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#10: ダイハツの場合【謝罪文読解】

謝罪文読解についてはこちらをご覧ください。

元文書

ことの経緯

  • ダイハツ工業は、2023年4月に、車両の安全性を確認する試験で不正を行っていたことが発覚。不正は、側面衝突試験において、前席ドア内張り部品の内部に不正な加工を行ったり、片方の衝突試験結果をもって逆側を代替したりするというもの。

  • ダイハツは第三者委員会を設置し、調査を実施。調査の結果、不正は当初公表されていた6車種だけでなく、トヨタ自動車に供給する車種も含めた64車種、174件に及ぶことが明らかになった。

  • ダイハツは国内外で生産中の全ての車種の出荷を停止。また、不正によって安全性に問題がある可能性のある2車種については、国土交通省にリコールの申請を行う予定。

なかなか盛大にやらかしてますね。。

読解

それでは読んでいきたいと思います。第三者委員会による調査報告書は162ページにも及ぶため、基本的には概要版を読みつつ、適宜調査報告書を引用したいと思います。

ダイハツが開発を行った海外市場向け車両(4車種)の側面衝突試験の認証申請
において、試験実施担当者は、仮に認証試験に不合格となった場合には開発、販売の日程を守れず大変なことになるとの思いで、認証試験に確実に合格することを目的として、認証試作車に対し、衝突時にシャープエッジが生じないような割れ方をするように樹脂製のフロントドアトリム裏面に切込みを入れるなどして量産車とは異なる手加工を行った。

第三者委員会 調査報告書(概要版)(daihatsu.com)

この後も散々に同じような話が出てくるのですが、、筆者はここを読んだときに身につまされるような思いがしました。
不正があることはいけないということは大前提としても、社会人なら、多かれ少なかれ似たような大変な思いをしたことはあるのではないでしょうか。

相当なプレッシャーの中で仕事をしていたのだと推察されます。

当委員会が類似案件として認定した不正行為は合計174個(不正加工·調整類型
28個、虚偽記載類型143個、元データ不正操作類型3個)であるが、一番古いもので 1989年の不正行為が認められる。全体の傾向としては、2014年以降の期間で不正行為の件数が増加している状況が認められる。

第三者委員会 調査報告書(概要版)(daihatsu.com)

1989年から実施していたということは、発覚時点で34年経っていたということですね。。。これはもう、会社の体質として実施していました、と言われても仕方ないでしょう。

安全性能担当部署の試験実施担当者等は、側面衝突試験における認証試験では、本来、衝突時の衝撃をセンサーで検知してサイドエアバッグ及びカーテンシールドエアバッグをエアバッグECU3で作動(以下「自力着火」という。)させる必要があるにもかかわらず、届出試験の時点ではエアバッグ ECU が開発されていない段階であったため、届出試験において、衝突時の作動をエアバッグ ECU ではなくタイマーにより作動(以下「タイマー着火」という。)するように依頼する試験依頼票を作成した上、サイドエアバッグ及びカーテンシールドエアバッグをタイマー着火させる方法で届出試験を実施して、同試験によって得られたデータを記載した試験成績書を作成して、認証申請を行った。

第三者委員会 調査報告書(概要版)(daihatsu.com)

全く意味のない試験になってしまっていますね。エアバッグがECUにより衝撃を感知して動作することを確認するための試験なのに、タイマーでエアバッグが動いてしまっては元も子もありません。

調査報告書のほうには、なぜECUでの着火試験を省略したかの心境が書いてあります。

ダイハツでは、開発日程の短縮や試験車両削減のため、KS車を使用して開発段階での性能データ取得と認証手続の届出試験を兼ねる衝突試験を実施することがあった。当該車種に対応した ECU の設定には開発段階で一定のデータを取得する必要があるところ、上記の開発段階での性能データ取得と認証手続の届出試験を兼ねた衝突試験までにECUの設定が間に合わない場合があった。その際に、試験実施担当者等は、ECUの性能に問題が生じることはなく、量産前に ECU が設定·納入されれば安全性には問題がないと考え、開発日程を遵守するために自力着火ではなくタイマー着火の方法により衝突試験時にエアバッグを展開させる試験依頼を行うなどして、上記不正行為に及んだ。

第三者委員会 調査報告書 (daihatsu.com)

やはり納期( ^ω^)・・・。
納期が遅れるのは試験実施担当者の責任ではないのでは、という正論はここでは通用しないのでしょう。

不正はこれだけでなく他にもたくさんあるのですが、大体の理由はこんな感じです。

不正行為が発生した直接的な原因及びその背景
法規認証業務における多数の不正行為が確認されたが、これらの不正行為に関与した担当者は、やむにやまれぬ状況に追い込まれて不正行為に及んだごく普通の従業員である。
(1) 過度にタイトで硬直的な開発スケジュールによる極度のプレッシャー
短期開発は、他社との差別化要因であり、ダイハツの存在意義として開発部門の組織内で根付いたものであり、その結果、過度にタイトで硬直的な開発スケジュールの中で車両の開発が行われるようになった。具体的には、開発の各工程が全て問題なく進む想定のもと、問題が生じた場合の対応を行う余裕がない日程で開発スケジュールが組まれ、仮に問題が生じた場合であっても開発期間の延長は販売日程にまで影響を及ぼすことから、当初の開発スケジュールを柔軟に先送りすることは到底困難というのが実情であった。

(中略)

安全性能担当部署及び法規認証室以外の者には、「認証試験は合格して当たり前。不合格となって開発、販売のスケジュールを変更するなどということはあり得ない。」というような考えが強く、そのことも原因となっている。

第三者委員会 調査報告書(概要版)(daihatsu.com)

筆者は車の開発に携わったことはないですが、あれだけの製品を作るのですから、いろんな部品を様々な担当がそれぞれ納期を持っていることは想像に難くないです。そして、一つでもその納期が遅れると全体のスケジュールに影響し、結果として製品販売のスケジュールが守れないのでしょう。
「普通の従業員」にかかるプレッシャーは相当なものだったと推察します。

第三者委員会はこう断言します。

したがって、本件問題でまずもって責められるべきは、不正行為を行った従業員ではなく、ダイハツの経営幹部である。

第三者委員会 調査報告書(概要版)(daihatsu.com)

総論

第三者委員会の調査報告書はこれ以外にも再発防止策の提言などもあるので、興味がある方は是非読んでみてください。

従業員は真面目、トップが反省するべき点が多い、というのは、日本組織ではいろんなところで聞きますね。にもかかわらず、こういったことが多発する背景には大変興味がありますが、いい本などご存じな方は是非教えてください。

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