日本人が安定志向になる理由
またまた、イブリースさんが面白い記事を書いた。安定志向、レールから外れることを極度に恐れるのは、東大は無関係で、日本の就活・採用システムが根本原因であるという論だ。私も、それは正しいと思う。私の考えを書いてみたい。
アメリカやヨーロッパでは、実は、新卒での就活よりも、中途での転職のほうが簡単だ。欧米では、新卒の場合はインターンシップでスキルを磨くか、よほど専攻が実務寄りでないと、就活は苦戦する。特にヨーロッパでは、若者の失業率は20パーセント近くになる。そのため、日本の若者(新卒者)は、欧米よりも有利である。
一方で、日本の場合、苦戦するのは転職だ。とびきり成果をあげている営業や、専門性の高いITエンジニアなどでないと、日本においては転職活動で苦戦する。しかも、無事転職できても、新卒からの生え抜きよりも年収や出世で不利になることが多い。
※最近、やっと、一部企業で転職組を優遇しているものの、まだマジョリティではない。
このため、日本においては、「新卒就活」は得で、「中途での転職」は不利だから、なるべく長く新卒で入った会社にしがみつくのが合理的になってしまうのだ。これは、会社と社員、双方にとって不幸だ。嫌な会社にしがみつく社員も、そんな社員に給料を支払う会社も、良いとは思えない。ただし、新卒の若者を積極的に採用して育てる日本の採用手法のおかげで、若年失業率が欧米の半分以下であることも、また事実なのだ。
個人的な話をしよう。中国のIBMからアメリカのIBM本体に異動し、その後日本にきて起業した中国人の社長と会話したことがある。その人は「日本人は本当にリスクを取らない。これでは中国人に負けてしまう」とおっしゃっていた。まあ、それは、中国の固有の仕組みがあると思う。まず、中国では、欧米と同じで、新卒の就活は極めて厳しい。一流大学卒業であっても、内定できないのはザラだ。これは、中国の場合は大学進学率が急速に高くなったため、大卒にふさわしい雇用が少ないことが原因ではないかと推察する。実際、昨今の中国は公的資本形成つまりは公共投資のインフラや、マンションなどの不動産建設が経済成長に占めるウェートが高かった。
「安定したレールが少ない」これが中国の特徴だ。それならば、一か八かで起業する人も出てくるだろう。日本の場合は「安定したレール」が欧米や中国よりも多くて、しかも「レールから外れると徹底的に干される、再就職できない」のだから、チャレンジするのが怖いのは当たり前だ。日本も、失敗した人に優しい、再チャレンジできる社会にしないと、このまま安定志向の人ばかりでチャレンジする人は少ないままであろう。