科学論文の査読に関する、eLife誌の新しい試みについて

 科学論文の査読に関して、eLife誌が2022年末から新しい試みをやっているらしく、ちょっとビックリしたので、文章をよく読んでみた。
 査読するけどアクセプトかどうかをジャッジせず、純粋に査読だけする、という方針らしい。
 すごいな。。とても興味深い。でも正直、よく分からん。。。
 理念に燃えてる感じがするし、何か変わっていく感じも受け取れた。今後どうなっていくのか。

感想など

 論文が「印刷」に制限されてるな、というのはすごく感じる。文章を不必要に切り詰めたり、行間を推論しないと分からないことがあったり。
 査読が完全なるボランティア、厳しすぎる、査読者の立場が著者より強すぎる、みたいな問題点に加え、以下にもある「貴重な査読文章がすべて捨てられてしまう」という問題もたしかにあるな、と思った。
 あと、世界的に査読システムが崩壊しつつある、というのはいろんな人が言ってて、いくつかのジャーナルが打開策を試みてる。「採択後に査読者を公表するシステム」とか、「著者が自分で査読者を探してコメントをもらい、それを反映させた形で投稿し、その後の査読はEditorのみで採否するシステム」とか。自分も最近、エディターを少しやってるけど、レビューを断られる頻度にビックリした。IF 10を超える雑誌でも半分のレフェリーに断られるらしい。なので、何かしらの打開策は必要なんだと思う。

 PLoS Oneが「インパクトをジャッジしない」という理念を打ち出したときも(最下層論文だけが集まり、IFがゼロ近くになるんじゃないか?とか)、バイオアーカイブの登場のときも(二重投稿とか新規性の問題はクリアできるのか?)、すごいな(というか、意味わからんな)と最初は思ったけど、両方ともうまく進んでいると思う。eLifeの試みも、長期的に何かしらの変化をもたらす気がする。とても興味深い!

懸念

 「ジャーナルブランドに執着している」点について、何人かの人と話をしたんだけど、結局、人を採用するときのジャッジにジャーナル名を使っていて、それが無いとほぼ不可能だ、という現状があると思う。研究費の採択なども同じかもしれない。仮に100人くらいの候補者の業績をザーッと比較して評価する際に、ジャーナル名がもし無い場合、分野が少し違うと評価できなくなるし、労力がハンパなく増えてしまう。なので、根本的にはそこを変えないとeLife誌の試みは広がって行かない気がするけど、変える方法が思いつかないし、労力だけがものすごく増えると思う。自分の専門分野ならなんとなくジャッジできても、専門から離れれば離れるほど難しくなるので、ジャーナルのリストがあったほうが簡単に評価できる。この代替案が思いつかない。
 
 たとえば誰かのプレゼンテーションを聴いたときに、近い分野であれば、どれくらいのインパクトがあって、どれくらいのジャーナルに載るだろうな、というのは直感的にすぐに分かる。つまり本質的には、ジャーナル名が無くとも、研究の重要性を理解できるし判断できる。なので近い分野であればジャーナル名やインパクトファクターなんて無くてもいいんだけど、少し分野が離れると分かりにくくなるのと、数が多い場合に難しくなってくる(たとえばある人の50報の論文業績の重要性を知る際など)。

 なので、既存のジャーナルは無くならない気がする。すべての論文が「プレプリント+公開レビュー」になったら、どうなるのか想像できないなぁ。自分はジャーナルブランドに執着しているのかもしれないけど(笑)。まあでもeLife誌もすべてのジャーナルが無くなることを想定していなくて、今回は試みの1つとして開始したという感じと思う。

以下、重要そうなところの簡単な和訳

eLife誌の宣言:Scientific Publishing: Peer review without gatekeeping
https://elifesciences.org/articles/83889?fbclid=IwAR1myuldfcphl6ajGv9wUiw-9rXIRhSPNt59goiw_KgoLaTq2qhI-0sLMhg

eLifeは、査読後のaccept/reject判定を廃止し、プレプリントの公開レビューと評価を重視した編集プロセスに変更します。
どこで出版するかではなく、何を出版するかによって評価される新しいアプローチ。ゲートキーパーとしてのジャーナルの役割を放棄する。
査読は不可欠なステップで、査読者が欠陥を特定し、修正する手助けをすることは価値がある。が、査読を出版決定に結びつけると、プロセスが歪む。著者は、不要と思われる実験や分析を追加し、自分が信じているアイデアや洞察を原稿から取り除いてしまう。

査読の内容は価値があるが、掲載が決定されるとすべて捨てられてしまう。査読者が指摘した、研究の長所と短所、インパクト、残された疑問、他の研究との整合性、波及効果など。
 
現在の科学出版のシステムは、ジャーナルが印刷や郵送にかかる費用を正当化するための、インターネット以前の時代の遺物だ。
インターネットは科学者同士のコミュニケーションを助けるために発明されたにもかかわらず、科学雑誌には驚くほど小さな影響しか与えていない。
インターネットにより印刷物の束縛から解放されたことを利用して、出版システムを一から作り直すべきだった。論文をpdfに置き換え、オンライン投稿・審査システムを構築したが、根本的なところは何も変わっていない。ジャーナルブランドへの依存が、イノベーションを阻害している。
 
著者は、準備ができたと思ったときに、自分の研究を自由かつオープンに共有できるべき。
査読は、すでに発表された論文に対する評価を行うべきである。
eLifeが現在行っている最大の変更は、査読後に採否を決定しないこと、査読者にaccept/reject判定を依頼しないことです。
私たちは、何よりもまず、科学にとって良いことだからこのような変更を試みている。


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