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ウロキの使えない今、膿胸の線維素溶解療法は?

急性膿胸に対する線維素溶解剤のイマ

肺炎随伴性胸水もしくは膿胸で、ドレナージだけでは改善しない、隔壁のある症例って、困りますよね。

もちろん手術適応であれば、手術をして良くなってもらえるのが一番だけど。
そうじゃないことも多いのがこの領域。
溶解剤は全部IRB案件なのが、使用ハードルのある所。
膿胸治療ガイドライン(https://jacsurg.gr.jp/info/archives/news202209_03.pdf
においても、
「推奨は「急性膿胸に対して線維素溶解剤を胸腔内注入することを弱く推奨する」ことが想定されたが、国内では薬剤が膿胸治療に対して承認されておらず適応外使用となるため推奨度決定不能とした。」
と、気持ちだけは伝わる記載。

ウロキナーゼの供給困難

そもそも、事の始まりはコロナのせいで。
ウロキナーゼは、ヒト尿から分離精製して得た糖蛋白質。
(発売当初は、国内で尿を収集していたが)現在は中国の尿を用いて中国で原薬中間体を製造し、ドイツで最終原薬を製造。
しかし、中国での近代化策+新型コロナウイルスによる採尿機会の激減+海外での需要拡大
→安定供給困難になったとのこと。

https://med.mochida.co.jp/etc/img/uk6202202.pdf

t-PAってどうなの?

エビデンスのある「t-PA+DNase」は、国内で使えない合わせ技

t-PAとは、tissue-type plasminogen activator=組織型プラスミノーゲン活性化因子で、rt-PA=アルテプラーゼ(アクチバシン®️)が国内で流通している。(急性膿胸には適応外)

DNase (Deoxyribonuclease=ヒトデオキシリボヌクレアーゼ=DNA 分解酵素)(Pulmozyme, Roche)は、「嚢胞性線維症における肺機能の改善」目的に使用される遺伝子組換えヒトDNA 分解酵素製剤「プルモザイム® 吸入液 2.5 mg (有効成分:ドルナーゼアルファ)」としてのみ国内に流通しているのみ。急性膿胸に関する海外の報告(MIST2)[1]でもドルナーゼアルファ 5mgが使用されていたが、国内のものは吸入液であり、規格が異なる。つまり、DNaseは流通さえしていない。

ここで、MIST2 [1]の結果だが、
210 例の急性膿胸に対して 4 つの治療群で RCT を行った。
①t-PA+DNase
②t-PA 単独
③DNase単独
④placebo
t-PA+DNase 療法は膿胸による胸腔内残存腔を改善し、手術介入率低下と在院日数減少に効果を認めたが、各々の薬剤単独では無効だった。
…という事で、DNaseが国内で使えない現状では、有力候補にはなり得ない、という事になる。

MIST2ではダメだったけど、t-PA単独で良かった報告は?

そうはいっても、t-PAだけでも、結果が良い報告もある。[2]
膿胸(empyema)17人と複雑性肺炎随伴胸水(complicated parapneumonic effusions (CPE))51人に対して、アルテプラーゼもしくはプラセボ胸腔内投与。
アルテプラーゼ群:
 95% (32/35)がResponded(膿胸 100%(12/12)、PPE 87%(20/23))
プラセボ群:
 12% (3/32)がResponded(膿胸 0%(0/5)、PPE 14%(4/28))

*プラセボ群は膿胸4人、PPE22人がその後アルテプラーゼ治療を行なわれ(クロスオーバー)、その全例が軽快した。(含まれていない症例はRefused)

t-PAの胸腔内の投与方法は?

上記Thommi Gらの報告でのt-PA投与方法は、
アルテプラーゼ25mg  1日 1回 3日間。

アクチバシン®︎添付文書より「アルテプラーゼ(遺伝子組換え)の1mgは58万国際単位(IU)に相当する。」(https://pins.japic.or.jp/pdf/newPINS/00000219.pdf)とのことなので、1450万IU投与していた事になるか。

ちなみにMIST2での、t-PA単独での投与方法は
アルテプラーゼ10mg  1日 2回 3日間。(10mg=580万IU)

Alemán Cら[3]は、
アルテプラーゼ 10mg 1日 1回 1-6日間。
当初アルテプラーゼ20mgを投与していたが、出血事象により減量せざるを得なかったとしている。(20mg投与群で5例(28%)、10mg投与群で4例(12%)が重篤な出血事象)
99名(アルテプラーゼ51名、ウロキナーゼ48名)を対象に、3日後と6日後の成功率を比較、有意差はなかった。死亡率や手術の必要性にも有意差はなし。
しかし、膿性のないCPPEのサブグループでは、ウロキナーゼが高い割合で治癒に至った事から、CPPE患者にはアルテプラーゼよりもウロキナーゼの方が有効で、有害事象の発生率も低い可能性が示唆された。

炭酸水素ナトリウム(NaHCO3)がエジプトでアツイ

炭酸水素ナトリウムの効能(仮説)

抗菌効果(細菌のバイオフィル形成の減少、細菌の膜透過性の変化で生存低下)、抗血栓能力(カルシウムイオンがNaHCO3によってキレートされ、フィブリノーゲンからフィブリンへの変換を阻害)がある。[4]

Zayed NEらの報告[4]

膿胸に対する胸腔穿刺で、穿刺の最後に
ウロキナーゼ(10000UI/50mL
)もしくは
NaHCO3(50 mEq/50mL)
を胸腔内
に投与。
おそらく抜き差し…で治療している。
The rate of repeated therapeutic thoracentesis successはウロキ・NaHCO3での成功率に有意差なし。(抗菌薬投与期間や発熱持続期間も両者で有意差なし)

メイロン静注8.4%®︎は1mEq/mlだから、50ml投与すれば良い事になる。

https://pins.japic.or.jp/pdf/newPINS/00055503.pdf

抄録のみだが、El-Hadidyらは、
35人のCPEと膿胸患者を対象に
A群(18名):胸腔鏡手術中・術後に200mlのNaHCO3 8.4%による洗浄
B群(17名):胸腔鏡手術中・術後に500mlの生食による洗浄
を行い、結果は
A群では16名(88%)が全軽快、2名(12%)が部分改善
B群では12名(70%)が全軽快、5名(30%)が部分改善
入院期間はA群2.94±1.11日、B群5.06±1.34日で、
有意にNaHCO3群の成績が良好だった。
と報告している。[5]
*こちらはメイロン200ml

それで、今後はどうする?

答えはありませんが、抗生剤+ドレナージで改善がない場合、VATSが低侵襲になってきていることからも、手術のハードルがさらに下がり、局所麻酔下なども併用した洗浄・掻爬がさらに要求されることが想定されます。
また、t-PAよりも、価格・安全性の観点から、日本でもメイロン投与について、検討されていくのではないでしょうか。

[Reference]

[1] Rahman NM, Maskell NA, West A, et al. Intrapleural use of tissue plasminogen activator and DNase in pleural infection. N Engl J Med. 2011;365(6):518-526. doi:10.1056/NEJMoa1012740

https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/nejmoa1012740

[2] Thommi G, Shehan JC, Robison KL, Christensen M, Backemeyer LA, McLeay MT. A double blind randomized cross over trial comparing rate of decortication and efficacy of intrapleural instillation of alteplase vs placebo in patients with empyemas and complicated parapneumonic effusions. Respir Med. 2012;106(5):716-723. doi:10.1016/j.rmed.2012.02.005

[3] Alemán C, Porcel JM, Alegre J, et al. Intrapleural Fibrinolysis with Urokinase Versus Alteplase in Complicated Parapneumonic Pleural Effusions and Empyemas: A Prospective Randomized Study. Lung. 2015;193(6):993-1000. doi:10.1007/s00408-015-9807-6

[4] Zayed NE, El Fakharany K, Mehriz Naguib Abozaid M. Intrapleural Instillation of Sodium Bicarbonate versus Urokinase in Management of Complicated Pleural Effusion: A Comparative Cohort Study. Int J Gen Med. 2022 Dec 21;15:8705-8713. doi: 10.2147/IJGM.S388488. PMID: 36575733; PMCID: PMC9790168.

[5] El-Hadidy, T. A., Elbadrawy, M. K., & Hewidy, A. (2017). Medical thoracoscopic pleural lavage by sodium bicarbonate in complicated parapneumonic effusion and empyema.


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