「蒸留酒数」Schnapszahlen(シュナップス・ツァーレン)

 蒸留酒は、der Schnapsで、男性名詞である。Schのコンビネーションは、「シュ」と発音する。「数」が、女性名詞のdie Zahlで、Zahlenは複数形である。最初のz字は、「ツ」と発音し、母音の後のhの文字は、その母音を長母音化するものと理解すれば、よろしい。「佐藤」という名前をローマ字化した場合、Satoではo文字の長音化が記述されないので、わざと、Satohと表記するのと同様である。

 さて、「蒸留酒数」とは何か?日本語では、いわゆる、「ぞろ目」という数字である。つまり、二桁以上の数字で、それぞれの桁に同じ数字が出てくるケースである。たとえば、11、222、4444などと言った数字である。これを英語では、repdigit、repeated digits、「繰り返された数字」という。

 では、ドイツ語ではどうしてこれに「蒸留酒」が出てくるのか。それには、二説あるようであり、第一説は、さいころ遊び、或いは、カードゲームと関係があると言う。カードゲームなどは3人とか4人とかが、ある居酒屋の常連客となり、曜日と時間帯を決め、座るテーブルも決めて、集まる。そして、申し合わせをして、ゲームで得た得点を足していく時に、たとえば、22、44の数字が出た時に、その数字を出したプレーヤーが、テーブルの一同にSchnaps蒸留酒を一杯おごるという決まりを作ったことから、ぞろ目の数字のことをSchnapszahlと呼ぶようになったのであると言う。

 もう一説は、上の説とも関係があるのであるが、Schnapsを飲み過ぎて、酔っ払い、そのせいで数字が二重・三重に見えてきて、2のものが、22や222に見えることから「蒸留酒数」という呼び方ができたというのである。2のものが、222に見えたら、これは、即、ゲームを中止した方がよいであろう。

 Schnapsについては、実際、筆者もある居酒屋で似たような経験をしたことがある。その時は、カードゲームをした訳ではないのであるが、ユースホステルに泊まりながらのドイツ旅行中であった。ユースホステルでベットを確保して、夕方、空腹であったので、ある中部ドイツの町の町なかに出た。ある居酒屋で、夕食にスープを「食べている」(ドイツ語ではスープは飲むものではなく、食べるものである)と、カウンターで4人組の男性がビールを飲んでいた。一人で居酒屋に入ってきたアジア人に興味が湧いたのか、時々こちらの方を見て、彼らはお互いに何かを話していたが、筆者がスープを食べ終わるのを見届けると、グループの一人がこちらに話しかけてきて、「あなたは、どちらから来たのですか?」と聞いた。筆者が「日本からです。」と答えると、色々聞いてきて、「なぜドイツに来たのか?」などと話が弾む。その内に、「じゃ、こっちに来ないか?」ということになり、筆者もカウンターに行くと、一人がバーキーパーに「じゃ、ワン・ラウンドね。俺のおごり。」と言う。一同が「Prosit!プrローズィト:乾杯!」と言って、ビールを飲み始め、一同が大体ビールの一杯目を飲み終えた頃、さっきの男性がバーキーパーに目配せをしたのか、Schnapsが出てきたのである。

 ドイツで蒸留酒というと、中部ドイツ以北では大体Kornコルンである。Kornとは、本来は「穀物」を意味するが、蒸留酒としては、ウォッカのように無色・透明で風味なしの、アルコール度数32度以上の、小麦やライムギなどの穀物を原材料としたSchnapsである。飲むためのグラスは5㎝ぐらいの高さの「短い:kurzクrルツ」グラスなので、場合によってKornなどのSchnapsは、「Kurzeクrルツェ」と呼ぶ。言葉が物語る通り、ロングドリンクとは真逆なので、Ex:エクス、一気飲みである。

 おごられたら、おごり返すのが「渡世道」の習わし。「じゃ、次のラウンドは俺の番!」ということになり、結局は、一同が五人であったので、ビールとKornをそれぞれ5杯ずつ飲むことになった。これには、アルコールには弱い方ではない筆者も、「世界」が回りはじめ、とりあえずは立った姿勢を保ちながらも、ようやくユースホステルのベットに辿り着いて、翌朝まで熟睡した次第であった。もちろん、筆者は、翌日は、「雄ネコ」持ちであった。雄ネコをドイツ語でKaterカーターというが、別の意味で、二日酔いのことを言うのである。

 では、話を「ぞろ目」に戻すと、ドイツでは、とりわけよく日付にそれを見る。たとえば、2022年2月2日をドイツでは、真逆に、02.02.2022と表記する。これにドイツ人は、Schnapszahlを見るのである。前回、前々回の投稿では「マリアの光のミサ」と題して、2月2日の民俗的、宗教的意味合いを書いたのであるが、実は、この日はぞろ目のラッキーな日でもある。こういう「ぞろ目」のラッキーな日は、日本で言えば、大安吉日なので、結婚式の日となり、普通であれば、市の戸籍局や教会は結婚するペアが次から次へと誓いを述べ合う日になる。

 という訳で、今日は、できるだけ2の数字を並べようと、タイミングを見計らって、投稿を上げた。2022年2月22日22時22分、皆さんにもどうぞ幸あれ!

(追記)
 結婚式の日取りに「蒸留酒数」の日を選ぶ理由は、何もそれが幸福を齎すだけではないようで、2022年2月22日などは、結婚記念日として忘れにくいからであるという。誕生日と併せて、もし結婚記念日を忘れると、ドイツでは、少々大げさであるが、離婚の理由になるのである。という訳で、日本人男性諸君、ドイツの方と結婚する場合はどうぞ覚悟を決めてなさって下さい。
 
 それからもう一点。年月日の表記が、ドイツでは、日本と真逆で、2022年2月22日であれば、22.02.2022となることは、上述した通りであるが、これを後ろから読むと、前から読むのと同様の年月日になる。名前で、Annaを後ろから読んでもAnnaとなるのと同じ現象である。この現象を、Palindromパリンドローム、回文という。日付で、前回パリンドローム数になったのは、12.02.2021であった。次回は、03.02.2030であると言う。縁起を担ぐ方は、それでは、結婚はこれから約8年待ってのことと、こちらもどうぞ、お覚悟をお決めください。

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