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ランチへのご招待

ハビービ、君はもううちの家族だよ。明日も来なさい、君が迷惑じゃなければ。それにここの魚を食べてないだろう!ホーリーフィッシュだよ。ガリラヤの魚だ。美味しいから絶対食べた方がいい。明日ディナーはどうだい?
ありがとう。でも明日の夕方にはナザレを発つのよ。
1日延ばしたらいいじゃない?もしそれが無理なら、、じゃあ、ランチにしよう!みんなでここでランチはどうだい?
うん。お昼頃ここにまた来るね。

翌日観光地ナザレを一通り一周しお昼頃、例のフィッシュレストランに戻った。

サラームアレイコム。こんにちは。

店内はガランとしていて、水色のドアは開いているのに人がいない。インシャアッラー昨日と今日は違う日だからね。一期一会だったかな?そう思っているとレストランのボスではないおじさんがやってくる。

あ!昨日の。座って座って。喉乾いてない?ほらお水。ここは暑いから水飲まないと。

そう言ってわたしを昨日も座っていた奥のテーブルに促し、売り物であろう、冷蔵ショーケースの中の500ml入りのミネラルウォーターのペットボトルを1本取り出しテーブルの上に置く。冷えているペットボトルはすぐに結露しテーブルが少し濡れた。

いいの?
いいよ。いいよ。水飲んで。ナッツ食べる?

YesともNoとも答える間もなく、テーブルの上にはナッツの山が出来ていておじさんはカリカリ言わせながらナッツをほうばっていた。

誰かが何か言ってる、そう思いドアの方を振り向くと一人の青年が店内に入ってきた。彼の言葉が聞き取りにくいけどその笑顔ははち切れそうに満面だ。

彼もここで働いているんだよ。耳が聞こえないけど口元を見てなんて言ってるかわかるから、あ、でも英語はわからないよ。

ということは・・・わたしのカタカナ読みアラビア語なんて絶対無理じゃない!そう思った。

サラームアレイコム。日本から来ました。

わたしは徐に立ち上がりゆっくりと仰々しくそう言うと、意外にも

ようこそ!アラビア語できるの?

普通の返事だった。確かに聞きづらいけどわたしでもわかる。そこからは彼の人懐っこい笑顔と身振り手振りで会話は進む。

音楽がないね、音楽をかけよう!おじさんがそう言ってyoutubeでOum kalthoumのライブを流し出した。音楽にのっておじさんが店内狭しと踊り出した。

彼の踊りは変だねー。おかしいよ。笑えると思わない?彼はいつもおかしいんだよ。

辛うじて聞き取れるはずの言葉なのに彼の表情が勝って意味はしっかりと理解できた。そして二人で声を出して笑いあった。

じゃあ、お前が踊ってみろよ!

おじさんがそう言ってわたしも青年も立ち上がって音楽にのって踊り出した。言葉ってなんだろう・・・ふと思った。英語が得意じゃない、しかも聴力にもハンディキャップがある、わたしの英語もアラビア語も完璧じゃない、でも通じ合っている。笑いあえる。同じ母国語でも分かり合えない時もある。深く理解し合えているから相容れられないことがあるのだけど。

おお、ハビービ!来てたのか?お腹空いているかい?

ボスが帰ってきた。

パレスチナで一番美味しい魚を食べさせてあげるからね!おい、今日一番の魚持ってきて!

ボスがそう言うと耳の不自由な青年が店から出てレストランと併設している鮮魚店に向かった。ボスの背後からわたしに笑顔を投げかけて。




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