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小説 高校生戦隊ヒーローズ 10. 野外演習1日目

5月2日、火曜日。今日、僕たちは北関東にある大日本帝国軍所有の演習林に来ている。

帝都第一士官学校1年1組と2組は、昨日の授業を午前中で終了して午後に鉄道でこの演習林の入り口にある宿舎まで移動し、昨晩はこの宿舎に泊まった。今日と明日、2日間かけて、2人1組でこの演習林を踏破するのが僕たちに課せられた課題だ。今夜は演習林の中で野宿、明日は演習林の反対側にある宿舎に泊まって、明後日木曜日の午前中に鉄道で帝都に戻ることになっている。

なお3組と4組は今日が移動日で明日からの2日間で演習林を踏破、5組と6組は明日が移動日で明後日からの2日間で演習林を踏破する予定だ。

1組は16人、2組は18人なので、17組のペアが演習林に挑む。
僕のペアは同じクラスの佐藤良介。華族出身だ。
宿舎の部屋も同室、昨日移動する時の鉄道のコンパートメントも同じと、もう1つのペアの2人と合わせた4人で、昨日からほぼずっと一緒に行動していて、だいぶ打ち解けてきたと思う。


今回の課題はそこまで難しくはない。
明日の夕方4時までに演習林を抜けて反対側の入り口に到達すればいい。必要十分な物資も、等しく全員に配られる。さきほど、地図、磁石、水筒、携帯食に清潔な布、簡易浄水器、サバイバルナイフ、万が一の時の連絡用の小型の通信機などが入った新品のバックパックが全員に配られたばかりだ。ひととおり配られた物資の確認を終えたところで、先生が出発前の最後の説明を始める。

「演習林の入り口は3つあります。これからくじ引きで、どの入口から、何番目にスタートするかを決めます。」

17組のチームがあり、入口が3つ、前のチームが出発してから10分後に次のチームが出発するので、最初に出発したチームと最後に出発したチームでは50分の差がある。くじ引きの結果、僕のチームは中央入り口のトップバッターとなった。おお、ラッキー。

「出発する前に、水筒に水を入れるのを忘れないように。演習林に入ったら水道はありません。川の水など自然に存在する水を、簡易浄水器を使って濾過して利用することになります。どこにでも利用できる水があるわけではありませんから、水筒の水がなくならないよう、余裕を持って水を確保するよう心掛けてください。野外実習が初めてのきみたちにとってはおそらくそれがいちばん難しい課題です。」

たしかに水の確保はだいじだ。空腹は2日や3日は耐えられるが、喉の渇きは耐えられない。下手をすると命に係わる。

「最後に。けっして無理はしないように。
1年生の課題は難しいものではありませんが、それでも想定外のことが起きる時は起きます。捻挫して歩けなくなるかもしれません。急病になるかもしれません。その場合は躊躇なく、通信で救助を要請してください。自分の実力や、今の状態、今できることを正しく認識して、必要なら助けを求めることも、軍人に必要な能力です。
では最初に出発する3組のペアは、水筒に水を補給して、出発準備に入って下さい。以上。」


僕たちは給水を済ませて演習林の中央入り口に向かった。
そこにいたのは担任の中村先生。

「きみたちがトップバッターですか。」

僕たちの姿を確認した先生は、手に持っている名簿にチェックを入れる。

「とにかく怪我のないように。判断に迷ったら、安全最優先で。いいですね?」

「はい!」

先生は僕たちの返事に頷くと軍の上官らしい張りのある声で言う。

「では、状況開始!」

それに再び「はい!」と返事を返して僕たちは演習林に入った。


1時間に1回5分程度の休憩を挟みつつ、僕たちは3時間ほど歩いた。少し開けて陽光が差し込んでいる場所があったので、そこで昼食を取ることにする。胡坐をかいて地面に座り、大豆を砕いて固めた携帯食を食べる。

「野営はどのへんにする?」

佐藤が地面に広げた地図を見ながら尋ねてくる。僕はその地図の一点を指さす。

「ここに沢があるよね?夕食と明日の朝食にはお湯を使いたいし、ここの近くがいいんじゃないかな?ちょうど中間地点くらいだし。」

「うーん、ここまでのペースを考えると、もう少し先まで行けないかな?今から日の入りまで、まだ6時間くらいあるだろ?それとも、もう疲れたか?滝川、小っちゃいもんな。」

その発言に僕は苦笑する。

「まだまだ元気いっぱいだよ!そうじゃなくてさ、ここから先は道に落ちている木の枝、特に小枝なんかを拾い集めながら進んだ方がいいと思うんだ。夜の煮炊き用に。野営の場所の近くにそういうのがたくさんあるとも限らないし、もし到着が遅くなって暗くなっちゃうと、小枝なんか見えなくなるし。」

僕の提案に佐藤は頷いた。

「なるほど!道理だな。」

「木の枝集めながらだとどうしても移動が遅くなるから。午前と同じペースでは進めないという前提で考えると、中間地点ってちょうどいいんじゃないかなって思う。」

「確かに。それに明日はもう小枝を集める必要がないから今日よりもハイペースで進めるはず。今日、距離を稼ぐ必要はない、ってわけだな。」

僕は頷く。明日の夕方には演習林を抜け、明日の夜は宿舎に泊ることになるから煮炊き用の燃料はもう不要だ。

「そういうこと。どうかな?」

「ああ!それでいこう!」

そして僕らは昼食を済ませて移動を再開した。

小枝を集めながらの移動は思ったより時間がかかった。少し道を外れたところも探してみたくなるし、ある程度木の枝が溜まってくると手に抱えたままでは移動しにくいのでロープで束ねる作業も発生するし。じゅうぶんな木の枝は集まったが、僕たちが目指していた沢にたどり着いたのは、日の入りを少し過ぎた頃だった。


「なんとか間に合ったかな。」

「そうだな。」

日の入りを過ぎても30分くらいはまだ太陽の明かりが残っている。僕らはその間に野営に適した空き地を見つけ、大きめの石で焚火の土台を組み、小さめの小枝にマッチの火を移して火を安定させ、少しずつ太めの枝も追加していった。辺りが暗くなる頃には煮炊きをするのにじゅうぶんな強さの焚火ができた。
僕が火の調整をする間に、佐藤が沢に戻って鍋に水を汲んできてくれた。それを火にかけ僕らはほっと息をつく。

「どうする?ここに、フリーズドライの味噌汁とか入れる?」

佐藤が聞いてくるので僕は提案する。

「鍋を洗うのたいへんだしさ、インスタント味噌汁みたいに味噌汁の素を入れたお椀に熱いお湯注ぐのはどう?いっしょに糒(ほしいい)も入れてさ。お行儀悪いから華族のおぼっちゃまはやらないかな?ねこまんま。」

「おっ、いいね。でもおぼっちゃまとか言うなって!」

「はは、ごめんごめん。」

「華族と言ってもさ、うちみたいな子爵家はそんなに庶民と変わらないと思うぞ?ねこまんまだって食べたことある。もちろん、正式な場ではやらないが。」

「ふーん、そうなんだ。」

そうして僕たちはそれぞれお椀にフリーズドライの味噌汁と糒を入れ、そこに熱い湯を注ぎ、糒が柔らかくなるのを待って食べ始める。

「はあー、シンプルだけどうめえー、たくさん歩いたからなあ。」

「そうだね、武術教練多めとは言え、学校にいる時は、半日以上は座ってるだけだもんね。」

佐藤に同意して僕もねこまんまを味わう。幼い頃はよくやったけど、ねこまんま、ほんとうに久しぶりだ。
空腹も手伝って僕らはそれから無言で食事を進め、椀が空になったらそこに鍋の湯を注ぐ。お茶があれば最高なんだけど、そんな贅沢は言えない。温かい食事と白湯があるだけでもじゅうぶんだ。
残った湯はそれぞれの水筒に入れて鍋を火から下ろし、僕らは火を囲んで白湯を飲む。

「5月とはいえ、この時間になると冷えるね。」

「そうだな。よしっ、俺があっためてあげる!」

そう言って佐藤は残りの白湯を飲み干すと僕の背後に移動して背中から抱きついてきた。僕は語尾にハートマークがつきそうな「あっためてあげる」発言がおかしくて思わず笑ってしまったが・・・おお、背中が温かくてこれはなかなか具合がいい。僕も温かくてほっとしたがそれは佐藤も同じようで、「はあ、ぬくい・・・」とかなんとか言っている。

「あっためてあげるって、ホントは自分が暖を取りたかったんでは・・・?」

僕がそう尋ねると佐藤は笑う。

「ま、いーじゃん、それくらい。細かいことは、気にしない。」

佐藤は僕の腹の前で手を組んだ。

「滝川の背格好、ちょうど俺の弟くらいなんだよな。」

「へえ、そうなんだ。何年生?」

「今、中二。俺たちの2個下だな。でもあいつは4月の生まれだから、滝川との実年齢差は1年ちょっとだ。」

僕は3月末の生まれだから確かにそうなる。

「部活はサッカー部だ。そこも滝川といっしょだな。」

「そうだね。」

そこから、僕らは家族の話をした。僕に8歳年上の兄と、5歳年上の姉がいることを話すと、ああわかるわ弟っぽいもんなおまえ、と佐藤は笑った。

そんなたわいもない話をしているうちに、昼間の疲れと背中の心地よい温かさに僕はだんだん眠くなってきた。口数が少なくなった僕に気づいた佐藤は、

「滝川、眠いか?俺が先に見張り番するから、先に眠るといいよ。夜中の1時頃に起こすから、交代しよう。」

と言ってくれた。

「ん、ありがとう、それじゃ先に休ませてもらうね。」

僕はそう返してバックパックからマントを取り出し、それにくるまってバックパックをまくらに地面に横になる。

「おやすみー。」

「ああ、おやすみ。」

それから間もなく僕は意識を手放した。


野外演習2日目に続く)



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