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小説 高校生戦隊ヒーローズ 12. 夕食はすき焼き大会

演習林での野外演習が終わり、僕たちは今、演習林出口近くにある帝国軍の宿泊施設の大広間にいる。この大広間に帝都第一士官学校の1年1組、2組の全員がそろっていた。

「2日間の野外実習、お疲れさまでした。野営は初めての経験の人も多かったでしょう。今はまだ気持ちが昂っていて実感がないかもしれませんが、みなさんの身体はいつもより確実に疲弊しているはずです。今日はゆっくり休んで、また明日からの学校生活に備えてください。明日は8時発の列車で帝都に戻ります。午後には授業がありますから、遅れないように。」

先生が話をしているが、みんな目の前の食事が気になって、あまり頭には入っていないと思う。僕もそうだ。先生は、15~16歳の男子の食欲を甘く見ている。それでなくても2日間の野外演習で腹ペコの状態だ。
ようやく先生が夕食の話に移る。

「今日の夕食は猪肉のすき焼きです。地元の猟師さんが仕留めたものです。猪肉は初めてという人もいるでしょうから注意しておきます。猪肉は生では食べられません。生の猪肉はウィルス感染や食中毒の危険がありますから、よく火が通ってから食べるように。では、いただきましょう。」

「いただきます!」

全員が唱和し、ぐつぐつ煮立ち始めている鍋に肉や野菜を入れ始めた。

4人で1つの鍋を囲む形となっており、僕は座敷に4つ置かれた長テーブルの1つの端にいる。僕の隣には野外演習でペアを組んだ同じ1組の佐藤良介。正面には2組の山中と近藤がいた。

僕も鍋の脇にあった猪肉を並べた皿を取り、ぐつぐつ煮えている鍋の中心に肉を入れていく。そして周りには、焼き豆腐、白滝、ねぎやしめじも入れた。

「猪肉、うまいんだよなあ。」

そう言ったのは隣の良介。華族の出身だから、一般人が口にしないものを食べる機会もあるのだろう。

「へえ、楽しみ!」

僕は猪肉を食べるのは初めてである。お肉の焼けるいい匂いが漂ってくる。どんな味がするんだろう?そう思いながら僕が言うと良介は僕の方を向いてにっと笑う。

「おっ、行人は初めてか。山中と近藤は食べたことあるか?」

「いや、ない。」

「ないな。」

あれ、会話が続かない。僕たちは山中と近藤とは話したことがない。1組と2組は座学は同じ教室で受けるが、座学だとあまりお互いを知る機会がない。寡黙な性格の人たちなのかな?

「ちゃんとしたごはん、昨日の朝以来だし、初めての猪肉だし、楽しみだよね!」

「そうだな。」

「ああ。」

僕も話しかけてみたがなんとも素っ気ない返事だ。
僕は良介にこそっと言う。

「ね、オレ、なんか嫌われるようなこと、した?」

良介も困惑している。

「いや、してない、と思うけど・・・。」

「それとも、もともとこういう寡黙な感じの人たち?」

「さあ、なあ?俺もよく知らないからな・・・。」

知らないのも無理はない。何しろ席順はくじ引きで決まったのだ。野外演習のペア2組、合計4人が1つの鍋を囲む。ペアは全部で17組だから、1組だけが教官2人にあたることになり、僕らはそれをアタリくじと呼んでいた(もちろん皮肉である)。アタリくじを回避した僕と良介はさっき「やったね!」とハイタッチしていたのだが、ひょっとして僕たちが引いたのは別のアタリくじだったのだろうか?

さらにこの4人でいっしょの部屋に泊まり、明日の帰還の列車でも同じコンパートメントに座るのだ。あまり気づまりな状態が続くのは嬉しくない。それに、せっかくのごちそうだ。できれば、楽しく食べたい。僕は気を取り直して正面の山中に話しかける。

「野外演習、たいへんだったね。」

「ああ、誰かさんのせいでな。」

山中がそう言うと隣の近藤がきっと山中を睨んだ。
ああこれは・・・まちがいなく野外演習で何かあったんだな。
僕が隣の良介に視線を送ると彼も理解したのだろう、重々しく頷く。そして雰囲気を変えようとことさらに明るい声で僕に言う。

「行人、このへんの肉そろそろ煮えてるんじゃないか?初めてなんだろ、食べてみろよ。」

せっかくそう言ってくれているので僕もそれに乗ることにした。

「そ?ありがと。では、初挑戦の猪肉を・・・」

僕は割り下を絡めた薄切りの猪肉を一切れ手元の器に取り、食べてみた。肉の甘味と旨みが口内いっぱいに広がる。甘じょっぱい割り下と混じり合ってすごく美味しい。もぐもぐ咀嚼して飲み込むと、良介がにこにこしながら尋ねてきた。

「どうだ?」

「うん!すっごく美味しい!こんな旨みの強い肉、初めてかも!」

興奮気味に僕が言うと良介は我が意を得たりとばかりに頷く。

「だろ?さ、どんどん食べようぜ!」

「うん!」

山中と近藤も手を伸ばす。食欲旺盛な若い男子が4人もいるのだ。鍋の中心の肉は瞬く間になくなったので、僕は鍋の脇にあった猪肉を並べた皿を取り、ぐつぐつ煮えている鍋の中心に肉を入れていく。菜箸でお肉を重ならないように動かしたり裏返したりしていると、お肉の焼けるいい匂いと、周りにある熱が通ったねぎの甘い香りが漂ってくる。
僕は焼き豆腐、ねぎ、しめじ、白滝を器に取る。ちょっとお行儀が悪い気もするが、割り下のしみ込んだねぎをごはんの上に乗せ、器の煮汁をごはんにかけて、ごはんと一緒に食べる。思ったとおり、とても美味しい。それから僕は割り下のしみ込んだ焼き豆腐を食べ、白滝を食べ、再びねぎをごはんに乗せて、とすき焼きを堪能した。

「行人、もっと肉、食えよ。」

最初に肉を二切れほど食べた後、肉に見向きもしない僕に良介はそう言ってくれたが、美味しいとはいえ猪肉は脂も多い。そんなにたくさんは食べられそうもない。

「うん、ありがとう、でもオレはあともう一切れでじゅうぶんかな。良介、食べていいよ。」

そう言って肉を一切れ器に取る。すると良介はにぱっと笑う。

「おっ、やった、ありがとう!でも行人、おまえそんなんで足りるのかよ?肉の代わりに、なんかやろうか?」

「あ、それなら、良介のお豆腐もらっていい?」

「うん、いいぞ、他にも欲しいものあるか?」

「じゃあ、白滝とか、お野菜ちょっとずつ。」

僕がそう言うと、良介は自分の分の焼き豆腐と白滝を僕の器に入れてくれた。

「野菜も好きなの取っていいからな。」

「ありがとう。」

僕がそう言って割り下の味がしみ込んだ焼き豆腐を食べ始めると、良介は自分の器に猪肉を取りながら尋ねてくる。

「行人、豆腐が好きなのか?」

「うん、好き。柔らかくて、ぷるんぷるんしてて、するっと喉を通って。」

「そっか。」

「焼き豆腐は、ぷるんぷるんとはちょっと違うんだけど、なんか特別な感じがしていい。ほら、おにぎりを焼きおにぎりにしてもらったみたいな!」

僕が言うと良介は「そんなもんかあ?」と首を傾げている。え、ちょっとずっしりした感があって、香ばしくて上質な感じなのに、その良さが理解されていない?なぜだ。
僕がそう力説するも良介にはあまり響いていないようだ。山中と近藤を見ても気にもしていないようで黙々と肉を食べている。良介はぽん、と僕の肩に手を置く。

「俺には焼き豆腐の特別感はよくわからないが、行人が豆腐が好きなのはよくわかった。今度、うちに遊びに来いよ。うちの料理人が豆腐を使った料理が得意でさ。肉使わないで豆腐だけでステーキ作ったこともあるぞ。行人が好きな料理もきっとある。そうだな、夏休みにでも、2~3日泊まり掛けでさ。」

「ホント?うん、行く!楽しみ!」

目の前の2人の雰囲気は気づまりな感じだったが、良介のおかげで僕は楽しく夕食を終えることができた。


夕食の後は順番に風呂、あとは就寝時刻の10時まで自由時間だ。
風呂は12人ずつで30分だ。
4人で連れ立って(というか、並んで歩く僕と良介の後ろを、山中と近藤が距離をあけてついてくる感じだったが)大浴場に行くと他の8人は既にいて、和気あいあいとした雰囲気だったので僕はほっとした。同じクラスの七瀬や田代もいる。

脱衣所で服を脱ぎ、風呂場に入って頭とからだを洗う。昨日は入浴していないからシャンプーの泡立ちが悪く、いつもより多めに使った。ブーツを履きっぱなしだった足は指の間まで丁寧に洗い、揉み解した。
そうやってからだをきれいにした後、湯船に向かう。すでに湯船に浸かっていた良介、七瀬のそばに行く。

「おっ、行人、おつかれ。なんか、たいへんだったみたいだな。」

良介から話を聞いているのだろう、七瀬鉄平がにやにやしながら話しかけてくる。

「鉄平もおつかれ。ほんとにねえ、野外演習の方が楽しかったよ。で、野外演習は、どうだった?」

「まあ、可もなく不可もなく?メシの用意ってけっこう面倒だよな。片付けもあるしさ。」

話を聞くと、七瀬のペアは、鍋を2つ用意して一方ではフリーズドライの味噌汁を溶かし、もう一方では糒(ほしいい)を使ったおかゆにしたのだそうだ。僕たちが鍋では湯を沸かしただけで、お椀に具材を入れてそこにお湯を注ぎ、ねこまんまにして食事を済ませたと話したら「その手があったか!」と叫んでいた。


のぼせそうだから先にあがるわ、と七瀬が湯船を出ていくと、良介が隣に移動してくる。そして僕の下半身を見て、行人のはかわいいな、と笑った。失礼な、大き過ぎず小さ過ぎず、からだの大きさに見合ったベストサイズなのだし、まだ成長途中なのだ。

そしてしばらく温まってから、僕らも風呂を出た。


僕と良介が部屋に戻ると、山中と近藤がなにやら言い争いをしていた。
今にも手を出しそうな山中を良介が後ろから羽交い絞めにする。
そしてどうしたのかと尋ねると、ケンカの原因はやはり野外実習だった。

要するにこうだ。
交代で夜番をするはずが先に寝た山中がどうしても起きなかったらしい。それで近藤が徹夜をする羽目になった。
そして朝になっても山中がいつまでも起きなかったせいで出発が遅くなり、このままでは4時までに演習林を抜けられないと朝食や水の準備をせずにすぐ出発した。だが近藤は徹夜していたこともあり身体も重いし喉も乾くしで、自分の水筒の中身だけでなく山中の水筒の中身も飲んでしまった。山中も近藤に徹夜をさせた負い目があって水筒を差し出したが、まさか全部飲まれるとは思わなかった。そのせいで喉が渇いて渇いて死ぬ思いをした、と。

「でもさ、こうして無事に演習林抜けたんだし、ちゃんと4時に間に合ったんでしょ?演習林抜けて水分補給もちゃんとできたんだし、今からちゃんと寝れば徹夜の疲労も回復するだろうし、仲直り、しようか?」

僕がそう言うと、山中と近藤はきっと僕を睨んでこう言った。

「部外者は黙ってろ!」

きれいにハモった。息ぴったりじゃん。
再び2人が口論を始めてしまったので、僕と良介は顔を見合わせて、こそこそ部屋から出て廊下に避難する。

「なんか、たいへんそうだなあ。」

「ま、そのうち収まるだろ、あの調子でわあわあ言い続けるのも、疲れるもんだ。」

「ああ、それはそうかもね。それにしてもずいぶん実感がこもってるね?」

「ははは、子どもの頃は、弟とよくあんな感じでケンカしたからな。行人も経験ないか?」

「うーん、オレはちょっと歳が離れてるからなあ。あまりケンカにはならないな。特に兄の方は8つも年上だからなあ。世間一般で言う兄よりは、父その2みたいな感じなのかも。」

「ははは、そっか。」

ただここで待っているのもな、と僕と良介は洗面所に歯磨きに行った。ことさらゆっくり丁寧に歯を磨き、部屋に戻ると、良介の予想通り2人の言い合いは収まっていた。もっとも2人の様子を見る限り仲直りに至ったとは到底思えない。だが、とりあえず静かになったのはいいことだ。僕は部屋の隅に積んであった布団を持ってすすすっと2人の間に割り込むように、布団を敷き始める。

「終わったみたいだねえ、じゃ、そろそろ寝ようか。2人ともどいて、布団敷くからさ。」

何事もなかったかのように言い放つ僕に2人とも毒気を抜かれたような顔をした。良介も手伝ってくれて、すぐに布団が4つ並べ終わった。

「オレ、ここね。」

僕は窓側から2番目の布団の上に寝転がる。そしてその隣、窓側から3番目の布団をぽんぽんと叩いて言う。

「良介はオレの隣ね、こっち来て。」

「おー。」

良介もその布団の上に寝転がる。

「山中と近藤は、両端のどっちでも好きな方に。ふあー、昨日は夜番もして睡眠時間少なかったからなあ。もう眠いよ。さ、寝よ寝よ。」

僕がわざとらしくあくびしてそう言って布団に入ると、良介もそれに倣う。2人の距離を無理やり離すためにやったことではあるが、実際昨日は睡眠不足だったこともあり、布団に入れば急速に眠気が襲ってくる。

「うん、やっぱ野営って疲れるんだねえ、すごく眠い。おやすみ、良介。」

「ああ、おやすみ行人。」

そして僕はすぐに寝入ってしまったようだ。その後のことは憶えていないし、わあわあケンカする声で目が覚めることもなかった。とりあえず、少なくとも休戦にはなったのだろう。



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