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Royal Navyは奥が深い #2 甲板について


4.甲板

 艦の装備について英文の記事を追っていくと、「副砲はshelter deckとquarter deckに設置された」といった文に出会うことがあります。日本語に訳した時に場合によって表現が異なることがあるので調べてみました。商船と軍艦では呼び方が異なることがあるようです。ここでは第二次世界大戦時に活躍した戦艦を例に説明していることをお断りします。

4-1 クォーターデッキ

甲板の名称 1

 艦の全長にわたる甲板で一番上の物を上甲板(Upper deck)と言います。この上甲板はさらに3つに分けられます。
まず、艦首から艦尾まで段差のない場合は、前檣(前部マスト)あるいは艦橋までを前甲板 (Forecastle)、前檣から後檣まで、あるいは中央構造物のある部分の主に両サイドの甲板を中部甲板 (Waist deck または単に waist)、艦尾部分を後甲板(Quarter deck)と呼びます。
 図の上段のイラストのように、艦首から艦尾まで段差のないタイプは、主にネルソンやキングジョージ五世のような戦艦に見られます。ネルソン級は、主砲塔を前部に固めたため極端にForecastleが長く、Quarter deckが短いのが特徴となっています。

甲板の名称 2

 艦首から中央構造物まで同じ高さの甲板が続き、艦尾部が一段下がっているため、後部隔壁のあるタイプは、図のように同じ高さの部分をUpper deckと言い、前檣までの艦首部がForecastle、その後ろがWaist deckとなり、一段下がった艦尾部がQuarter deckとなります。このタイプはフッドなどの巡洋戦艦に多く見られ、金剛型以降の日本海軍の戦艦はすべてこのタイプでした。
 このような上甲板の分け方は、TOP画像のようなガリオン船の前後にそれぞれ前楼、後楼と呼ばれる構造物があったので、それを覆っている甲板の呼び方を変えたことによると考えられます。
 それではなぜ後部を四分の一でもないのにクォーターデッキと呼ぶのかがよく分かりませんが、前回紋章の左上を第一クォーターあるいは単にクォーターといって、紋章の位置の中で一番「位」が高いと説明したことと関係があるのかもしれません。軍の司令部の事をhead quartersというように、船の中で司令官をはじめ高級士官がいる場所が後楼なので、そこをクォーターと呼んだとの説があるようです。
 帆船の頃は船の中でクォーターデッキが一番高い場所だったのですが、近代戦艦の時代には一番低い場所になってしまいました。

4-2 シェルターデッキ

甲板の名称 3

 艦橋や中央構造物が集まっている部分がUpper deckよりも一階層高くなりっていて、その上部が甲板で繋がっている場合は、その甲板を艦橋甲板(Shelter deck)と呼びます。図の下段のように艦橋の基部とは別の構造物となっている場合も同様に呼ぶそうなので、この場合は後ろ側を日本語の訳した時に艦橋甲板とするはおかしくなります。このためシェルターデッキとそのままカタカナで表記する場合が多くなっています。しかし、今のところ作成している戦艦たちは上段のタイプなので、ここの制作記の中では艦橋甲板という表現を使っています。

Hood 艦橋部

 このシェルターデッキ部分は、キットの色指定ではおおむねダークグレーで塗装するよう指示されていますが、デッキ表面は鉄のままなのでしょうか。いくつか英文のサイトを漁っていると「Corticene」とか「Cemtex」という表現が見受けられました。「Corticene」の説明文には" A kind of linoleum decking"と記載されていました。そうです、これはリノリウムの事です。linoleumのエルが小文字ということは、日本同様、英語でも「リノリウム」を商品名ではなく、コルクに樹脂を染み込ませた床材の一般名として使われていたのでしょう。Corticeneの色は茶系統であると記されています。
 一方、「Cemtex」は、樹脂ではなくセメントが混和された素材で、ザラザラした質感のため色が暗くなり、時間の経過とともに磨耗して汚れやすかったとのことです。色はグレイ系と考えられていますが、茶または緑色の可能性もあったようです。
 フッドを制作した際には、このことを知らないまま、シェルターデッキをダークグレイで、艦橋の各層の甲板を茶色(リノリウム色)で塗装しましたが、フッドについて詳しくまとめたサイト「H.M.S. Hood Association-Battle Cruiser Hood」によると、シェルターデッキ上でもCorticeneを使用した部分とCemtexを使用した部分があったそうです。

4-3 木甲板

日本産主要木材

 戦艦の木甲板で最も多く使用されたのはチーク材でした。チークはインドから東南アジア原産の樹木ですのでイギリス海軍は入手しやすかったのでしょう。写真は和歌山県岩出市にある「和歌山県植物公園 緑花センター」に展示されている日本産主要木材のサンプルです。全体を撮影したのでラベルが小さくなってしまってどの木材か判別はつきにくくなってしまっているのですが、木の種類によって色が異なることは分かります。このように使用する木材によって、甲板の色は異なるはずで、無塗装のチーク材は本来は明るい茶色です。
 ところが、日に当たったり、船員によってロープの切れ端でゴシゴシ擦られたりして、タンなどで表現されるかなり白っぽい色となっていました。
 開戦後は、艦によってまちまちだったようですが、甲板の色合いは目立たない様に鈍く暗くなっていました。甲板を塗装したケースもあったようですが、擦るのをやめて汚くなった可能性もあります。

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