小説:高偏差値女子高生が宮大工に弟子入り?!

私のブログの初期は、小説も多く書いていた。その後、ビジネス・学歴・経済に大きく重点を移したが、久しぶりに小説を書いてみたい。

※この作品は完全なフィクションであり、誰か実在の人物と関係があることは一切ありません。

綾子は、女子高生だ。奈良県の名門とされる高校、西大和学園に通っている。綾子の父、智也は、宮大工だ。東大寺や伊勢神宮など、日本古来の寺社の修理の仕事で忙しい毎日を送っている。多くの弟子を持ち、弟子の指導にも大忙しだ。

綾子は、父の仕事に尊敬の念を抱いていた。しかし、父からは、「俺の仕事は肉体労働で大変だ。綾子は、普通に名門大学、例えば京都大学へ行って、普通のキャリアウーマンになってほしい」と言われていた。綾子は言われた通り勉学に励み、西大和学園中学校に合格、今は高校3年生だ。京都大学文学部もA判定が出せるほど学力が高かった。

綾子が、日本史の論述問題の復習をしていた時、ふと、思うところがあった。

「お父さんがしている神社や仏閣の修理の仕事・・・もっと知ってみたいわあ。東大寺の修理ってどんな風にするんやろ?」

綾子は、父に話を聞いてみた。

「ん?綾子は、受験勉強に専念しなさい」

「そんなこと言わんといて!興味があるねん!」

「しゃあないな、じゃあ、俺の工房に来い」

普段は、入れてくれない、工房を見せてもらった。そこには、神聖さが感じられるような、美しい白い木がいくつも保管されていた。

「宮大工の仕事ではな、釘を使わへん。当時の技術で、修理するんや。こんな風に、木と木をなじませて、はめ込むんや」

智也がやってみせた。すると、木が声をあげているように、こすれる音がした。

「・・・どうや・・・木が生きとるみたいやろ?木はな、切ったあとも生きとるんや。それで、修理に使われた木材は、お寺や神社の一部として、ずっと生き続けるんや・・・俺は、この仕事を誇りに思うとる」

木の香りが鼻に入ると、なんだか不思議な感じがしていた。木の温もりが、自分の身体の中に入ってくるようだった。綾子の中で、何かが変わろうとしていた・・・このまま、京都大学へ進学して、エリートキャリアウーマンになって、いいのだろうか?そのように感じていた。

「お父さん、私、京大を受けるのやめる!私を弟子にしてください!」

智也は、自分の娘が、いったい何を言っているのか、一瞬、理解できなかった。10秒ほど経過しただろうか、智也は、口を開いた。

「アホかあ!お前、京大受験のために今まで、なんぼお金をつぎ込んだと思うとるんや!それに、お前も今まで努力してきたやろ!生半可な思い付きでおかしなことを言うな!」

智也はそう言うと、自分の部屋に閉じこもってしまった。だが、自分の心の中で何かが変わり始めた綾子は、それを止めることができなくなっていた。

・・・西大和学園の教室。いつものように登校した。ボーイフレンドの颯太が話しかけてきた。

「この前の京大模試どうやった?俺は京大経済学部がB判定やった。綾子なら余裕のA判定やろうな!」

「私、京大受験をやめようと思う」

「なんやて!一緒に京大へ行こうと約束したやないか!」

「私、お父さんの宮大工の仕事を継ぎたいねん!」

「え・・・だって、今まで一生懸命、京大受験のために勉強してきたのは、なんやったんや!」

「もうええわ!あんたの話は聞きたくない!」

「ちょ、ちょっと待てよ!もう少し話を聞かせてくれ!なんで、宮大工に興味持ったんや?京大へ進学して、エリートキャリアウーマンになる言うてたやんか!」

「それは、お父さんが言うから、その通り言うてただけや!やっぱり、私は宮大工になりたいねん!」

「待てよ!まずは、京大へ進学してから考えてもええんちゃうか?京大文学部で、日本文化や日本の伝統を研究しながら、修行してもええやんか!」

「あかんねん、宮大工は、泊まり込みで修行せなあかんねん。京大の勉学と両立できへんねん」

「よし、そやったら、俺が文学部志望に変更したるわ。俺が授業のノート全部とったる!それで、宮大工の修行と両立せい!お前のためやったら、何でもしたるわ!」

「颯太・・・あんた・・・ほんまに好きやわ・・・」

「俺もや・・・お前のためなら、死んでもええくらいや」

二人は、周囲の同級生の視線も気にせず、抱き合っていた・・・。

週末、二人は智也の工房を訪ねた。

「・・・ということなんです、綾子は京大へ進学するので、宮大工になるのを認めてください!」

「・・・おい、颯太、お前、綾子と半端な気持ちで付きおうとるんやないんやな?本気なんやな?」

「はい、綾子と、将来は結婚する覚悟で付きおうてます!」

「・・・颯太・・・うれしい」

「・・・よし、ほんなら、京大に受かったら、宮大工の修行を許可する!」

「ありがとう、お父さん!」

その後、綾子は迷いがなくなり、今までにもまして、京大受験に向けて猛勉強した。颯太も、一緒に合格できないと二人の夢がかなわないので、猛勉強した。難しい数学の問題などは、二人で教えあったりした。

・・・運命の京都大学の二次試験の日がきた。二人は、共通テストは得点率90パーセント以上を確保していた。あとは、二次試験で失敗さえしなければ、合格できるはずだ。

綾子は、特に問題なく、全ての科目を回答できた。颯太のほうは、英語でミスをしてしまった。

合格発表の日がきた。二人は、京都大学のキャンパスに来ていた。

「・・・あった!颯太!私の番号あったで!」

「・・・あ、俺の番号もあった!やった!」

二人は抱き合っていた。そして、涙を流していた。二人で勝ち取った京都大学の合格だった。

二人は、事前に相談して、語学も専門科目も、全て同じものを履修することにした。そうして、颯太が綾子の単位取得を強力にバックアップする体制がとれた。

綾子は、無事、宮大工の修行に専念できることになった。朝早くから起きて、道具の整備や、食事の準備から始まり、木材の扱いなどを覚えていた。

・・・しかし、試練の時がきた。颯太は、新入生歓迎の飲み会で、みょうに言い寄ってくる女子がいて、誘惑されそうになっていた。

「私、香蓮っていうの。サークルは、テニスサークルに入っているの。颯太くんと一緒にテニスをしたいわ」

「・・・いや、俺には彼女がいて・・・」

「でも、その彼女、ほとんど京大には来ないんやろ?私に乗り換えてもええんちゃう?」

「・・・いや、俺は・・・」

香蓮は、颯太の腕を自分の胸に押し付けた。どうにも理性が働かなくなった颯太は、そのまま、香蓮にキスしてしまっていた・・・。そして、アルコールもあったため、京都市内のホテルに二人で行ってしまった・・・。

翌日、綾子のスマートフォンに、怪しげな宛先から連絡がきた。

「あれ、なんやろ?画像かな?」

開いてみると・・・颯太と、知らない女性が一緒にベッドにいるところを、女性が自撮りしている写真だった。

「ちょっと・・・何これ!あいつ、私のためなら死ねる言うてたやんか!あの嘘つきが!」

綾子は激怒し、颯太の家に直行した。

ピンポーン・・・インターフォンがなった。

「・・・昨日は・・・俺はなんてことを・・・それにしても、うるさいなあ、誰や・・・あ・・・綾子・・・」

鬼の形相をしている綾子が戸口にいた。

「・・・や、やあ、どうしたんや?」

「どうしたも、こうしたもないわ!私が修行している間、あんた、他の女と寝たやろ!」

「・・・なんのことや?」

「画像が届いたんや!」

綾子は、スマートフォンの画像を颯太に見せつけた。

「え、なんで・・・」

「ちょっと!家に来て、説明してもらうからな!」

綾子は、颯太を連行し、自宅に到着した。

智也は、前日の仕事が夜遅かったので、眠っていた。が、何やら騒がしく、起きてしまった。

「なんや・・・綾子が騒いでるんか?」

「お父さん!こいつ、浮気しよったんやで!」

まるで、犯罪者のように連行された颯太が、半泣きの顔で弁明した。

「すみません・・・つい・・・あの子に誘惑されて・・・」

「お前、綾子と真剣に交際しとるって言ってたくせに!」

智也は、殴ろうと拳に力をこめたが、やめた。

「お父さん・・・」

「実は、俺も、お前の死んだお母さんがおるのに、一度だけ浮気してしまったことがあるんや・・・それでも、許してもらったんや・・・」

「そうやったんや・・・」

「おい、颯太!」

「・・・はい」

「お前、京大辞めろ!」

「え・・・」

「お前、京大におったら、またその女と付き合うかもしれんやろ!お前も宮大工として鍛えたる!それが、許したる条件や!」

「そんな・・・せっかく京大に受かったのに・・・」

「なんやと?綾子より京大のほうが大事なんか!?」

「わかりました、宮大工になります!そして、二人で幸せな家庭を築きます!」

「修行はめっちゃ厳しいぞ!朝はよから、夜遅くまでずっと修行や!覚悟せい!」

「・・・はい!」

「・・・颯太・・・京大を辞めてまで・・・ありがとう」

それからというもの、二人は宮大工の修行に明け暮れることになった。二人とも、京都大学には退学届を出していた。指導教授は大変驚いていたが、引き留めることはなかった。二人は、真面目に修行に励み、結婚して、幸せな家庭を築いた。今では、ローカル新聞でも取り上げられるほど有名な、宮大工夫婦になっていた。

(完)

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