この満月に手放すこと

私は両目に爆弾がある。

爆弾の名は正常眼圧緑内障と言う。

通常、緑内障は眼球内の圧力が高まり網膜や視神経を疲弊させていく。視野が欠けていき、最終的に失明に至る病だ。だが、これには現代の医学で治療法がきちんとある。

正常眼圧緑内障とは、眼球内の圧力は正常範囲内であるにも関わらず網膜や視神経が疲弊していくもの。原因は不明で治療法もない。現代の医学では治らない。

私は父がこの病であり、眼科医からも「視神経と網膜が通常より細く薄い。遺伝的なものもあるだろう」と言われたので、生まれつきこの病にかかりやすい目だったと思われる。

この病は時間をかけてゆっくり進行していくので、今日明日に起きたらいきなり失明していた、とかはない。事実、父は発症してから20年ほど経つが失明はしていない(視野は両目とも1/3程になったらしいが)

なので、私の目もいずれ失明するが医学の進歩が早いか、私の失明カウントダウンが早いかは分からない。私には間に合わなくてもこの病にかかった方がゆっくり失明していく恐怖を感じなくて良いように願ってやまない。

この病がわかったとき。私は恐怖で泣いた。失明カウントダウンが遅く、私が150歳くらいで失明するスピードで私の絶命が80歳くらいなら死ぬまで失明せずにいられるが、このスピードが逆だった時が怖いと思った。

失明カウントダウンスピードは誰にもわからない。当事者の私でさえも。

だから私は生き急いでいる。

私は、視覚に頼りきった表現をしているから。

色や形などの組み合わせが重要なハンドメイド、カードリーディング。視覚がないとできない。

失明する前に「やり尽くした、おなかいっぱい満足です」な状態まで何かを表現していきたいと思っている。やり尽くしたと思えばショップ「伝え人」は閉店する、失明していなくても。

だが、周囲の悪気ない一言に傷ついている自分もいる。

「セカンドオピニオンすれば？」←ありがとうございます、やってダメでした。というか治療法がないのにやる意味あるのか教えてください。

「今の医学の進歩は早いから何とかなるよ」←ありがとうございます、ですがその根拠はいずこでしょうか。

「手術して治った人知ってます」←ありがとうございます、ですが病の種類が違います。

「失明してもカードリーディングできますよ、盲牌麻雀みたく目印つけてみては？」←ありがとうございます、私のリーディング方法は直感読みで、カードイラストから脳に叩き込まれるメッセージを表現していますので難しいかと思われます。

「失明したらカードリーディングの講師になればいい」←ありがとうございます、上記と同じですが、私は直感読みリーダーなのでそもそも他人様に教えることができません。

半年に1回、視野の検査をしてただただ狭くなる視野を確認するだけの病院通いと、上記のような問答に心折れた2021年1月下旬。

私は久しぶりにものすごい不安と恐怖に襲われてしまい涙が止まらなくなった。

そんな中、ハンドメイドのパーツを買いに外出した時にまた泣いた。日差しが強かったからだ。日差しが強く視線を下にずらした時に、右目の左上の視野がポカッと消えていた。正確には黒くなっていた。どこまでも青く澄んだ空が私の右目の左上だけ真っ黒だった。

視野が欠けている。

まざまざとその事実を突きつけられて泣いたのだ。

私はまだ発症して3年、はっきり「正常眼圧緑内障」と診断がついてから2年。失明まではまだまだ遠い。

それでも不安と恐怖で泣いた。

同時に表現に関係ないことの一切が邪魔に思えた。

表現に直接関係なく思えることが、表現に華を添えることを経験的に知っているのに、だ。

ここで思考の偏りに気づいた。

この偏りを手放そう。偏りがあっては可愛い作品は作れないし良いリーディングもできないのだから。

今日は満月だという。

満月は手放す良いタイミングだとも。

だから手放そう。良い表現をやり尽くすために。

「手放すために何しようか」

カードの答えは「手放すのは難しい。というか手放すことじゃないだろう、それは。共存するものだ。お前の世界に緊張感をもたらし、その緊張感から得るものがまた お前に深みを与える」

「考えすぎて鬱にならないようにするには？」

カードからは「やりたいことやれ。チャレンジしまくれ。病から視点をずらす。今までやってきただろ？ あと疲れたら休め(笑) チャレンジと癒し、それを繰り返すだけだ」

「今日の満月、私に言っておきたいことは？」

カードからは「繰り返す、何度でも。繰り返す中で昇華し受け入れ飲み込んでやがて気づいたら手放している。時間がかかる、一足飛びの魔法はない。だから急ぐな」

生きている限りは生きていくしかないのだから。今日も生きます。

紅 蓮