偉大な兄ちゃん
高校生の頃、お母さんと喧嘩したことがある
原因は覚えてないんだけど、きっと私の反抗期(?)みたいなもののせいだったと思う
ちょっとしたことで怒られて、無視して、雰囲気が悪くなる、思春期特有のそれだったのかなあ
丁度そのとき、お母さんは原因がわからない体調不良に悩まされて精密検査を受けていた
そして兄ちゃんは兄ちゃんで肺に穴が開いて緊急入院。最後の高総体前の大事な時期に手術を受けるという本当に大変な時期だった。
母子家庭で2人兄妹だったから、健康体なのは私だけ。
本来なら親子喧嘩なんてしてる場合じゃない。
なのに、意固地な私は
お母さんに「ごめんなさい。」も「大丈夫?」も言えなかった。
もやもやした気持ちのまま、学校帰りにスーパーに寄って、兄ちゃんへの差し入れを買って病院へ向かう。
(当時高校生で食欲全盛期の兄ちゃんには病院食じゃ足りなかったから、餃子とかハンバーグとかよく買っていってたなあ)
一通りご飯を食べた兄ちゃんは、それでもまだ本調子じゃなかったのか、少し疲れた様子で横になった
その日もいつも通り何を話すでもなく帰ろうと思っていた私に、珍しく兄ちゃんが口を開いた。
少し、涙目だった気がする。
「なあ、なんでおかんと話さんとや?俺らの親はお母さんしかおらんとぞ?おらんくなるかもしれんって思わんとや?怖くないとや?
俺は怖いよ。やけん今話さんばことは話しとかんばって思っとる。喧嘩しとる場合じゃなかって。」
自分の体のことだけでも精一杯だったはずなのに
お母さんのことも、ましてや元気な私のことまで心配して言葉を遣える兄ちゃんだった。
そんなこと言われても「わかってるよ。」としか返せない私だったけど、病室を出てから家路につくまで、人目も憚らず泣いて帰った。後悔しても遅いのだ。兄ちゃんはそれがわかっていたから、今私をそうやって怒ることができたんだ。それが痛いほどわかったから、涙が止まらなかった。
その日、家に帰ってから泣きながらお母さんに謝った。やっと謝ることができた。兄ちゃんのお陰だ。
幸いお母さんはひどい病気ではなかったし、兄ちゃんも全身麻酔の手術を受けた3日後に高総体の試合にフル出場するという偉業を成し遂げたわけやけど。(当時も今でもありえん…って思ってる。笑)
家族の力ってすごい。
家族のために怒れる兄ちゃんも、何も不自由なく子供2人を育て上げたお母さんも、本当にすごい。
偉大な2人と、ちっぽけな私。と思ってたけど
偉大な2人と一緒にいたんだから私も偉大だ!と思うことにした。ミラクルポジティブな思考も偉大でしょ?
そして、そんな兄ちゃんは今
自分の経験と置かれた環境を大事に思いながら
シンガーソングライターをしている。
これまでだって面白い兄ちゃんだったけど
これからがさらに楽しみなことになりそう。
いつまでだって私のお母さんはお母さんだけやし
私の兄ちゃんは兄ちゃんだけ。
そんな当たり前のことが大切なことだと
高校時代の苦い思い出とともに振り返ることができた
あったかい夜。
きっと私は今、幸せのど真ん中だ。