楽屋で、幕の内。| シネマのなかのライター その1 Nov.10
映画を観ていて前のめりになることってありますか?私はあります。予想してなかったキャストが出てきたり、グッとくるセリフを見つけたときなどです。さらに思わず座席に座りなおし、体全体をスクリーンに寄せるようにして息を飲んでじっと見ることもあります。それは画面にライターや作家の登場人物が現れたときです。書く道具を確認するのはもちろん、苦悩する姿に心乱れるのです。同じ仲間として気持ちを分かち合いたくなるのです。
私と同じように“書く沼”にはまっている人のために、私が見つけた“書く映画”作品をいくつか紹介したいと思います。よかったらお読みください。
『ハッピーエンドが書けるまで』
(2012年 日本公開2015年 監督: ジョシュ・ブーン )
【あらすじ】離婚して3年になる小説家のビル(グレッグ・キニア)と、大学生の娘のサマンサ(リリー・コリンズ)、高校生のラスティ(ナット・ウルフ)が織りなす、3人それぞれの恋物語。父は別れた妻エリカ(ジェニファー・コネリー)が忘れられず、不法侵入の危険をおかしてまで、ふたりの新居をのぞき見に行くほど未練たらたら。執筆も止まったままです。サマンサは大手出版社からの本の出版が決まり順風満帆ですが、私生活では愛を信じることを恐れています。大のステーィブン・キングのファンの弟はといえば、ある女の子が気になっていますが臆病でなかなか進展しない、というところから話は始まります。
◼️ライター的チェックポイント1◼️父親が作家なら子どもも自然と書けるのか
姉のサマンサは作家デビュー、弟のラスティは人の心をつかむ詩を綴ります。なんと二人は小さいうちから父親に日記を書かされていたという設定。家庭教育では日記や作文は国語力を上げるとよくいわれますし、実際書き続けることで文章がよくなるのは間違いないと私も思います。最初は半ば強制だったかも知れませんが、いつの間にか二人は書くことにハマったという感じでしょうか。ちなみに本筋と関係ありませんが父親が日記をこっそり読んでいたことがなんとなく伝わります。
◼️ライター的チェックポイント2◼️書く環境を整えることはキモ
書くために周辺環境を整えることは、良い文章を紡ぐ最短の距離ともいえなくありません。集中のため、邪魔となる障壁を取り除く、疲れたときに息抜きをする、そのためのお膳立てです。当然、雑多な環境で一気呵成に書き上げるほうが向く人もいるでしょう。
映画では家はビーチにあります。砂浜のベンチで読書したり、波打ち際を散歩するシーンがたくさん出てきて大層羨ましいのですが、何よりもいいのはラスティのデスクからビーチが見えることでしょう。海をみながらの執筆って気持ちいいでしょうね。
◼️ライター的チェックポイント3◼️「作家は人生経験が命だ。経験してこい」
これは父からラスティに向けたセリフです。引用先はアメリカの作家、フラナリー・オコナーの発言です。彼女は「20歳以上の経験は要らない。作家はそれまでに必要以上の経験をする」といったとか。20歳をとうに過ぎた身としてはうなだれるしかありませんが、創作活動にはたくさんの経験が必要という点には納得します。
◼️ライター的チェックポイント4◼️刺さる、レイモンド・カーヴァーの名言
著名な作家の名や作品名が多く出てくるこの映画。特にフューチャーされるのはレイモンド・カーヴァーで、ビルは尊敬する作家として挙げます。
「I could hear my heart beating. I could hear everyones heart.
I could hear the human noise we sat there making,
not one of us moving, not even when the room went dark.」
「鼓動が聞こえた。みんなの鼓動が聞こえた。
人が立てる雑音が聞こえた。誰一人動かない。部屋が暗くなっても」
(『愛について語るときに我々の語ること』より)
これらを引いて「鼓動に耳を澄まし、聞こえたら力を尽くして解読することが我々の仕事」とビルは説きます。紙に書き出して、机の前に貼っておきたいですね。
最初に邦題を目にしたときは、作家を夢見る女性が孤軍奮闘する作品を想像しました。しかし実際は印象がかなり違います。原題は『Stuck in love』、恋にハマるというタイトルからしても、これは外見は恋の物語です。ということで書くことにさほど興味がない方でも十分に楽しめる作品といえます。物書きの皆様には、映画を観たあとに登場した小説や作家作品を手にとってみるという楽しみ方も。私はスティーブン・キングのあの作品を単なる恐ろしい小説だと思っていました。どうやらそれだけではなさそう(あたりまえ)なので、これをきっかけにトライしようと思います。
(次作へつづく)