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見積書と契約書の関係は?

 ビジネス上の取引で欠かすことのできない重要な書類に、見積書と契約書があります。今回は、見積書と契約書の違い、見積書の法的な位置づけ、見積書と契約書の関係、といったことを考えていきます。法務担当であればともかく、営業現場では混乱しがちなところではないでしょうか。

見積書と契約書の違い

 見積書と契約書の違いは何でしょうか。一言で言えば、見積書は契約に入る前の見積、つまり準備段階の書類、契約書は正式契約に至ったことを証するための書類、といったところです。
 この点を、契約の基礎に立ち返って、もう少し詳しく見ていきましょう。法律(民法522条1項)は、契約を次のように定義しています。

契約は、契約の内容を示してその締結を申し入れる意思表示(以下「申込み」という。)に対して相手方が承諾をしたときに成立する。

 例えば、売買契約で言えば、「このパソコンを10万円で売って下さい」というのが「申込み」、「はい、このパソコンを10万円で売ります」というのが「承諾」、これで契約成立ということになります。この例では口頭で契約成立となりますから、念のため契約書を作ったとすれば、後々のための証拠の意味となります。ビジネス上の取引であれば、契約書上の双方の押印が「申込み」と「承諾」となる場合が多いでしょう。
 見積をこの例に当てはめると、「申込み」の前に、売り主が「このパソコンは10万円です」と値段だけ伝えることに相当します。これが、契約に入る前の準備(これを「申込みの誘引」といいます)ということです。当然ですが、初めから値段が分かっている場合や、買い手が値段を提案する場合もありますから、見積書は必須ではありません。

実務での契約パターン

 契約の実務では、契約書の代わりに、注文書と注文請書を使うことがあります。この場合は、注文書が「申込み」に、注文請書が「承諾」に、という対応関係がはっきりします。ここまでのところを、まとめておきます。
パターン1:見積書(申込みの誘引) → 契約書(申込み+承諾)
パターン2:見積書(申込みの誘引) → 注文書(申込み) → 注文請書(承諾)

 さて、見積の後で条件を変えずに正式契約となる場合、パターン2では、ほとんど同じ内容の書類が3枚続くことになります。あるいは、最初の見積書だけに条件を記載して、後の書類では見積書番号を引用するだけ、ということもあると思います。
 そうすると、最初の見積書で「申込み」ということにできないか、という疑問が出てきます。これは項を改めて説明します。

見積書で契約書を兼ねられないか

 見積書だけで契約成立とならないことは、一般の取引常識から考えて当然のことです。しかし、例えば、見積書と注文書だけにする、あるいは、見積書のコピーに買い主が押印する、とした場合の効力はどうでしょうか。
 このように、買い手が見積書の条件に変更を加えずに注文した場合は、売り手としてもそのまま契約を成立させて良い、そういう前提で見積書を発行していたと考えられる場合が多いと思われます。そのような場合、見積書を「申込の誘引」ではなく「申込」と見て契約成立を認めて良いでしょう。

 ただ、すべてのケースでそう考えて良いかどうか、確実とまでは言えず、場合によっては契約が成立したのかどうか不明確になるおそれもあります。
 そこで、売り手としては、見積書に対して注文があった場合に直ちに契約成立となるのか、それとももう一度売り主側で判断するのかを、見積書に明記しておくのが望ましいと言えます。あるいは、買い手から注文を受けた段階で、念のため承諾するかどうかをメール一本でも良いので通知しておくと間違いがないでしょう。

参考サイト
民法(債権関係)部会資料 81-3
IT法務の基本① 契約と契約書

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