トランプ経済政策に関する小考
トランプ政権の経済政策
米国第45代大統領に就任したドナルド・トランプ(Donald Trump)大統領は、就任以来、様々な行政命令(executive orders)に署名した。しかし、その内容は非常に型破りなものである。当初、執権政党が民主党から共和党に交代した上、トランプ大統領が政治経験のないビジネスマン出身であるため、主要政策が既存の政策とはかなりの差があるだろうとは予想したが、その内容が多少急進的なのは事実である。
ところで、このようなトランプ政権の政策を見ると、雇用創出、企業活動促進、米国国益優先が代表的なものと言える。財政拡大を通じた景気浮揚、製造設備の海外移転防止(reshoring)及び不法移民の退出、企業説得努力などは雇用創出のためのものであり、エネルギー・金融業界などに対する規制緩和、法人税減税などは企業活動促進のためのものである。また、米国の国益のためにはTPP、NAFTA、韓米FTA など自国に不利だと判断される貿易協定の改正、米国の主要貿易赤字国に対する関税及び非関税障壁の強化、不公正貿易国制裁などをためらいなく推進している。
経済政策に対する評価
では、トランプ政権の経済政策は果たして成功するだろうか?大体の専門家たちは、トランプ政権の経済政策が短期的には目に見える成果を収めるかもしれないが、不確実性が次第に高まるにつれて、中長期的にその効果は限定的になるだろうと評価している。
財政支出の拡大と政策期待感による投資及び消費心理の改善、競争力が脆弱な自国産業に対する保護貿易政策、国内産業に対する規制緩和政策などは、企業の競争力を確保し、雇用創出を促進する可能性はある。
しかし、中長期的な観点から見ると、保護貿易などの米国優先主義政策は、通商対立を誘発することで、グローバル貿易の萎縮につながる可能性が高い。この場合、米国企業の競争力が弱体化し、雇用が縮小する可能性がある。また、減税に加えて財政支出を拡大する財政政策は、財政健全性の悪化を誘発することが多い。このような財政赤字の拡大は、結局、福祉政策の縮小とそれに伴う貧富格差の拡大につながってしまう。
また、関税によってインフレが高まり、米FRB金利引き上げまで加わった場合、資本収益率の上昇によって投資が起こらず、雇用効果は限定的になるしかない。これに加えて、移民制限による労働力の減少は、成長潜在力を低下させる要因として作用するだろう。最終的にはトランプ政権が狙いとした雇用効果はなくなり、政府の負債ばかりが増えることになる。さらに、予測困難なトランプ大統領のリーダーシップのスタイルも経済の下方リスクとして作用する可能性がある。
グローバルな流れを把握せよ
トランプ政権の型破りな行政命令によって全世界が騒然としているが、トランプ政権の発足と政策は明らかに以前とは異なるグローバルな流れを示している。
まず、トランプの行政命令に民主党、共和党問わず、多数の政治家、世界各国の首長と官僚、そして大手企業が反発しているにもかかわらず、トランプ大統領は根気強く自らの政策を押し通している。このようなトランプ大統領のリーダーシップのスタイルは、中国の習近平、日本の安倍、ロシアのプーチンと同じく強いという印象を持たせる。これは、独善的という欠点もあるが、国家的自負心と利益を鼓吹させながら支持層の立場を強く代弁し、必要に応じて果敢な政策を推進するなど、強力な推進力を発揮することができる。
また、これまで全世界は新自由主義とグローバル化の波の中で、その便益が一部のエリート層に集中していたのが事実であった。これによって誘発された社会全般の不平等深化問題への反発として現れた反グローバル化の流れをトランプは自国優先主義、保護貿易などによって具体化しているのである。結局このような流れは、他国によっても確信される可能性が高い。
最後に、米国の政策基調の変化によって、世界の政治と経済の不確実性が高まるだろう。国家間の通商摩擦が大きくなるだろうし、自国の利益に基づいて国際関係も変化するだろう。国家間の相互信頼と信仰が崩壊する可能性もあり、もしかしたら、また別の金融危機の火種が再燃する可能性もある。また、トランプ政権が推進する減税とドル安が共存できないジレンマに陥って、政策の一貫性を失ってしまう可能性もある。
伝家の宝刀(Trump Card)
しかし明らかなのは、トランプの保護貿易障壁、移民障壁、国境障壁、マスコミ障壁など様々な障壁構築政策は、自国の利益のためのものに見えるが、結果的に損害として帰結するかもしれないということである。
自国だけがよく食べ、よい暮らしをして、隣国がどうなろうが関係ないというトランプ式政策を近隣窮乏化(beggar my neighbor)政策と言う。1930 年代、アメリカの極端な保護貿易政策によって国家間為替レート戦争が起き、それに伴い全世界の貿易が急落し、世界経済はより深い泥沼に陥って破局の一途をたどった経験がある。結局、相手ゴールに向かおうとしたトランプの政策がオウンゴールになる可能性がある。
また、あちこちにかんぬきをかけて戸締りするトランプ式鎖国政策も問題である。ハーバード大学のニーアル・ファーガソン教授は、2011 年に執筆した「文明:西洋と残りの世界(The Civilization:The West and the Rest)(邦訳:文明:西洋が覇権をとれた6つの真因)」において、近代西洋の発展と中国に代表される東洋没落の原因として、海を放棄し、大陸に安住した鄭和以降の明の鎖国政策を分岐点と見ている。韓国の場合も興宣大院君が「西洋の野蛮人の侵入に対抗して戦わないことは平和を主張することであり、(そのように)戦わないで平和を主張する者は売国奴だ」という斥和碑を全国に立てて鎖国政策を展開したが、大韓民国の経済発展を後退させなかっただろうか?
英語の“Trump Card”という言葉がある。この言葉は、「伝家の宝刀、切り札」などと解釈される。伝家の宝刀とは、家に代々伝わる貴重な刀という意味である。過去、伝家の宝刀は息子や妻が家族に迷惑がかかる恥さらしの行動をした時、これを処断する道具として使用した。最近では、何か問題を解決しようとむやみに権力やその他の手段を乱用することを批判するために使われる。Trump が出している各種政策Card が伝家の宝刀のように感じられる面もあると言わざるを得ない。