黒い神様と黒頭巾ちゃん
黒頭巾ちゃんが聖句を聞いたときのお話をします。
そこは、盛り場のはずれの、古びていてなんだか薄汚れたような、そんなラブホテルのベッドの上でした。
そこで黒頭巾ちゃんは、黒い神様と、何度も何度も抱き合いました。飽きるまで抱き合たかったのですが、飽きることなんかなくて、黒頭巾ちゃんはいつまでも黒い神様にまとわりついていました。
しかし終わりがきて、死んだようにぐったりしている黒頭巾ちゃんの隣で、黒い神様はゆっくりと煙草をふかしながら言いました。
「黒頭巾ちゃん。これから1000人の男とセックスをしなさい。そのときに、けしてお金や物をもらってはいけない。そうすれば君は幸せになれる」
黒頭巾ちゃんの体の中を、その言葉は何回もぐるぐると回りました。
黒頭巾ちゃんは顔を横に振りました。
「黒い神様。わたしは幸せはいりません。だからどうか、もう一度わたしを抱いてください。わたしには黒い神様しかいないんです」
黒い神様はベッドサイドの灰皿に煙草の吸殻を放り捨てながら言いました。
「仕方ないな。それじゃあ俺は、たまに黒頭巾ちゃんの近くに来ることにしよう。俺はいつも違う姿をしているけれど、きっと黒頭巾ちゃんはすぐに俺に気がつくはずだ」
そう言いながら、黒い神様は黒頭巾ちゃんの髪の毛をゆっくりと撫でてくれました。
黒頭巾ちゃんは、だから時々、黒い神様と会うことができます。
黒い神様は遠くにいたり、近くにいたり、花屋さんにいたり、宅配便を持ってきてくれたり、タクシーを運転していたり、一緒の電車に乗り合わせたりします。
黒頭巾ちゃんは黒い神様が現れると合図をします。すると、黒い神様はすぐに気がついてくれて、黒頭巾ちゃんの求めに応じてくれるのです。
黒頭巾ちゃんは黒い神様ともう何度抱き合ったことでしょう。もう数えきれないほど、黒頭巾ちゃんは黒い神様に抱いてもらいました。
黒頭巾ちゃんは幸せなんかいりません。でも、黒い神様は、約束を守ったら幸せにしてくれるというのです。
黒い神様のくれる幸せというのは、どういうものなのでしょう。黒頭巾ちゃんはそれが知りたいので、言われた通りがんばっています。残念ながらまだ1000人には届きません。
このままでは年を取り、黒頭巾ちゃんを抱いてくれる男性はきっといなくなってしまうでしょう。いつか、黒い神様との約束が果たせる日は来るのでしょうか。黒頭巾ちゃんは自信がありません。
しかし、聖なる言葉は、絶対なのです。