まことの理想世界を夢見て

許生の理想世界「空島」

パク・チウォンの小説「許生伝」を読むと、部屋にこもって本ばかり読んでいた許生が、貧しさのために世に出て、漢陽の一番の金持ちに金を借りる。許生はその金で生活必需品を一気に買い込んだが、後に高値で転売する。これは独占と買いだめの最も古い例でもある。許生はこのような方法を使って瞬時に金を増やす。そして、男女二千人と耕作牛を連れて誰も住んでいない無人島に旅立ち、「空島」という理想的な社会を建設する 。

パク・チウォンはこの小説で、朝鮮後期の貧弱な経済体制と虚礼虚飾に染まった両班の姿を批判的に描いた。我々は許生という人物を通じて、いつの時代も人々が現実の世界の不条理を認識し、より良い理想社会を夢見たという事実を推測することができる。特に現実の状況が絶望的である場合にはなおさらである。

理想世界を夢見た人々

許生伝の空島以外にも、1516年トマス・モアの「ユートピア」や中国の詩人陶淵明が描いた「桃源郷」も人間が夢見たより良い未来の姿を反映している。プラトンは鉄人王が治める「カリポリス」を語ったし、ガリバー旅行記にはまた別の理想世界「フイナム(Houyhnhnm)」が登場する 。

トマス・モアは「ユートピア」で、私有財産がなく、王や政府なしに各自が主人である国を理想世界の姿として描写した。イタリアの独立を叫んでいたドミニク会の修道士トマソ・カンパネラは「太陽の国」で、社会改革と不平等解消に焦点を当てた理想社会を夢見た。ホ・ギュンは「洪吉童伝」で、嫡庶差別がなく、貪官汚吏がない国「栗島国」を夢見た。この他にも陶淵明の「桃花源記」に登場する桃源郷は、外の世界のめまぐるしさとは断絶して月日がどのように流れているか知らない人が集まって暮らす所である。

理想世界の実際

ところで、このように人々が夢見た理想世界の中をのぞいてみると、実際そこがいわゆる「パラダイス(Paradise)」どころか、人間が生きるには全く荒廃している印象を与えることもある。特にフイナムのような場合は、最初から馬が治める国で、人間に似た動物「ヤフー(Yahoo)」が馬の奴隷の役割までする 。

また、プラトンの「美しい都市」すなわち「カリポリス」は大帝国ではなく、ポリス(polis)、すなわちこじんまりした都市国家に過ぎない。この国は支配層である守護者階級と被支配層である生産者階級に分かれる厳格な階級社会だ。また、ここでは親の代わりに国が子どもを直接養育するが、子どもたちは成長過程で厳格な教育とトレーニングに耐えなければならない。さらに、すべての試験に合格して、最高支配層まで上がったとしても、彼らは結婚することも私有財産を所有することもできない 。

真の理想世界

よく理想世界をユートピアと言うが、「ユートピア」はギリシャ語に精通したモアが、否定を意味するギリシャ語の「オウ(ou)」に、場所を意味する「トピア(topia)」を付けて作った言葉で、本来の意味はnowhere、つまり「どこにもない場所」という意味である。このように人々がこれまで描いてきた理想世界は、人間が現実社会で生きながら作り上げた仮想の世界にすぎない。許生伝で登場する「空島」も許生が平等な国とは言うが、それはただ外部と隔離された一つの島でのみ可能だったのである。

おそらく理想世界を夢見た人々は、当時の時代的状況を変化させられなかった自分の無能力さを作品の中だけでも解決してみようとしたのかもしれない。したがって、より正確には、人々が語る理想世界は、自分が属している社会の問題点を把握し、改善させるための努力の一環として登場させた概念として見るべきである。

では、真の理想世界は存在しないのだろうか?違う。神様がお造りになった天国 (heaven)はどんな苦痛も存在せず、喜びだけが満ちた明らかな理想世界だ。だから、現実が天国の姿に似ているなら、そこがまさに理想世界だ。

天国は神様を本当に愛する世界だ。そして、神様が統治し、治め、働きかけるところだ。誰もが神様を愛し、真理の御言葉で霊的な喜びが満ちあふれ、いつも希望と期待が湧きあがる。では、地球にはそのようなところがあるだろうか?神様を誰よりも愛し、その御心に従って完全に生きていく時、理想的な喜びと希望が生まれるだろう。

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