見出し画像

オリンピックの大学生ボランティアに選ばれていた話

東京オリンピックが7月23日から開幕する。新型コロナの世界的パンデミックで一年延期しての開催だ。しかし、依然として収束の様子が見られないコロナと、大会関係者の相次ぐ不祥事、ワクチンが全国民に行き届いてない状態での開催に懸念を示す国民の声を一切無視する政府首脳と、日本の恥を現在進行形で晒し続けている状態となっている。

自分は仕事に行く途中渋谷駅で乗り換えをするが、五輪の影響か手荷物検査場や麻薬探知犬が爆誕していた。そして、五輪関係者らしき人々の姿も、駅や電車の中でちらほら見受けられた。特に電車内では、五輪ボランティアらしき女性たちが英語でどこの沿線使っているか話していた。

彼女らの姿を見ていると何とも複雑な気分になる。なぜなら、もし予定通り五輪が昨年行われていたら、私も大学生ボランティアとして参加する予定だったからだ。

ここでは、コロナによって参加を断念せざるを得なかった私が、どうやってオリンピックの大学生ボランティアになったのかを書き記していく。

1.はじまり

事の始まりは、2019年の9月ごろだったと思われる。経緯は忘れたが、ある日大学からとある案内の紙が来た。それが、東京五輪の大学生ボランティアの募集についてだった。当時大学三年生だった私は、一年前にカナダへ短期留学に行って以来英語の面白さに目覚め、TOEICをはじめ大学での留学生サポーターや留学生との行事の参加等、積極的に英語に触れるようになっていた。そんな時に舞い込んできたのがこの話だった。

ボランティアになるためには、まず事前にコンピューターで英語テストを受けた後、座学2回と実技1回の計3回行われるトレーニングに参加する必要がある。当然、座学も実技も全て英語で行われる。講師陣は、イタリア・中国などの非英語圏の出身者で構成されていたものの、英語で難なく意思疎通をしていたのが見ていて憧れた(講師陣はオリンピック委員会の方たちだったと思う)。

自分は正直英語テストに関しては自信があまり無かったが、後日正式にトレーニングの案内が来たため、都合のいい日にちを選択して研修を受けることとなった。

2. トレーニング(座学)

トレーニングの座学の一回目は、早稲田大学の法学部の大講堂で開催された。私は、「制作・技術業務の補助」いわゆるカメラアシスタント的な業務を志望した。これが英語力に関してはそこまで問われないため、大講堂いっぱいの人で溢れていた。日本人だけでなく、留学生も多くいてまさに人種のるつぼだった。

入り口のところ(?)で、トレーニングで使う教科書やプログラム特製の水筒を受け取る。座学のトレーニングに関しては、ボランティアになったらこういうことをやりますよーとか、前回の平昌五輪の時はこんな感じでしたみたいなビデオを見たりしたぐらいで、特に特筆すべきことは無かった。しいて言えば、二回目は一回目と違い、早稲田大学東伏見キャンパス(西東京市)で行われた(しかも予定よりも短く終わった)ため、来るのが大変だった。

3. トレーニング(実技)

二回の座学が終わると、いよいよ実技に移る。個人的には、これが一番ドキドキした。何をやるのかも想像つかなかったし、会場がまた早稲田大学東伏見キャンパスだったことも影響した。

参加者は日本人と留学生が半々ぐらい(若干日本人少なめ?)か。座学の時にステージで説明してくれた講師陣が、今度は自分たちの目の前で教えてくれるのだ。このような経験は今後ないだろう。

実技の内容は、オリンピック会場で使用するカメラ・マイク・ケーブル等の使い方と、会場でのアクシデントについてのディスカッションが主だった。説明はもちろん全て英語。これは良い機会だと思い、恥ずかしいながらも積極的に講師の人に英語で質問をした。ケーブルについては、八の字に巻いて片付けるのが中々骨の折れる作業だった。

実技トレーニングの集大成は、東伏見キャンパスの体育館内で部活動しているハンドボール部を前に、実際にカメラを使って撮影の練習をするというものだった。自分も、カメラマンの邪魔にならないようにカメアシさんのようにケーブルを捌いたり、体育館の二階に上がってインカムで講師の方の指示(これも当然英語)通りにカメラを動かしてハンドボール部員の姿を写した。

これらを一通りやって、全てのトレーニングが終了。お昼頃に始まって、終わったのは夜の7時だった気がする。最後は、参加者と講師の皆で仲良くセルフィーを撮ってお開きとなった。

3. 大学生ボランティアに

全てのトレーニングを終えた参加者には、トレーニング修了証が送られてきて、ボランティアになるための簡単なウェブテストを解かされた。テストと言っても、座学等で学んだことを書けば何の問題もなかった。

こうして、全ての行程を踏んだ私は、晴れて2020年東京オリンピックの大学生ボランティアに選ばれた。2020年は大学四年生で、就職活動の時期だったが、五輪期間中くらいは大丈夫だろうと思っていたし、一生に一度あるかないかの経験をさせてもらえるということでワクワクしていた。

4. コロナの流行、オリンピックの延期、そして……

ところが、予想だにしていないことが起こった。新型コロナの世界的流行である。

新型コロナは我々の日常をあっという間に変えていった。自分も就職活動を当時やっていたが、採用が中止になったり、面接がリモートになったりと、変化を余儀なくされた。大学も、講義自体はゼミだけだったが、学内でのクラブ活動が禁止されたりと、最後の一年でありながら満足な大学生活を送ることは出来なかった。

そんな中、2020年3月、政府は東京オリンピックの開催を一年間延期することを表明した。一年間の延期、それはつまり、自分の五輪ボランティアの参加が絶望的になったということを意味していた。

私が一年留年でもすれば可能性はまだあったかもしれないがそんなことは無く、また社会人として働きながら二足の草鞋でボランティアもやるというのも無くはないが、やはり現実的ではない。必然的に、ボランティア参加を諦めるしかなかった。

こうして、私は大学生五輪ボランティアを辞退し、大学を卒業して、新卒で就職した。

5. 現在(2021年7月22日)

このnoteを書いている翌日には、東京オリンピックの開会式が行われる。だが、今日になって開会式の演出担当が解雇されたりと、大会運営はコロナ禍の如く混迷している。

私自身、現在の状態での五輪開催には反対の立場だ。本気で開催するのであれば、今の時点で全国民が二回分のワクチン接種を終えている必要があるのに、まだ一回目すら打てていない人々が大半だ(私もそのうちの一人だ)。東京の感染者数が2000人近くにまで跳ね上がる中で、「安心・安全の大会運営」が果たして出来るのか。政府のやり方には不信感しかない。

一方、インスタグラムのストーリーを見てみると、後輩で大学生ボランティアになった子がバックヤードの様子をあげていたりする。それを見ていると、自分もそっち側で日本人や留学生スタッフたちと一緒に、かけがえのない経験をしていたのではないかと考えてしまう。

だから、もしこれを読んでいる人の中で大学生の人がいたら、コロナ禍で大変だろうけど、何かチャレンジしてほしい。やらないで悔むより、やって後悔。その経験が、一生モノの思い出になるかもしれないから。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?