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【小説】あらすじと感想 まとめ 24/11/18更新

読んだ本のあらすじと感想をそれぞれ1ツイートぐらいにまとめました。
忘れないように、あと暇なとき読み返したい本を探せるように。
随時追加していきます。

小説以外の本、映画版はこちら。


朝井リョウ / 正欲

 3人の男が、児童ポルノで逮捕された。それぞれ有名企業の会社員、イケメン大学生、小学校の非常勤講師。公園で遊ぶ子どもたちに水鉄砲などの遊具を渡して一緒に遊び、身体を拭くふりをして接触したり、その様子を撮影したり……。彼らの中でそれは「パーティ」と称されていた。
年齢も職業もバラバラな彼らが、どうやってパーティの開催に至ったのか。
 近年よく耳にする「多様性」を再考させられる長編。

 文庫のあらすじ読んでほしい。あの文章じゃなかったら、私はこれを読んでいなかった。そして確かに、読む前の自分には戻れない。自分にとっての多様性は、せいぜい自分の想像できる範囲にしか適用できないのだ。頭では分かっていることだけれども、その具体的な事例を体感させられた。


伊坂幸太郎 / フィッシュストーリー

「動物園のエンジン」「サクリファイス」「フィッシュストーリー」「ポテチ」を収録した短編集。『ホラ話』という意味を持ち、ある有名作家の小説の題であり、パンク系バンドが最後のアルバムに収録した『1分間の無音を含む』曲のタイトルでもある"fish story"。これらが巡り巡って人々の運命を変えることになる。

 映画「ポテチ」だけ観た状態で読んだ。どれも終わり方が好き。それと、短編集だと思って油断してはいけない。作品間でリンクしている。この作品内で完結しているものもあればそうでないものもあるらしい。『この人別の作品に出てそうだな……』と思う部分があった。
 収録作品「フィッシュストーリー」は、バタフライエフェクト(最近覚えた)を想起させるもので、読んでいて自分の存在を肯定されているような気分になった。適当書いているこの記事も、読んだ誰かが実際に本や映画に触れてくれたらとても嬉しい。


梶井基次郎 / 檸檬

病によってすっかり落魄れてしまった『私』は、京都ではないどこかを見い出そうと寂れた京の道を歩き始めた。代わり映えのない一日が、偶然出会った檸檬によって少しだけ鮮やかになる。

10ページもない、短い作品。こういう日って現代人にもあると思う。本当に何でもないことなんだけど、それが自分の心の核に触れた気がして一応スマホにメモしたりツイートしたりすることが時々ある。試しに今までメモしたものを読み返してみた。すっかり忘れていたけど、私は結構面白い日々を送っていたらしい。


坂木司 / 先生と僕

伊藤二葉、十八歳。人が殺される小説は怖くて読めません。
とことん押しに弱い僕・二葉が、ミステリ好きな家庭教師の生徒・瀬川隼人に連れられて日常の小さな事件を解決していく物語。

 小説やミステリへの入門としてピッタリな一作。そもそも坂木司さんの小説は非常に読みやすい。口語的な表現が多く、登場人物の心情描写も直接的なものが中心となっている。そしてこの作品では、生徒側の瀬川隼人が二葉に実在するミステリ小説を勧める場面がいくつかある。ここで引用される小説はあとがきでリスト化されている上、それぞれ本作と共通した要素を持つ。引用された小説を読むことでこの作品を二度楽しめるし、ミステリに触れるいい機会になるだろう。


背筋 / 口に関するアンケート

文庫よりも一回り小さな手のひらサイズ、63ページ。 本当にさらりと読めてしまう長さだから、あらすじに関する情報は入れない方がいいだろう。
『ホラー・ショートショート』とだけ書けば充分だ。

 背筋さんは2023年「近畿地方のある場所について」でデビュー。これが二作目となる。 有隣堂で『文芸部門1位』とPOPがついていて、カバンにも余裕で入りそうだったので購入した。
 短時間で質のいいホラーが楽しめる。この長さで結構ゾクッとしたから、デビュー作はちょっと恐ろしくて読めない。それとこれ、小説の記事に入れていいものか少し迷った。


新美南吉 / ごんぎつね でんでんむしのかなしみ 新美南吉 傑作選

「ごんぎつね」や「手袋を買いに」で有名な作家・新美南吉の傑作選。この2作品に加え、童話「でんでんむしのかなしみ」、母の死をうたった詩「春風」など17作が収録されている。

 タイトルにもあった「でんでんむしのかなしみ」は私を含め色んな人に刺さる詩だと思う。でも、かなしみを誰もが持っているということは主人公のでんでんむしが友達に相談しなければ分からなかったことだ。一人で絶望するもんじゃないな、と身に沁みた。
 傑作選というだけあってどれも面白い。人によってお気に入りの作品もばらけるだろう。私がほかに印象深かったのは「おじいさんのランプ」「花を埋める」あたり。17作品で200ページくらいなのでさらりと読める。


道尾秀介 / 向日葵の咲かない夏

 僕は不登校のS君へ夏休みの宿題を届けに行っていた。「S君、いますか──」S君の家に人の気配は全く無い。彼の飼い犬ダイキチが異様に吠える声と、僕が苦手な油蝉の濁った鳴き声が響く。しかし、僕は気付いてしまった。かすかに鳴っている「きい、きい──」という音に。
 S君は首を吊って死んでいた。しかし、彼の死体は消え、僕の前に姿を変えて現れた。「僕は殺されたんだ」
 僕は妹のミカ、そしてS君と共に真相を探っていく。

好きなタイプのサイコミステリ?サスペンス?だった。誰か、何かが狂っている。ありふれた日常のようでどこかがおかしい。そして真相を知った状態でもう一度読みたい、そう感じさせる作品だった。若干ホラーも含まれているが、耐性が無くても読めると思う。


湊かなえ / カケラ

女の子が大量のドーナツに囲まれて自殺したらしい──。
ある日、橘久乃(タチバナヒサノ)の勤務するビューティークリニックに一人の同級生が訪れる。痩せたい、と話す彼女はその原因に『横網さん』を挙げた。「娘さんが自殺してひどく塞ぎ込んでいるらしいの。子供のころ横網さんの体重を揶揄った私達を、今になって恨んでいるのかも」
横網さんの娘が謎の死を遂げたと知り、橘はその真相を探り始める。

 とても湊かなえらしいミステリだった。
 小説の大部分は、橘久乃が聞いた言葉で占められている。こういうインタビュー形式で進む物語って、本当に主観の食い違いが分かりやすい。たくさんの人が語る真実で事実がどんどん見えなくなっていく。大好き。
 橘久乃は、ある意味わたしたちと同じ一人の読者だと言える。イヤミスに分類されるであろうこの何とも言えない読後感は、この思い込みからきているのではないだろうか。そして私たちに、この物語の感想を強要する。


湊かなえ / リバース

深瀬和久は珈琲が趣味の会社員。行きつけの珈琲店では恋人もできた。しかしある日突然、その恋人に『深瀬和久は人殺しだ』という告発文が届く。あのことを話す時が来てしまったのだろうか……。問い詰める彼女と二人分の珈琲を前に、深瀬は重い口を開く。

みたいな感じで始まるミステリ。三人称だけど、ずっと主人公(深瀬)の視点で物語が進む。これが結構新鮮だった(湊かなえらしさって、複数人の視点から一つの事実を見ていくような構成だと思っていたので)。 めちゃ面白かった~、伏線の張り方が本当に巧妙で、何とか勘づいたとしてもそれを裏切ってくる。


本岡類 / ごんぎつねの夢

中学校のクラス会に、狐面を付けた男が銃を持って乱入してきた。男はすぐに射殺されたが、その正体はクラス会を欠席した担任・長門文彦だと判明する。長門は射殺される前、教え子の一人である有馬直人にメモを渡していた。「埋もれている『ごんぎつねの夢』を広めてくれ──」そう書かれているが、有馬には何の心当たりもない。なぜ長門はこんな事件を起こしたのか? 『ごんぎつねの夢』とは一体何なのか? あの有名な「ごんぎつね」をテーマにしたミステリ。

(これ書いたあと文庫本のあらすじ読んだら全然違って笑っちゃった。私のあらすじは「あらすじ」じゃなくて「冒頭を要約したもの」だ)
 予想以上に新美南吉要素が強かった。新美南吉の知識が無くても問題はない、でもある程度知っていればより楽しめる。ミステリとしても完成度は高いが、新美南吉(特に「ごんぎつね」)が登場人物にどう影響を与えていくのか、というところもこの作品の面白いところ。


J.D.Salinger (野崎孝 訳) /
ナイン・ストーリーズ

タイトル通り9つの短編が収録されている作品。一番有名なのは
「バナナフィッシュにうってつけの日」
・・・ミュリエルは、家族から変人扱いされている夫・シーモアと旅行に来た。しかし彼は彼女をホテルにほったらかし、近くの海岸で一人寝そべっていた。そこに駆け寄ってきた少女・シビル。少しの会話のあと、シーモアは少女にこう語りかけた。「きみはただ目を開けて、バナナフィッシュを見張ってれば、それでよろし」

 とても読むのに苦労したけど、理解したくてなぜか何度も読み返してしまう作品。読みにくいと感じる原因の一つは、ほぼ完全な三人称視点の小説であることだろう。つまり、登場人物の心の声がほとんど書かれていないのだ。なぜその行動に至ったのか、全然分からない。全く意識していなかったが、今まで読んできた小説には少なからず人物の心の声が記されていた(三人称一元視点が多かった)。私は読書をするとき、小説に頼りすぎていたのかもしれない。
 これが長編ならまだ読み終わっていなかったかもしれないが、短編なのでそこまでハードルは高くないのではないだろうか。おすすめ。


Stuart Turton (三角和代 訳) / イヴリン嬢は七回殺される

仮面舞踏会の夜、イヴリン嬢が殺される。真犯人を突き止めるまで、この一日は繰り返される。自分が誰か分からない? 当たり前だ。今お前の意識は事件関係者の中にあるのだから。ただし、ループするたび意識は別の人物へと転移する。真相に辿り着かない限り、イヴリン嬢は必ず殺される。

 タイムループ系の長編SFホラーミステリ。
 かなり複雑で読みごたえがある。ミステリとしても傑作だが、私が一番印象に残っているのはホラー要素。小説でジャンプスケアってできるんだ。読んでいて身体が実際にびくっと動いてしまったのは後にも先にもこの一冊だけではないかと思う。
 ……というのが初読(数年前)を思い出しながら書いた感想。数週間かけて再読を終えた訳だが、私はこの物語を全然覚えていなかった。真実を忘れ、張り巡らされた伏線に若干の違和感を覚えながらも素通りし、数年前と同じ衝撃を受けた。読者としての自分もループしている気分だった。記憶力がアレなことは置いといて、初読時にも感じた没入感はやはり私の読書経験の中で群を抜いている。何度でも読める。

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