コレクティブ・インパクトをロジックモデルを使って実現しよう
地方都市の活性化や様々な格差への対応など、多くの社会的な課題を改善・解決していくためには、関係するプレーヤーの力を糾合し協力して取り組むことが必要である。個人・個社のみでは部分的な解決しか達成できず、場合によっては部分最適(全体非最適)となってしまう可能性もあるからだ。
こうした取り組みを概念化したのが「コレクティブ・インパクト」だ。多様化・複雑化した社会的課題に的確にアプローチし、着実にインパクトをもたらす枠組みとして注目されている。
【コレクティブ・インパクト(社会変化の共創)とは】
・異なるセクターから集まった重要なプレーヤーたち(ある課題に取り組むために必要なあらゆるプレーヤー)のグループが、特定の社会課題の解決のため、共通のアジェンダに対して行うコミットメント
・「これにより、参画しているプレーヤーはもともと持っていた個別のアジェンダを捨て、共通の目的を達成するために、それぞれの強みを活かしながら動き出す」
<コレクティブ・インパクトに必要な五つの要素>
①共通のアジェンダ
②共通の評価システム
(成果の測定手法をプレーヤー間で共有していること)
③相互に補強し合う活動
④継続的・定期的なコミュニケーション
⑤活動を支える支柱となるサポート
(これら全てに目を配る専任のスタッフがいる組織があること)
・John Kania and Mark Kramer, 「Collective Impact」 Stanford Social Review Winter 2011
・Harvard Business Review 2019年2月号 など参照
ただし、関係者が単に集まるだけでは烏合の衆であり、空中分解しかねないし、そこまで至らなくても効果的にインパクトを生み出すことは望みにくい。
また、「コレクティブ・インパクト」を目指したいが、どのようにアジェンダを設定し、それを確り共有すればいいのか、そもそもどのようなプレーヤーを集めればいいのか、集まったプレーヤーがどのような貢献をすることで共通のアジェンダに近づけるのか、分からない、難しいという話もよく耳にするところである。
そのような場合、目的とするインパクトを実現するためのロジックをしっかりと組み立て、「コレクティブ・インパクト」に必要な五つの要素を確保し一体感を持った活動にしていくために、インパクトに至る的確な道筋・手段を明らかにする「ロジックモデル」をうまく活用することが有効だ。
「ロジックモデル」を活用することにより、以下のように「コレクティブ・インパクト」の有効性を高めることができる。
①「インパクト」を実現するために必要な「インプット/資源」の検討を通じて、欠かせないプレーヤーや運営組織を特定することができる
②必要な「アクティビティ」の検討を通じて、行うべき相互補完的な活動やコミュニケーションを構想することができる
③目的とする「インパクト」、それを実現するための道筋となる「アウトカム」や「アウトプット」、また必要な「アクティビティ」などを明らかにし、プレーヤー間で共有することができる
④「アウトカム」や「インパクト」などの評価方法を共有することができる
これらを踏まえて、典型的な「ロジックモデル」と「コレクティブ・インパクト」の相互関係を図示してみると以下のとおりとなる。
このように「ロジックモデル」を活用しながら「コレクティブ・インパクト」を意識して社会的課題に取り組むことのメリットとして、以下のようなことが考えられる。
何らかの産業構造などにおけるプレーヤーが「エコシステム」を構成し、全体として機能する、ということは「コレクティブ・インパクト」を意識しなくともありうる。しかし、この場合、各プレーヤーは基本的には個社のアジェンダ・やりたいことを重視し、個社の利益を追求する「通常のエコシステム」である。
これに対し、「コレクティブ・インパクト」を意識し実践することにより、個社のアジェンダを一旦捨てて、共通の目的・アジェンダを設定することを通じて構築される「共通の目的・アジェンダを持つエコシステム」においては、より効果的・効率的に「インパクト」を実現できるのではないか、と考えられる。いわば、「意志を持つエコシステム」となるのだ。
また、社会的インパクトを生み出すことを目指すとしても、個社単独では(当然ながら)その個社のアジェンダの範囲での活動とならざるを得ないが、「コレクティブ・インパクト」を意識した活動においては「参画しているプレーヤーはもともと持っていた個別のアジェンダを捨て、共通の目的を達成するために、それぞれの強みを活かしながら動き出す」ようになるため、全体としてより広範で大きなインパクトが期待できる。また、複数のプレーヤーが密接にコミュニケーションしながら行う「アクティビティ」の中でイノベーション(オープン・イノベーション)が生まれやすいことも期待される。
複雑な社会課題が山積みの現代、「ロジックモデル」のようなツールを活用しながら、「コレクティブ・インパクト」を意識して社会的な課題に取り組むことで、大きな「インパクト」を目指していきましょう。