前世が魔王だったことを思い出して最強の力を得たけど、そんなことより充実した高校生活を送りたい 二話
俺が彼女に渡したのはただの水ではない。アイテムボックスに詰めていたコレクションのひとつ。
『傷や万病を治し、人間の能力を大幅に引き上げる幻の神水』だった。
勝手に実験台にしたのは申し訳ないけど死にたいって言ってる人だしさ。ワ
ンチャン病気が治るかもしれないんだから別にいいよねっていう。
ちなみにこの『傷や万病を治し(以下略)』の瓶はまだ×999以上ある。
彼女に使って効果があれば、いざというときのお小遣い稼ぎに使うつもりだ。
「どうですか? 調子はよくなりましたか?」
「はい、ありがとうござい――あれ……?」
パーカーの少女は喉を触り、胸元を撫で、大きく息を吸い込む。そして、
「調子がよくなってる!?」
先ほどまでよりもよっぽど覇気に満ちた声を出したのだった。
「呼吸しても苦しくないし、それどころか身体がすごく軽くて、むしろ病気になる前より体中に力が漲ってるような……!?」
うんうん。貧弱だった魂の気配がぐいんぐいんと増幅していくのが感じ取れる。異世界のアイテムは地球人にも十分な効果を及ぼすようだ。二度と会うこともない相手を都合よく見つけて検証できた上に人助けもできた。これぞ一石二鳥。
「多分治ってると思うけど、念のため明日にでも病院で見て貰って下さいね」
「信じられない……どの医者にも完治しないと言われたのに……。もしかしてこれが……? わたしが飲んだものは一体……!?」
パーカー少女は俺が手渡した小瓶をまじまじと見つめた。
「そこら辺は聞かないでくれるとありがたいですね。できれば他言することも……」
「は、はい! それはもちろん! あ、ありがとうございました!」
激しく首を縦に振ってらぁ。めっちゃ恐縮されている。
懐かしいこの感じ。魔王だった前世以来だな。
「そ、そういえばさっきもあの大きな熊をよくわからない方法で追い払ってたし、あなたはもしかして――」
熊を撃退したときのことに触れてこないから忘れていたが。そういや魔法使ってるのバッチリ見られてたな……。もういいや、開き直って白状しよう。冗談と受け取られる可能性に懸ける。どうせもう会わない人だ。
「そう、ここだけの話、俺は魔お――」
「山の神様なのですか!?」
すごい勘違いをされた。まあ、山奥で夜中にいきなり現れたやつが超常的な現象を引き起こしたら人間じゃないと思うのも無理ないが。
それにしたって神様とは……。前世で俺を倒そうとしてきた勇者たちが知ったらどんな顔をするだろう。ちょっと見てみたい。
「ああ、わたしはどうすれば神様が起こして下さった奇跡に報いることができるのでしょう? 貴方様を崇める特定の宗教があるなら是非とも入信させて頂きたいのですが!」
なんか面倒なこと言い出した。というか、肯定してないのに俺のことを神だと確定しちゃってる。ハマりだすと深くいっちゃうタイプの女だったか……。しょうがない。適当にそれっぽいことを言って宥めよう。
「俺は宗教とかにはなってない存在です。だから、そういうのには入らなくて結構です。清く正しく美しく。まあ、そんな感じであなたが強く生きてくれればそれで十分ですよ」
「はい! 神様っ! わかりました!」
フードで表情は見えないけれど。尻尾とかついてたらブンブン振ってそうな勢いで返事をされた。本当にわかったのかな? この体験が原因でカルトにハマったりしないよね? 俺は自分が宗教になってないって言ったからな?
入信しても、それは別の何かを奉ってるやつだから自己責任だぞ? まあ、彼女のことはもういいだろう……。河川敷に来た目的も果たしたし、さっさと帰ろ――
「…………」
「どうされたんですか?」
俺は転移で少女を地元の駅前に送り届けてから帰宅した。
面倒見る義理はないけど、夜の河川敷に女性を放置していくのは鬼畜すぎるからな。
数日後。俺はリビングでテレビをなんとなく見ていた。
すると、どこのチャンネルも病気で活動休止していた人気アイドルユニットのセンターが復帰したというニュースを大々的に報じていた。
ふーん、アイドルとかよく知らんからどーでもいいなぁ……。
俺はプチっとテレビを消し、昼飯の準備に取り掛かるのだった。
◇◇◇◇◇
長かった停学期間が終わった。やっと今日から学校に通えるんだ!
超楽しみ! 俺は従姉に『お勤めご苦労様でした』と言われながら見送られて家を出た。
学校に着いたぞ。
自分の下駄箱を忘れてて少し焦ったけど無事に見つけられたぜオウイェー。
まずは職員室へ向かう。
停学明けは最初に寄ってねって言われてたのよ。
職員室で担任の先生と面談。ちょっとばかし話をする。
先生から非常にありがたい御言葉を頂戴して数分後に退室。
俺は教室に向かった。
「…………」
一ヶ月ぶりに自分の教室に入った。
おお、同年代の少年少女が集まっている教室だ……。
足を踏み入れることで実感する不慣れな空気。
地元の分校とはまったく違う人口密度と景色。
今まではテレビや漫画や小説のなかでしか知らなかった世界。
圧倒される。だけど、ドキドキもしている。本当に俺は都会の学校に来たんだ……!
「…………ん?」
な、なんだろう。教室に入った瞬間にすごく視線が集まって、あっという間に目を逸らされた。努めて見ないようにされている気がする。
得体の知れない疎外感を覚えながら、俺はふと思った。俺の席はどこだ……? 入学式で出席番号順に座った席は覚えている。
だが、当時とは前後左右の顔ぶれが違う。恐らく席替えが行われている。新しい俺の机の位置がわからない。ど、どうすれば――
「お前の席は窓際の列の一番後ろだよ」
困っている俺に話しかけてくる者がいた。須藤だった。入学式で会話をした、あの須藤であった。久しぶりだなぁ。一ヶ月もご無沙汰だったが、俺のことを覚えていて声をかけてくれたのだ。
初っ端から停学していた俺にとって、このクラスで知っているのは入学式で会話した彼だけである。できれば他の級友たちと顔を繋いでくれないものかと期待する。
そういえば街を案内してくれるとか言ってくれてたっけ。それもまた楽しみだ。
「新庄、お前やっちまったな……」
須藤が大きく溜息を吐いた。俺は何のことかわからず首を傾げる。
もしかして停学になったことか?
「そうだな、休んでいたぶん授業を受けてないから追いつくのが大変そうだ」
「違う、そうじゃない!」
「へ?」
「お前は花園一派の恨みを買っちまったんだよ……」
須藤曰く。不良ってのはメンツをとても大事にする生き物らしい。
ボスの花園が入院しているとはいえ、舎弟どもがやられたまま黙っているはずはない。
復学したからには必ずや俺に報復を仕掛けてくるだろう――と。
「みんな、お前が教室に入ってきたときに目を逸らしただろ? 関わりたくないんだよ、四天王の不良に睨まれてるやつとは……」
須藤は声を顰めてそう言った。
なるほど、さっきの違和感はそういう腫れ物扱いが引き起こした現象だったわけか。
「えーと、四天王って確か……香取慎吾ってやつだっけ?」
「花鳥風月な。しかも、お前が喧嘩を売った花園は実家がヤバい」
「実家?」
「そうだ、ヤの付く自由業だ。花園はそこの跡取り息子なんだよ」
どうやら俺が大怪我をさせた四天王の花園はゴック・ドゥーの一族だったらしい。
マジでか……。だからみんな余計にビビって寄ってこないのか。
でも、須藤は話しかけてくれた。つまり、他のクラスメートとは違って俺とまだ――
「オレだって辛いんだ……。けど、ホントマジで。ヤーさんに目をつけられて人生終わるのだけは勘弁だから! そういうわけですまん!」
須藤はシュタタタッと華麗に去っていった。
俺がいない間に作ったらしい他の友人たちのもとへ……。
「…………」
ふっ、呆気ないもんだ。
まあ、入学式に少し話しただけの関係だから仕方ないか……。
そもそもあいつの制止を振り切ったのは俺だし。
自業自得と割り切るしかない。ぐすん。
「…………」
教室の窓際の一番後ろ。
ラノベやアニメで主人公がよく座ってる場所が俺の席だ。
しかし、俺は一人。教室にはたくさん人がいて楽しそうに喋っているのに俺は一人。
くそぉ……。いきなりのマイナス学園生活。
いきなりなのはステーキだけで十分だよ。
ただでさえ入学して一か月が経って、溶け込むには難易度高い状況だったというのに。
大いなる誤算。俺はどうすりゃいいのだ?
結局、停学明けの初日、俺は誰とも交友を深めることができなかった。友達を作ることができなかった。
ハァ……。
従姉に『どう? 学校は楽しかった?』とか訊かれたら地獄だな……。
そういう普通の会話をしてこない人だから大丈夫だとは思うけど。
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