
小説 高校生戦隊ヒーローズ 3. 入学式
4月1日、土曜日。今日は士官学校の入学式だ。
土曜日は学校や官公庁、会社はお休みだが、士官学校は土曜日も平日並みに予定が詰まっている。平日より、1~2時間終業が早いだけだ。
今日も午前中に入学式、午後に年間カリキュラム、修学規則、卒業後の進路についての説明会と、もりだくさんだ。
ここ1週間毎日着て少しは慣れた、でもまだ新しい制服に身を包む。今日は1週間ぶりにマントも着て、入学式の会場に向かう。隣には、寮で知り合った同級の海斗(かいと)。周囲を歩く他の同級生を眺めながら僕は思わずつぶやく。
「身体の大きい同級生、多いなあ。」
士官学校の入学基準には学力だけでなく体力もあるため、どれほど賢くてもひ弱だと入学できない。それでなくても軍人を目指そうと考える、全国から選りすぐられたわずか1,000人の精鋭だ。身体の大きさが平均以上なのは何も不思議ではない。
「行人が小さいんだと、思うよ?」
こそっとつぶやいたはずなのに、耳ざとく聞きつけた海斗が律儀に答えてくれる。くっ、厳然たる事実なだけに言い返せない。
「そうなんだろうけどさ・・・」
入学式会場の講堂の前に、クラス分けの名簿が貼り出されていた。
16人のクラス4つと18人のクラス2つで合計6クラス。
僕は1組、海斗は2組。
「別のクラスか。」
そういう海斗に
「うん、これはいざというとき教科書とか融通し合えるというわけだね。」
と返す僕。一瞬意表を突かれたような表情をした後、海斗は声を上げて笑う。
「はははっ、確かにそうだ。」
この日の午後の説明会で分かったことだが、座学は2クラス合同となるため、教科書融通作戦はかなり高確率で機能しないことが判明した。1クラス単位で実施する授業は武術教練だけ、ようするに体育だけである。
入学式では新入生全員の名前が呼ばれた後、校長、生徒会長、そして国防委員を務める菖蒲小路(あやめのこうじ)衆議院議員の祝辞と続いた。入学式の祝辞など当たり障りのないものだろうという僕の予想はいい意味で裏切られた。特に校長先生の祝辞は傾聴に値すると思う。
校長はロマンスグレーの髪、しわのある顔からそれなりに高齢だとは思うが、背が高く引き締まった大きな身体、講堂に響く朗々とした張りのある声から老人という印象はまったく受けなかった。
「きみたちは、難しい試験を突破した、全国の15歳男子の中でももっとも優秀で、意欲にあふれ、文武両道兼ね備えた選りすぐりのメンバーだ。たゆまぬ努力の成果だろう。賞賛に値する。そんなきみたちに期待することは2つだ。1つは、これから4年間の学校生活で、切磋琢磨しその才能をさらに高めてほしい。」
そこでいったん言葉を切って、居並ぶ新入生を見渡す。
「もう1つ、こちらがよりだいじなことだ。
きみたちは今日、大日本帝国軍に入るための第一歩を踏み出した。
まだ何も訓練を受けていないとは言え、市井に暮らす一般の人々から見れば、君たちもまた軍の一端を担っていると言っても差し支えない、力を持つ者だ。
その力を、間違った使い方をしてはならない。
きみたちの力、ひいては軍が持つ武力は、力を持たない人々を、理不尽な暴力から守るために使うものだ。断じてそれ以外の目的で振るってはならない。
かつて大日本帝国軍はその力の使い道を誤り、時の内閣総理大臣、犬養毅首相の暗殺を試みたことがある。首相とはいえ、武力の前には無力な文民だ。どんな理由をつけたところで、丸腰の相手を、武器を持って襲った時点で、その行動に道理はない。きみたちは将来、軍に身を置く立場だ。かつて軍が犯したのと同じ過ちを繰り返してはならない。きみたちの持つ力を、過たず、世のため人のため、正しく使ってくれることを心から期待したい。」
武力は、力を持たない人々を、理不尽な暴力から守るために使うもの。
小学校や中学校の入学式や卒業式での校長先生や来賓の祝辞など欠片も憶えていない僕だが、この言葉は心に強く響いた。何年経っても、忘れることなく、折に触れて思い出すだろう。
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