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小説 高校生戦隊ヒーローズ 14. 早朝のランニング

5月7日、日曜日。
士官学校では週に一度しかない休日だ。
日曜日の朝、僕は同室で指導役の春行先輩に稽古をつけてもらっている。今日のメニューはランニングの予定だ。

僕が起きると先輩は制服に着替えているところだった。朝5時。1カ月以上同じ部屋で寝起きしているが、先輩より先に起きれた例がない。

「おはようございまぁすぅ~。」

寝起きの気の抜けた声で言う僕に、先輩は笑みを漏らす。

「おはよう。」

僕が伸びをしてベッドから這い出し、歯磨きセットを持って部屋を出ようとすると、先輩が言う。

「今日はランニングするからな、昨日も言ったとおり、水を最低でもコップ1杯、飲んでおくんだぞ?」

僕はそれに「はぁい。」と返事を返し、洗面所で歯磨きと洗顔を済ませ、言われた通り水も飲んで、部屋に戻って制服に着替えて寮の門に向かった。

玄関のところで、委員会室に立ち寄ったらしい先輩といっしょになる。先輩は手に緑色のフルフェイスヘルメットを持っていた。あれ?ランニングするんじゃなかったのかな?僕がそう尋ねると先輩は頷く。

「ああ、今日はランニングする。他のトレーニングはしない。ヘルメットを持ってきたのは、行人に制服を着てきてもらったのと同じ理由だ。ランニングなら、もっと適した服装があると思わなかったか?」

「あ、はい、確かに思いました。Tシャツとハーフパンツとか。でも僕たち士官候補生が外で活動する時は常に制服を着るわけですし、制服での切った張ったに慣れるためにトレーニングも制服なんだろう、と考えました。」

先輩は再び頷く。

「そうだ、そして危険な任務の場合にはヘルメットも着用するから、ヘルメットにも慣れておく必要がある。ヘルメットは1年生の夏休み、バイク教練の時に支給されるから、今年の冬からは行人にも着用してランニングしてもらうぞ。」

「夏休み明けからじゃ、ないんですか?」

僕が尋ねると先輩が笑う。

「夏にフルフェイスヘルメットをかぶって走るのは、なかなかきついぞ?ヘルメットの内側に頭部を保護する内装もあるから熱が籠りやすい。いちばん熱の負荷が少ない冬に始めて少しずつ慣らしていくんだ。」

「あ、なるほどです。」

「説明はこんなところだな。他になにか聞いておきたいことはあるか?」

「いえっ、だいじょうぶです!」

そして僕たちはブーツを履いて寮の門のところまで来た。

「今日は宮城の周りを走るぞ。この寮の近くにある田安門から反時計回りに半蔵門、桜田門、大手門、平川門、清水門の前を通って、田安門に戻ってくる。歩道は道幅が広いし、朝早いからあまり人通りはない。特に支障なく走れるはずだ。」

「はいっ!」

「とりあえず少し走ってみよう。お互いの最適なペースをまだ知らないからな、それを把握するところから始めよう。きつかったら、すぐ言うんだぞ?」

「はいっ、分かりました!」

僕の返事に先輩は頷き、ヘルメットを被ってシールドを下ろす。

「ではいくぞ!」

先輩の合図に、僕は先輩と並んで走り出した。


先輩が小柄な僕に合わせてくれているのか、ちょうどいいペースで走れている。田安門と半蔵門の中間あたりで先輩が尋ねてきた。

「行人、このペースでだいじょうぶか?」

「はいっ、だいじょうぶです!先輩、僕に合わせてくれてますよね?」

僕が答えると、ヘルメットの中で先輩が笑う気配がした。

「いや、そうでもないぞ?行人、思ったより速く走るし、ペースも安定しているな。それにフォームがきれいだ。」

「ほんとですか?わあ、嬉しいです!」

僕は中学の頃からサッカー部だったので、走り回るのには慣れている。士官学校の武術教練では、上半身の筋肉が足りなくて苦労しているけれど。

「それならこのペースで行くぞ。でもきつくなったらすぐ言うんだぞ?」

「はい!」

そして僕たちは40分ほどかけて宮城の周囲を1周し、田安門まで戻ってきた。
先輩はヘルメットを脱いで僕に尋ねる。

「行人、どうだった?」

「はいっ!気持ちよかったです!気温もちょうどいいし、景色はいいし。もう1周くらい行けると思います!今、いちばんいい時期ですよね!暑過ぎず寒過ぎず。あ、お堀に水鳥の親子がいましたね!桜はさすがにもう散っちゃってましたけど。宮城っていいですよね!ちょっと住んでみたいです!」

ランニングとは関係のないことまでまくし立てる僕に先輩は笑う。

「まだ余裕がありそうだな、でももう1周していると朝食の時間に遅れるから、今日はここまでにしておこう。中で、少しストレッチして終わりにしようか。」

「はい!」

僕と先輩はそこから歩いて寮に戻り、中庭でクールダウンのストレッチをした。朝食までまだ少し時間があったので、筋トレもした。僕がスクワット100回を苦もなくこなす一方で、腕立て伏せは20回にも届かないうちにへばるのを見て先輩は笑う。

「行人は、上半身の筋肉をつけたほうがいいな。」

おっしゃるとおりでございます・・・。


それから手を洗って食堂に向かう。
平日の朝は部活の朝練、夕方は部活動、委員会活動、校外実習があるため僕と先輩の時間はあまり合わない。最近ではいっしょに食事をするのは日曜日だけになっていた。そのせいもあるのか、先輩は日曜日は食事の遅い僕に合わせてゆっくり食事をしてくれるし、話もよく聞いてくれる。

今日の朝ごはんは、炊きたての玄米に、キャベツとたまねぎの味噌汁、鰆の西京焼き、卵焼き、鰹節の乗った菜の花のおひたし。

鰆に浸み込んだ白味噌の風味を堪能しながら僕は先輩に先週の野外演習の件を話す。

「というわけで、野外演習自体はつつがなく終わったんですが、その日に同室になった2人がなかなか個性的で。1人はとんでもなく寝穢くて(いぎたなくて)起こすのにめちゃくちゃ苦労しました。で、その彼とペアを組んだもう1人は野外演習の日に徹夜させられて、腹いせに相方の水筒の中身も全部飲んじゃったものだから。2人、ずっとケンカしてたんですよ。もう、ずーっと。帰りの列車の中でもケンカしていて、教官にげんこつされてました。」

僕の話を先輩はにこにこしながら聞いている。
いつの間にか周りには海斗と彼の指導役である蒼真先輩の他、何人かの寮生が集まってきている。海斗が「ああ、あいつら笑えるよなあ。」とか言う。

「何をおっしゃいますか、部屋に戻れば犬みたいに吠え合ってるし、朝はたたき起こしても起きないし、ようやく起こせたと思ったらその起こし方はなんだと逆ギレされるし、ようやく帰りの列車に乗ってやれやれと思っていたらまた犬っころみたいに吠え合うし、笑い事じゃあないっしょ。あんな手のかかる子が高校生?しんっじらんない!」

僕が早口にそう言うと、みんながあははと笑う。

「しかし、そいつ、山中だっけ?そんな寝穢いのに、これまで1時限目に遅刻とかしてないんだろ?何か起こし方あるんじゃないか?」

先輩の1人がそう言うので、僕もはっとする。

「ほんとですね、寮の先輩に聞けば起こし方教えてもらえるかもしれませんね!あ、でも、どこの寮だろ?」

「たしか玄武寮だったぞ。」

海斗がそう言うので僕はにやりと笑う。

「ね、海斗、今日、ヒマ?ヒマだよね?部活休みだもん。これから、玄武寮に遊びに行かない?」

僕の顔を見て海斗は苦笑い。

「行人がそういう顔している時って、止めても無駄だからな・・・しかたない、つきあうか。」

うん?なんだか今の海斗の表情、僕が「いいこと思いついた!」とか言った時の兄の表情に似ているぞ?海斗、僕のことを手のかかる弟かなにかだと思っているのか?ま、いいか、なんだかんだ言って、けっきょく一緒に来てくれるんだし。

「うんうん、じゃ、まずは朝ごはんをちゃんと食べちゃおうか。」

残りのおかずとごはんを食べ始める僕に、周りの先輩たちは「あとで話聞かせてくれよ~」とか「あいつおもしろいなあ」とか言いながら散っていく。
正面に座る春行先輩はすでに食事を終え、お茶を飲みながら尋ねてくる。

「俺は午後に松木屋に行こうと思っているんだが、行人も行くか?」

僕のおやつ、煎り大豆の御用達店、松木屋。そろそろ煎り大豆もなくなりそうだったので僕は頷く。

「はいっ、行きます!初のお給金持って!煎り大豆を買いに!」

それから僕が食べ終えるまでのんびりお茶を飲みながら待っていてくれた先輩といったん部屋に戻り、僕は海斗と連れ立って玄武寮に出掛けた。


玄武寮訪問に続く



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