長くない?
別に、苗字でいいと思うよ、奥田さんじゃダメなの?」
「ええじゃん、ヨウスルニ。さっきも言っとったし。疎外感は知らんけど、さくちゃんの言ってることはわかるで。『田』ってなんかそっけないんよね。
棒だけでできとるからかな」
「だから、なんでさくちゃんになんの?」
と、突っ込んだヨウスルニさんははたと気がついたようだった。
私は勢いのまま戸口を振り向いて、思わず口をぽかんと開けてしまった。
そこにいたのは、親友の白小鞠誰亜萌だった。
「うちも脱ボッチファンクラブ入ろうか?申請人数足らんやろ」
うちはポカンと口を開けて言る親友・姫咲さくらの奥にいる、
リーダーらしき人に言った。
うちはたまたま通りかかった教室からたくさんの人の話し声が聞こえてきたので、気になって覗いてみたのだった。
『だつぼっちふぁんくらぶ』という看板のせいでもある。「
「もちろん!大歓迎だよ!ね、ようちゃん」
「いや、なんでようちゃんなんだよ。別にいいけど」
「ヨウスルニだったらながいじゃ〜ん」
「しらちゃん、なんでここに?」
「さくちゃんこそ。な、ようちゃん。ようちゃんっちって心療内科やんな」
うちはとなりのツッコミが上手い人に尋ねる。
確か、この町には奥田心療内科があったはずだった。
「まあ、そうだけど」
「ようちゃん、そんこと気にしてるらしいんだ」
「へえ」とうちは頷いた。
フォローしているこころの言葉にようちゃんは傷ついた顔をしているが。
「あ、ちょっとトイレ行ってきていいかな。漏れそう」
ドタバタと立ち上がるこころにうちらは呆れた目を向ける。
こんな人がリーダーで大丈夫なんやろか。
しばらくして、こころは戻ってきた。
「客見つけてきた!」
「え?もう?つか、なんで客なの?」
「ここが、だつぼっちふぁんくらぶですか?」
物陰から頼りなさげな声が聞こえた。
「あの、えっと結構噂になってるんですけど、ほら、『だつぼっち』なんで。
学食で、隣で食べてもらえませんか?」
そーっと、扉の影から現れたのは小柄な少年だった。
ふんふんとこころは頷きながら言った。
「オッケー。隣で食べるだけでいいんだね」
「はい。申し訳ないですけど、変な方と親しいとは思われたくないので」
全然申し訳ないとは思っていない口調にようちゃんは面食らった顔をするが、こころは全く気にしていない模様で「いいよ〜」と気楽に頷いた。
「じゃあ、明日から、お願いします」
「オッケー。じゃあ、契約書を書いてもらっt……」
そこで、こころは大事なことを気がついたようで、はたと顔を挙げた。
「ああ!先生に申請書出すの忘れてたー!」
「いや、さっき出しとけよ」
「だって〜」
トイレと職員室は遠いんだもーん!とこころは子供のようにベソをかいた。
「もう、いっそのこと出さんくていいんやない?幻の部活ってことでさ。
そもそもふぁんくらぶって部活ちゃうし。どっちかつーと愛好会やろ」
「愛好会でも申請書は出さないといけないですよ、しらちゃん」
案を挙げた白小鞠たあもにその親友である姫咲さくらがぴしりと言った。
「僕はイヤーな予感がするから、部活申請したほうがいいと思うよ」
たあもに追い打ちをかけたのは奥田あらため、ようちゃんである。
ようちゃんは放っておくとふぁんくらぶがなんでも屋になってしまうかもしれない、と本気で思い始めていた。
そんなことは露知らず、部長であるこころは
「ま、いっか〜明日出しとくよ」
「いや、今日だしなよ!」
早速ようちゃんに突っ込まれた。
「なんか、ようちゃん先輩って全然ようちゃんっていう名前があってないですよね」
そのようちゃんは依頼人にあだ名について冷静なツッコミをもらう。
「いや、これには深いわけが・・・」
「てか、依頼人。あんたの名前は?うちは白小鞠やで。
こっちはさっきも言ったけどこころと奥田ようちゃんで姫咲さくら」
「僕は可若子秦です。はたと呼んでください。
2年生です」
「ほえ〜じゃ、俺より年下か〜」
こころたちが通っている学校は中東一貫校で6年まであった。
「え?こころ、何歳なの?僕、4年だけど」
「ん?5年だよ。さすがに6年だと勉強も忙しいし、
こんな変な部活立ち上げる気にはならないって〜」
こころもだつぼっちふぁんくらぶに関しては多少なりの偏見はあるようで、ようちゃんの疑いの目線をさらりと流してみせた。
「うちとさくちゃんは3年やで」
「あと、2、3人は部員欲しいですね!全学年コンプリートさせちゃいましょう!」
「なんか人をジグソーパズルのワンピースみたいに考えてない?」
「と、に、か、く!当番決めようね!一週間ぐらいでいい?」
「はい。そのころには新しいグループに入ってますので」
ようちゃんはこれを自分への当てつけに感たのか、深刻な顔をした。
自分よりも年下の子がすぐにグループを移れるのにびっくりした表情だ。
「それでは、おじゃましました」
「は〜い!」
とはたを見送ってから、こころは真剣な表情になった。
「じゃあ、当番決めね!」
本当に最年長かと疑いたくなるぐらい。こころは鼻歌混じりにポケットからメモ帳を出すと、シャーペンで月火水木と枠を描き始めた。
さながら、小学生の係決めである。
こころ以外の3人は呆れてしまった。
次の日、こころは張り切って食堂へと駆けて行った。
はたが待っているはずなのだ。
「あ、カワカシくーん!」
空気を1ミリも読まないこころの発言に周りが驚いて振り向く。
当の可若子秦は顔を顰めると、自分の隣の席においている荷物をどけた。
「静かにしてください。あと、もういただいてますから」
「え、そうnモゴモゴモゴ」
はたはまたしても童顔をしかめると、弁当の蓋を開けた。
ようやく、お口チャックから解放されたこころはふーっと息をついて、
弁当を取り出す。
「ごちそうさまでした」
はたはこころを追いて食べ終わると、どうだ、と自慢げな顔をして見せた。
塾の経験のおかげで弁当を早く食べるのは朝飯前なのだ。
「っ」
「へへーん。練習してきたんだ」
なにを⁉︎と思わず突っ込みたくなるその言葉にはたは息を呑んだ。
こころは余裕の顔でピースして見せた。
自信のあるはたの弁当早食いに着いて来れるものはいなかったのだ!
「おい、くだらねぇな。こころ、早く行くぜ。予鈴がなる」
「おっけー、ようちゃん!」
はたはポカンとして食堂を出ていくこころとようちゃんを見ていた。
食堂は嵐の後のように静かだった。
「は、はえぇ」
はたの感服した声が静かに響いた。
「よ、よろしくお願いします!」
「今日はうちもついてきた〜おまけでな」
「一人でよかったんですけど」
次の日の当番はさくらだったが、たあもも同席することにしたのだった。
こころに早食い大会だと言われて意気込んできたのだ。
実際、弁当を食べるだけなのだが。
「よーい、スタート!」
いきなり自分で掛け声をするとたあもは弁当を食べ始めた。
「あ、ずるいですよ!」
それに釣られて元々食いしん坊のさくら、早食い名人のはたも食べ始める。
その日も無事に終わった。
ちなみに、弁当早食い大会で優勝したのはたあもであった。
「は、はた?何してんの?俺らと食べねぇ?最来ねぇじゃん」
声がして、はたは顔を上げた。
友人の上谷連と牧田昴が最近一緒に弁当を食べないはたを心配して声をかけたらしかった。
はたは隣に座る奇妙な組み合わせを見た。
大人しげでいて、実はとてもツッコミが上手い奥田のようちゃん、
最近謎の『だつぼっちふぁんくらぶ』をつくった天然ボケ男子こころ。
そして、真面目優等生系男子、はた。
改めて見るとなんとも奇妙な光景だ。
学年も成績もまるで違うというのに。
「あぁ、わりぃ。最近、母さんが風邪ひいててさ、コンビニ弁当なんだ。
だからおかず分けれn」
「そんなこと、気にすんなよ、次から一緒に食べよーぜ」
「ありがと」
はたが嘘をついてみせると、連は少し寂しげな顔をして笑った。
昴は「おっけー」と軽く返事をして見せる。
どうやら、はたの嘘は連にしか見破られなかったらしい。
さすが、幼馴染。
つぶやいてから、はたは早食いに集中した。
そして、約束の1週間が過ぎた。
「ありがとうございました。今日は部屋までご一緒させていただきます」
「オッケー!ね、はたは入らないの?部活とか。
文化系入ってんの?囲碁将棋とか?入ってないなら、うちに入らない?」
「こころ、勧誘しすぎ」
「そうですよ、はたさん、引いてますよ」
こころの熱烈な勧誘に冷静なツッコミが二つ入る。
「で、早くしてくんない?うちこの後用事あるから。生徒会代表」
その後のたあもの言葉に一同は凍りついた。
「へえ。気づいてたんだ、白小鞠さん」
「気づくわ」
不機嫌な顔でたあもは返す。
「じゃ、ここで言っちゃうね。僕は生徒会からこの部活について調べるように送られたいわゆる情報調査員だよ。生徒会はめざとくてね。
で、テストしたんだけどさ」
「そっか!だから、ぼっちのはずなのに色んな人に声かけられてたのか!」
「ま、そうだね。で、テストの結果、合格だよ。
おめでとう、だつぼっちふぁんくらぶは生徒会に承認された」
そこで、はたは眉を上げた。
「で、部活立ち上げ申請書はいつ出してくれるのかな?こころ」
「「「えええっ⁉︎」」」
「あ、忘れてた〜」
「「「こころ!」」」
「えへへ」
校舎にこころの呑気な声が響いた。
あとがき
だつぼっちふぁんくらぶは全四巻になる予定です。
みたさんがちょっと前に読んだ『ようこそ、古城ホテルへ』から影響を受けています。
この本を書いているのは紅玉いづきさんで、他にも『大正箱娘』などがあります。
どの本もおもしろいので読んでみてください!
で、まあ、これはぼっちの話なのですが、なんで思いついたのかというと、
ニュースで学食特集みたいなのをしていて、ぼっち席っていうのが新たに加えられたとか。
それを見ながらふと思いついたのが、このだつぼっちふぁんくらぶです。
『ようこそ、古城ホテルへ』と同じで一巻で全員が揃います。
(メンバーは増えるかもしれません)
第二巻ではそのうち、さくらとたあもを掘り下げていこうかな、と思っています。
変更するかもしれないですけど。
それでは、おつ玉〜
‼︎次回予告『メンバーと対談2』‼︎
(あくまでも予定ですが)
お楽しみに!