今更「メタバース」で成功するための、オタク的「前提」

メタバースという分野が、経済の急先鋒になりつつある。近年のバーチャルタレントの活躍など、すでにバーチャルが舞台のビジネスでは一日に百万や二百万のやりとりは当たり前になっている。市場として魅力的な舞台であると言える。

しかしながら、メタバース的なサービスは何もつい最近生まれたわけではない。まさに「メタバース」である「セカンドライフ」は二十年近く運営を続けており、人気クリエイターは「セカンドライフ」内でとっくの昔から収益を得ている。

八年前には「VRChat」が生まれ、ここでもクリエイターたちは多くの作品を提供している。
そしてそれらは個人制作の、利益を度外視したものも多い。

さも最新分野であるように持て囃される「メタバース」はこれら歴史ある先駆者を超えなければならない。「結局前の方が良かった」となっては、ブームの加熱は一過性に終わり、ユーザーは「古巣」に帰るだろう。

二月に発表された以下の記事の方が、「メタバース」市場の素人臭さを明確に読み取っていただけるだろう。
「Steamのゲイブはメタバースの現状と人々に懐疑的。「あいつらMMOもやったことないだろ」「まずはラノシアへ行け」と斬る」


"メタバースを喧伝する人々はしばしば「カスタマイズ可能なアバターが使えます」などの謳い文句を口にするとコメント。MMOもやったことがないのだろうと揶揄しつつ、「『ファイナルファンタジーXIV』のラノシア(地名)にいってみろ」との旨を述べている。つまり、投機的にメタバースを謳い文句にする事業者たちのアピールポイントは、MMO作品などですでに実現されているとの見解だ。"

Steamのゲイブはメタバースの現状と人々に懐疑的。「あいつらMMOもやったことないだろ」「まずはラノシアへ行け」と斬る

FFXIVというのは、株式会社スクウェア・エニックスが十年以上運営している大人気MMORPGで、現在、全世界に2500万ものアカウントが存在している。
まあ、つまり、この手の話題で「オタク」の筆者が言いたいことは引用の通りのことで、「何を今更」「それ、もうあるよ」というようなことである。

では、「メタバース」は一時のお祭り騒ぎで終わる「エリマキトカゲ」のようなものに成り果てるのだろうか。
必ずしもそうではない、と私は考える。
「セカンドライフ」や「VRChat」で活動するクリエイターの多くは、「金儲けに関心がない」と言える。純粋に、その仮想世界をよくするため、美しくするため、コストを厭わない、収益に執着しないクリエイターが人気である傾向がある。

単なるMMORPGであるFFXIVに関しても、少し前からゲームの操作性や難易度、コンテンツにはなんの関係もない「暮らす」要素が投入され始め、好評を博している。具体的には、ゲーム内天候が雨の時には傘をさすとか、好きな場所で音楽を演奏してパフォーマンスができるとか、そういうものである。ちなみに、天候が雨でも特にバッドステータスになったりするわけではない。傘をさしたかったらさせるというだけのことだ。楽器演奏も、別段やる必要はない。「できる」というだけのことだ。

詰まるところ、バーチャルビジネスを「カネのなる木」としか見ていない参入者はかなり早いうちに駆逐されるだろう。偉大なる先駆者を超えない限りは。

ユーザーが望むものは、「雨が降ったら傘をさせる」とか、そういう「くだらない不必要」の中にある。それを突き詰められる参入者は、大いに歓迎され、愛用するユーザーを多く獲得できることだろう。私がもう五年はFFXIVをプレイし続けているように。

いずれにしても、「今更メタバース」への参入は容易ではない。何せ、先述のように、一番古いものはすでに二十年前からあるし、「歓迎される不必要」は、「最低限の必要」が整った先駆者がすでに整備を進めているからだ。
彼らに追いつき、追い越し、かつ「なんだ、〇〇と同じか」と言われない斬新なアイデアは、そう簡単に生まれるものでもない。

それでも本当に、本気でメタバースに参入する計画を立てている企業各社のご担当者のみなさまにおかれましては、ぜひ一度、FFXIVの「ラノシア」、特に「リムサロミンサ」に行ってみて欲しい。あなたが「斬新だ」と思ったアイデアがすでに実装されているかもしれない。
なお、FFXIVは現在第五シーズンまでストーリーが進んでいるが、第二シーズンまでは無料で遊ぶことができる。

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