ミルクドーナツホールボーイ/作詞・作曲:ハチ(米津玄師) 歌:ミルクボーイ
うちのオカンがね、いつからこんなに大きな思い出せない記憶があったかを忘れたらしくて。
「どんな特徴ゆうてたか教えてみてよ」
あのー、どうにも憶えてないのをひとつ確かに憶えてる言うねんな。
「おー、もう一回何回やったって思い出すのはその顔やないか。それでもなんだかあなたが思い出せないままでいるんやから」
俺もそう思うてんけどな。
「いやそうやろ?」
でもオカンが言うには、環状線は地球儀を巡り巡って朝日を追うのに、レールの要らない僕らは望み好んで夜を追うらしい言うねんな。
「あー、ほな違うかぁ。もう一回何万回やって思い出すのはその顔でええ訳ないもんね」
そやねん。
「瞼に乗った淡い雨はね、聞こえないまま死んだ暗い声なのよあれ」
そやねんな。
「あれほなもう一度詳しく教えてくれる?」
何も知らないままでいるのが、あなたを傷つけてはしないか分からんらしいねん。
「それで今も眠れないのをあなたが知れば笑うやないかい。簡単な感情ばっか数えてたら、あなたがくれた体温まで忘れてしまうんやからあれ」
まあねー。
「ほんであれよー見たらね、バイバイもう永遠に会えないねん。何故かそんな気がするねんから、そう思えてしまうんよ。上手く笑えんのよ、どうしようもないわほんま」
分からへんねんでも。
「何が分からへんねん」
俺もドーナツの穴みたいにさ、穴を穴だけ切り取れないと思うてんけどな。
「そうやろ」
オカンが言うには、あなたが本当にあること、決して証明できやしない言うねんな。
「ほなもう一回何回やったって思い出すのはその顔やないかい。今夜も毛布とベッドの隙間に体を挟み込むもんねあれね」
そやねんそやねん。
「な? 死なない想いがあるとするなら、それで僕らは安心すんねん。過ぎたことは望まないねん」
そやねんな。
「確かに埋まる形が欲しいねん」
そやねん。
「ほな失った感情ばっか数えていたら、あなたがくれた声もいつか忘れてしまったわ。もうちょい言うてなかった?」
バイバイもう永遠に会えないらしいねん。
「そりゃ何故かそんな気がするやないかい。そう思えてしまうんよ。涙が出るんですよね、どうしようもないわ」
分からへんねんだから。
「なんで分からへんのこれで」
俺もこの胸に空いた穴が今、あなたを確かめるただ一つの証明と思うてんけどな。
「そうやろ」
それでも僕は虚しい言うねん。
「ほな心が千切れそうやないかい。オカンがどうしようもないまんまと言うんやから」
そやねん。
「先ゆえよ。簡単な感情ばっか数えていたら、あなたがくれた体温まで忘れてしまった時どう思っててんお前」
申し訳ないよだから。
「バイバイもう永遠に会えないねんこれ。最後に思い出したその小さな言葉やねんもう」
んでオトンが言うにはな。
「オトン?」
静かに呼吸を合わせ目を見開いたって言うねん。
「いや絶対目を見開いてるやろ! もうええわー!」
「「どうも、あなたの名前はー」」