情報銀行はまずヘルスデータから始めよう。
個人に関するデータを、その個人の管理のもとに置きつつ、より一層活用する仕組みとして、「情報銀行」が注目されています。
生活やビジネスのデジタル化が急速に進むなかで、「データ」はデジタルの世界における行動記録でもあることから、「21世紀の石油」とも称されるほど、その価値が認めれらているのです。
しかしながら、情報銀行をビジネスとして軌道に乗せるにはいろいろなハードルがあり、一筋縄ではいきません。
本稿では、こうしたら情報銀行ビジネスが上手くスタートできるのではないか、というアイディアを妄想してみたいと思います。
情報銀行の課題、および打開する方向性
注目を集めている情報銀行ですが、特に以下の点には留意することが必要です。
ご参考 詳細過去記事:
「情報銀行は本当にワークするのか」
「情報銀行はデータコントロールを個人の手に取り戻せるのか?」
①必要な質と量のデータを、どうやって継続的に集めるのか
情報銀行については、あたかも十分なデータが既に揃っているような前提でビジネスモデルが描かれることも多いですが、ちゃんとしたデータを大量に集めるのは容易ではありません。
巨大な情報を保有しているAmazonやGoogleなどは、それが有用なデータであればあるほど、自分で独占してデータを活用することが得策であって、データを提供するインセンティブは一義的には湧いてきません。
また、膨大なコストをかけてデータを保存・活用する仕組みを作っているのですから、価値がありコストもかけているデータを無料で渡すことは考えにくいですよね。
「利用者のデータなのだから、渡すが当たり前」という意見もあるかもしれませんが、例えばAmazonであれば、利用者の購買記録は、Amazonと利用者との取引の記録であり、利用者のデータでもありますが、Amazonにとっても商売の記録であり自分のデータです。
突き放した言い方をすると、利用者がデータを使いたければ、自分でEXCELにでも入力しておけばいいのであって、Amazonがコストをかけて保管しているデータを無償で情報銀行に渡す、ということにはなりにくいのではないでしょうか。(加えて、Amazonは「注文履歴」として利用者が購入データを照会できる機能はちゃんと提供しています。)
仮にAmazonがデータを提供するとしても、それ相応の対価が必要となるでしょう。
②どのようにデータを使って収益・効果を得るのか
より一層大事なのが、どうやって集めたデータで収益をあげるのか、です。雑多なデータをたくさん集めたとしても、それが何らかの役に立つのでなければ、誰もそのデータを購入しません。データが売れなければ、「仕入れ」にお金をかけることもできません。
ビジネスとして成り立たせるには、そのデータを活用することによって、誰かが金銭的に儲かる、あるいはサービスを向上することができて(すぐ直接的には金にならないとしても)全体として評判が上がり引いては収益も拡大する、または金銭的な儲けにはならないが社会福祉・世の中の役に立つ、などの効用が必要です。
普通の(お金の)銀行が「預金としてお金を集めて、それを貸し出して収益をあげる」ように、
情報銀行が「データを集めて、個人のコントロールの下でそれを活用して収益をあげる」というのは、デジタル化に伴ってデータが爆発的に増えているなかでは簡単そうなイメージがあるかもしれませんが、このような点をよくよく考えるとなかなか一筋縄ではいきません。
その打開策として、「健康・ヘルス関連のデータ」からビジネス化していけばいいのではないか、というのが本稿の妄想です。
健康・ヘルス関連のデータとは
健康・ヘルス関連、と一言で言っても、具体的にはどんなデータなのでしょうか。
まずは、健康診断や人間ドッグのデータです。健康保険組合が運営する年一回の健康診断を受けている人も多いと思います。それ以外に、自治体が推奨している場合や、個人で自主的に検査を受けている場合もあるでしょう。
アレルギー検査やCTスキャンやMRIなどの画像データも含みます。今後は遺伝子・ゲノムのデータなんかも入ってくるでしょう。
次に、昨今急速に進化している各種センサーや計測機器を活用したデータ取得です。心拍数や血圧、血糖値や体温、睡眠、また一日の歩数や運動量など個人が取得できるデータはどんどん増えていますね。
参考note:「もうすぐこうなる!?ヘルステックで究極の健康管理。」
更には、病院での受診・治療(含む投薬)のデータです。電子カルテやレセプトになっていると収集しやすいですね(電子カルテになっていても、書き方がお医者さんによってマチマチ、ということもあるようなので、この辺りの標準化を進める必要があります。)
今後は、デジタル化によりセンサーやカメラを使った診断(リモート診療を含め)が普及してくると、そもそも電子データになっている診断情報が増えてくるでしょう。
最後に、個人個人からアンケートなどで収集するデータです。喫煙有無や飲酒の状況、センサーで計測できていない運動の状況などです。健康診断とセットになっているケースもあるでしょう。
では、このような健康・ヘルス関連のデータから情報銀行ビジネスを始めるとよい、というのは何故でしょうか。
ヘルスデータから始める理由 その1
何と言っても、健康・ヘルス関連のデータは役に立ちます。
①個人情報がついたまま、個人の情報として活用する場合
健康診断などのデータ、毎年取得できるのであればその経年変化、それに運動量や診療履歴などを合わせて、将来は遺伝子データも組み合わせて、個人個人へのアドバイスが可能になります。
食事に関するアドバイス(特に注意して摂取すべき栄養素、逆に避けるべき栄養素、摂取カロリーや食事の時間帯など)、また運動に関するアドバイス(消費カロリーや運動量、体重や運動習慣を踏まえた段階的なレベルアップ推奨など)が想定できます。
情報銀行で運営することで、個人が安心できるかたちで、多種多様なデータを集約し、それを掛け合わせて分析することで、質の高いアドバイスが期待できるでしょう。
こうしたアドバイスの担い手としては、情報銀行に加えて、スポーツクラブやヘルステック関連の健康支援スタートアップなどと連携することが想定されますね。
また、生命保険会社にデータを提供すると、頑張って健康を維持している人は安い保険料が享受できるでしょう。逆に、不摂生をしている人は保険料が上がってしまうかもしれませんが。
②個人情報なし、の統計データとして活用する場合
統計的なデータとして、個人個人が判明しない形で提供することによって、大学や医療機関における研究・分析、健康食品会社や製薬会社における商品開発、スポーツクラブやヘルステック関連企業におけるサービスメニュー開発、保険会社におけるリスク分析などに活用できるでしょう。
ヘルスデータから始める理由 その2
情報銀行にとっては、質の高いデータを十分な量で入手することが大切ですが、先ほど書いたとおり、必ずしもこれは容易ではありません。そうした中で、健康・ヘルス関連であれば、例えばAmazonやGoogleなどの取引データ・検索データと比べると、データ入手がしやすいのではないか、と考えます。
情報銀行のデータ入手は、大別すると、
・データを保有する事業者・団体などから入手
・新たに生み出されるデータを入手
の二通りがあります。
ヘルスデータにも、この二通りがあります。
健康診断や人間ドッグなど各種検査のデータ、また病院での診療・治療データは、健康保険組合や検査機関、病院などが保有しています。
もちろん、これらのデータを提供してもらう手配・調整、運営が必要ではあるのですが、AmazonやGoogleなどと異なるのは、これらのデータは元々、その個人の健康増進や改善のためにあることです。
その目的のために、情報銀行の枠組みでデータを集約しましょう、活用しましょう、というのは、そもそものデータの存在価値に沿ったものであり、推進しやすいのではないでしょうか。
典型的には、健康保険組合などは、そのデータを有効活用することによって、組合員である個人がより健康になるのであれば、組合運営の目的に沿うことになるでしょう。
病院、特にカルテなどが電子化されていない病院については、対応は相応に大変だとは思いますが、Quality of Lifeの向上、予防医療の増進を旗印に、電子化・標準化を推進することが期待できます。
また、診断機器のデジタル化が進展することによって、電子データがそもそも増えてきます。
一方、センサーなどにより新たに生み出されるデータが今後爆発的に増えてくることが想定されます。
既に、腕時計型のセンサーなどにより、心拍数や歩数などの各種データが日々生まれてきていて、これらのデータを集約する仕組みを整えれば、どんどんデータが蓄積されていきます。
加えて、個人からのアンケートデータなども集めることができます。
こうした新しいデータは、集めて活用することを前提に最初から流れを作ることができるので、既にどこかにあるデータよりも、集めやすいと考えられます。
そうは言っても、
一足飛びに全てのデータ収集の仕組みを整えることは難しいかもしれませんが、データ活用による効用を確認しつつ、一つ一つ段階的に整備していくことが展望できるでしょう。
社会全体への貢献
ここまで書いてきたようなデータ収集と活用の仕組みを構築していくことを通じて、民間で収益化するようなデータの使い方に加えて、社会全体の役に立つようなデータ活用も展望できます。
個人個人の健康意識やヘルスケアサービスのレベルアップ、未病におけるアドバイスなどによって、予防医療の一段の向上が期待できるでしょう。これは、医療費の抑制・削減を通じた社会保障費の抑制につながります。
更に大事なこととして、何よりも、一人ひとりがより健康に過ごせることの価値は大きいですね。
なお、
歩行データを蓄積・活用する情報銀行構想が既にあるほか、ヘルスケア関連のスタートアップなど可能な範囲でデータ収集・活用している組織・ビジネスも既にあると思います。
こうした既存の構想・取組みを踏まえつつ、「情報銀行」の枠組みとすることで個人が安心できるかたちで、健康診断など各種のデータを統合してより一層の活用が図れるのではないか、ということで、ここでは「情報銀行」を通じた健康・ヘルス関連データの活用、を妄想してみました。
せっかく蓄積されている、健康関連の各種データをフル活用して、みんながそれぞれもう少しずつ、元気に暮らせるといいな、と思います。
最後までお読みいただきありがとうございました。
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